シャーマニズムとは何か、よくわからない

シャーマニズムがよくわからない。いくつかの宗教学の入門書の知識と、例えば琉球・南西諸島のユタ、東北のイタコ、卑弥呼などに代表されるような古代の巫女、アメリカ・インディアン、アフリカの呪術師、アボリジニ、ブードゥーなどを想起した一般的なイメージを持っている程度なので、最近(2014年)出たばかりのコンパクトなシャルル・ステパノフ&ティエリー・サルコンヌ著「シャーマニズム(「知の再発見」双書)」という本を読んでみたが、よりわからなくなった。

シャーマニズムとはなにか。「平凡社 世界宗教大事典(1991年)」にはこうある。

『通常、トランスのような異常心理状態において超自然的存在(神霊、精霊、死霊など)と直接に接触・交流し、この間に予言、託宣、卜占、治病、祭儀などを行う人物(シャーマン)を中心とする呪術・宗教的形態である。』(P851)

もう少し端的な説明として、脇本平也著「講談社学術文庫 宗教学入門(1997)」では、『神霊存在が特定の人によりつくという信仰を中心に展開される宗教現象』(脇本P160)とされている。これは宗教的自己を霊魂の中に見る自己即霊魂という見方から、『人間のみならず、ありとしあらゆるものが自分自身の霊をもつと信じられる』(脇本P160)アニミズム的世界で、『人生万事は霊と霊との交渉関係として解釈されること』(脇本P160)から生じるのがシャーマニズムだとされる。

「シャーマン」という言葉は、もともとシベリアに住むエヴェンキ族の言語(エヴェンキ語)に由来し、ロシア語にとり入れられたあと、1699年にフランス語に導入された』(ステパノフ&サルコンヌP15)。サンスクリット語(仏教由来)説、ペルシア語説もあったが現在はツングース族の一つエヴェンキ族の言葉が由来であることが定説になっている。(佐々木 宏幹2010)

何にしろ現在、人類普遍的な宗教現象としてシャーマニズムは解釈されているわけだが、元々はシベリアの原始宗教と考えられてきた。この転機は1950年にミルチア・エリアーデが発表した「シャーマニズム―エクスタシーの古代技術」で、『シャーマニズムにおいて、エクスタシー状態による「旅(トリップ)」は、古代文化のさまざまな神秘的技法に近いことから、根本的で「古代的」なものだとエリアーデは考え』(ステパノフ&サルコンヌP129)、1964年に英訳が発表されると一気にシャーマニズムという概念が浸透した。日本でもまず、民俗学、巫女研究などの分野で広がったようだ。(佐藤 憲昭2009)

中沢新一は「シャーマニズム(「知の再発見」双書)」の序文で『いったん宗教の「原型」としてのシャーマニズムが取り出されると、その後はいたるところでシャーマニズムが「発見」されるようになった。(中略)本質や事情の違うものまでも、なにもかもをいっしょくたにして呑み込んでしまう魔法のポケットのようなものに、「シャーマニズム」もなりかかってしまった』と「シャーマニズム」の曖昧さを指摘するが、このような「魔法のポケット」の面だけではなく、学問的には地道にシャーマニズムを巡る議論が積み重ねられてきてもいる。

佐藤 憲昭2003によれば、シャーマンがトランス状態で神霊と交流する手法としてエクスタシー(脱魂)とポゼッション(憑霊)があるが、そのトランス、エクスタシー、ポゼッションの関係として、当初、以下の6つの見解があったという。

『第一は、トランス(通常意識の例外状態)の内容を意味する二つの型としてエクスタシー(脱魂)とポゼッション(憑霊)を捉えようとする見解、第二は、エクスタシーの概念のなかにトランスとポゼッションが含まれるという見解、第三は、真性シャーマンの特質はエクスタシー(脱魂)であるという見解、第四は、エクスタシーとポゼッションを等しく「異常心理状態」を意味する語と解する見解、第五は、エクスタシー(茫然自失)の概念の中に依憑や超越(トランス)が含まれるという見解、しそして、第六は、エクスタシー(茫然自失)、トランス(人格変換)、ポゼッション(憑依)などの語を使用してシャーマンの儀礼に見られる心理的・意識的状況を説明しようとする見解』(佐藤 憲昭2003)

これが七十年代半ばから整理されて、『シャーマンが事故の魂を身体から離脱させて、天上界や地下界などの超自然的領域に飛翔し、そこに在す神霊と直接交流をする』=「エクスタシー(脱魂)」と『シャーマンが神霊を自己の身体に招いて直接交流をする』=「ポゼッション(憑霊)」となった。脱魂型か憑霊型かが地域や文化によって変わってくるという特質が見出されてくる。これにシャーマンの特質としての霊媒予言者見者の3つ、シャーマン化する過程として召命型修行・学習型世襲型の3つと儀礼や社会的機能の特徴との組み合わせでの分析が行われるようになった。

他方で、エリアーデによる宗教的原型としてのシャーマニズムは主に米国で1970年代からニューエイジ運動に大きな影響を与えてインドやネパール、ネイティブアメリカンなどへの憧れを呼び覚まし、彼らを自分探しの旅に赴かせた。シャーマニズムをキリスト教の啓示に似たものと捉え自分自身の発見を目的とする。また、『民主主義の理想から着想を得たネオ・シャーマニズムは、学べばだれでもシャーマンになれると主張している』(ステパノフ&サルコンヌP98)

宗教学のモデルとしてのシャーマニズムと精神運動のモデルとしてのシャーマニズムとが表裏一体になって発展してきたことで確かによくわからないものになってきたようだ。

そんなシャーマニズム研究の大きな転機になったのがソ連邦の崩壊だった。二十世紀、無宗教をテーゼとする共産主義体制の支配下に置かれた北アジア・中央アジア諸民族のシャーマニズムは宗教弾圧に晒された。多くのシャーマンが処刑され、宗教的伝統の放棄が強制されて少なからずシャーマニズムの伝統は絶えることになった。ところが、1991年、ソ連邦が崩壊したことで、少なからずシャーマニズムの伝統が復活、また、共産主義体制下で調査もままならなかったシャーマニズムを始めとする伝統文化の研究が一気に進むことになった。これは以前『「スキタイと匈奴 遊牧の文明 (興亡の世界史)」林 俊雄 著』でも紹介したように考古学、人類学全般において共通することらしい。進歩主義の具現化としての体制が崩壊することによって学問の進歩がもたらされる、というのはアイロニー以外の何物でもない。

そうして旧ソ連地域のいわゆる本家本元のシャーマニズム研究が進むと、今度はシベリア・中央アジアのシャーマニズムが他の地域と大きく違うことがわかってきたようだ。ということで、シャルル・ステパノフ&ティエリー・サルコンヌ著「シャーマニズム(「知の再発見」双書)」では、シャーマニズムを北アジア・中央アジア特有の宗教としてその特徴を記述している。シベリア固有の原始宗教から人類普遍の宗教モデルとなり、再び北アジア・中央アジア特有の宗教へと説が提示されてきていて、ほら、もうこれわけがわかんねえな、でしょう?

シャルル・ステパノフ&ティエリー・サルコンヌはこう指摘している。

『現代の欧米では、シャーマニズムを霊的な側面からだけ見て、その源を人類の起源にまでさかのぼる傾向がある。そして自然と人間とのあるべき関係について多くの知恵や世界観をもつシャーマニズムは、一種の原始的な神学と認識されている。しかしそのようなとらえかたは、シャーマン自身の肉体や、儀礼用具とシャーマン自身の密接な関係が、シャーマニズムでは中心的な役割を果たしていることを無視している。
シャーマンが、自分たちの社会の外にいる人びとに向けて教義をつくることはない。シャーマンの儀礼は、諸存在間の力の差異に焦点をあてたもので、普遍的な宗教というより、その社会の独自宗教だといえる。』(P16)

北アジアのシャーマニズムの歴史は意外に新しく、十世紀ごろアルタイ山脈のチュルク系民族の間で誕生、以後チュルク系諸民族やモンゴルの侵攻にともない中央アジアに拡大しスーフィズム(イスラーム神秘主義)と混交してイスラーム化していった。シャーマニズム的宇宙観とイスラーム的宇宙観との融合、イスラームの中にシャーマニズム的儀礼がとり入れられるなどのシャーマニズムとスーフィズムのシンクレティズムは世界史的にも重要で、イスラーム化したチュルク系民族がユーラシアを席巻し、オスマン帝国(十三世紀~1922年)にいたる強大なトルコ系イスラーム国家の成立へとつながっていく。

北アジア・中央アジアのシャーマニズムが宗教モデルとしてのシャーマニズムの一例なのか、宗教モデル化されたシャーマニズムと明確に違うものなのか。シャルル・ステパノフ&ティエリー・サルコンヌは論を展開することなく、北アジア・中央アジアのシャーマニズムを描くことだけに終始しているので、確かに手堅いとは思うのだが、「シャーマニズム」とはなんだろうか、という疑問に対する答えは見えない。個人的には日本の巫女信仰に興味があるのでもう少し色々と調べてみようとは思う。シャーマニズムってよくわからないな。

参考書籍・論文
・シャルル・ステパノフ&ティエリー・サルコンヌ著「シャーマニズム (「知の再発見」双書162)
・山折哲雄編「世界宗教大事典
・脇本平也著「宗教学入門 (講談社学術文庫)
・佐々木 宏幹論文(2010)「楠正弘著, 『仏教信仰と民俗信仰-シャマニズム論をめぐって-』, 創文社, 二〇〇九年七月二〇日刊, A5判, viii+三一七+四頁, 六五〇〇円+税
・佐藤 憲昭論文(2009)「櫻井徳太郎博士のシャーマニズム研究について
・佐藤 憲昭論文(2003)「「佐々木宏幹先生のシャーマニズム論」に関する覚書

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