移民による世界的な海外送金の現状についてのTED動画

ディリップ・ラーサ: 海外送金は世界経済の隠れた力

2013年に国際移民が家族や友人に送金した金額は4130億ドルにのぼり、これは世界の開発援助資金の合計(約1350億ドル)の3倍に相当』するという。その海外送金の現状、受け取り国の効果、改善案などについて、自身もインドの農村からアメリカへの移民であるという経済学者によるTEDスピーチ。とても興味深い内容だった。

海外送金は受け取り手にとっては国内経済に左右されない資金であり、その用途は食糧・生活必需品の購入や教育、住宅、医療費、事業への投資などに使われ、緊急時には送金額も増える傾向があり一種ぬ保険のような役割を担っている。ネパールでは貧困層減少の大きな要因ともなったという。ただし国・地域ごとに例えば国内情勢の不安定さや管理体制の脆弱さなどによって送金コストが違うため、送金コストが高まるほど、正規のルートを通さず、闇ルートを辿ることにもなる。そこで、千ドル以下の少額送金に関する規制緩和、送金業者と郵便局・銀行との独占的契約を禁止して自由競争を導入することによるコスト削減、大規模非営利団体による低手数料での世界的な送金プラットフォームの構築などを提案している。

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フィリピンにおける海外送金のインパクト

海外送金に関して、少しCiNiiで論文を探してみると槙太一論文「OFW,海外送金とフィリピンの経済発展」でフィリピンの例を元に海外送金の影響について分析されていた。

同論文によれば、フィリピンはインド、中国、メキシコに次ぐ海外送金受取国で、海外フィリピン人労働者(2007年の数値で873万人)による送金額は2008年で7306億ペソ(約164 億米ドル)で名目GDPの8.9%に上る。多額の資金流入は国内需要を下支えし、東アジア通貨危機下の経済悪化でも国内消費を安定させ、国際収支の改善にも少なからず影響があった。また、送金は高等教育の費用に使われるなど人的資本への投資効果も高い。

一方で、労働力の海外流出や、産業の空洞化、送金が生産・投資へ向かわず消費される一方になることなど負の影響も懸念されている。フィリピンで人口の一割にも上る海外流出が起きているのは一つには爆発的な人口成長に雇用が追い付いていないこと、第二に雇用の少なさに対して高等教育の比率が高いこと、第三に主要受入国でフィリピン移民社会が形成され、人的資本が形成されていることなどが挙げられている。海外送金が生活を支え高等教育を可能としながら国内に職が無く、受入対象国で人的ネットワークが形成されているので移住しやすい。

また、海外送金は受入国にオランダ病的な影響があることが実証されているという。オランダ病では、天然資源の発見で製造業から労働力が移転して製造業が衰退、労働集約的なサービス業がそれに取って代わり、製造業の衰退とサービス業の隆盛は非貿易財価格を引き上げ、国内物価が上昇、国際収支を悪化させる。エルサルバドル、ラテンアメリカ諸国、ヨルダンなどで海外送金が動揺の影響を与えていることがわかっているという。また、『海外からの送金が単純な所得移転であり,生産的な設備投資,研究開発投資,人的資本投資に向かわなければ,将来の所得上昇,つまり経済成長は実現しない』ため、国内での雇用増に向かわなくなる。

ミクロでの好影響(個々人の生活保障、資金調達、教育等人的資本への投資)とマクロでの悪影響(産業の空洞化、経済成長の抑止的効果)とが相補的に起きるのが海外送金をめぐる経済学の特徴のようで、短期的には発展途上国の国内経済・社会に良い影響を及ぼすが長期的にはその効果は打ち消されていくことになるようだ。しかし、動画で語られているように日々生活の危機にある貧困層にとっては非常に重要なライフラインであり、海外送金の諸問題は解決されていかなければならない、と思う。

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