「甲賀忍法帖」山田風太郎 著

鬼才・山田風太郎の忍法帖シリーズ第一作「甲賀忍法帖」を読んだ。山田風太郎作品はこれまで未読で、子供の頃に観た「伊賀忍法帖」「魔界転生」の映画のエロティックでおどろおどろしくも息をつかせぬ超展開の印象が強かったが、あらためて「甲賀忍法帖」を読んでみると、子供の頃に衝撃を受けた映像体験と同様の異形の面白さを本作から受けて、夢中で読むことが出来た。

お話は非常にシンプルである。時は慶長十九年、三代将軍を竹千代にするか国千代にするか悩んだ徳川家康は、かねてから四百年の長きに渡り争い、服部半蔵の仲裁によて停戦状態にある伊賀と甲賀の忍者一族同士をそれぞれ竹千代方と国千代方に割り当てて戦わせ、勝った方を後継者とすることにした。かくして、人智を超えた忍者バトルがはじまる、というものだ。

凄いのは、その忍者バトルの奇想天外さである。登場する忍者の使う忍法は、手裏剣とか水遁の術とかいったものではない。敵の血を吸って対象をミイラ化させて殺したり、塩を浴びると溶けて流体に変化したり、興奮状態になると毒の息を吐いたり、驚異的な治癒再生能力で何度殺されても蘇ったりと、もはや超能力者や怪物・妖怪のたぐいだ。「忍法」の名の下に、「忍者」のイメージをSF・ファンタジー的に際限なく拡大させ、独特の世界を成立させている。

あとは引き裂かれた悲恋あり、巻物をめぐる情報戦あり、異形の忍者同士の手に汗握る対決あり、忍者の意地と野望と叶わぬ思いと影の存在ゆえの悲哀とが実に絶妙にミックスされて、歴史を知っている人ならまぁ勝敗は予想できると思うが、その結末に至るまでの二転三転する勝負の行方が非常にスリリングに描かれている。

個人的には、伊賀は薬師寺天膳・朱絹・雨夜陣五郎、甲賀は陽炎と霞刑部・如月左衛門が好き。ラスボス扱いの天膳さん、ただの悪役ってわけでもなく、伊賀の勝利のために色々なところに気を使って苦労人感があって、さらにそのチートな能力ゆえの自負心と忍者としての気概もあって、とても人間味あって憎めない。陽炎は影のヒロインでほんと切ない。霞と如月はどちらも惜しいところまで行ったが最後の最後でやられた。朱絹は技の派手さのわりに結構かわいいところがあって、鵜殿丈助との掛け合いが面白い。雨夜は技がダイナミックすぎて弱点の方が多かったな(笑)朧と弦之介はともに段違いの能力ゆえ作劇上能力を封じられざるをえないし、その能力解放がクライマックスになって、それがまた最高にいい展開だった。

あ、お気づきでしょうが、登場人物の名前が艦これ、つまり自然現象や月名・地名を元にした軍艦名と大分かぶっているあたりもにやりとさせられるところです。

甲賀方
甲賀弾正/甲賀弦之介/地虫十兵衛/風待将監/霞刑部/鵜殿丈助/如月左衛門/室賀豹馬/陽炎/お胡夷

伊賀方
お幻/朧/夜叉丸/小豆蠟斎/薬師寺天膳/雨夜陣五郎/筑摩小四郎/蓑念鬼/蛍火/朱絹

忍者たちの異能の理由を描くために、山田風太郎は「五体満足な人間が少ない」忍者の里の人びとの異形さを印象づけている。主人公甲賀弦之介は叫ぶ。

「甲賀は伊賀に勝つために、伊賀は甲賀に勝つために、たがいに内部で血と血をかけあわせ、不可思議の忍者を生み出そうとする。そのための犠牲者があれだ。愚かとも恐ろしいともたとえるに言葉もない!」

相互の首領の子同士の結婚を間近に控えて、その血の因縁から解放されるかもしれない光が見えていた時期の、権力者の都合によって対決を余儀なくされ、希望が絶望にかわり、それゆえに死闘がより深みを増していて、このあたりの物語の構成は見事だ。

個々の忍者の人智を超えた能力の裏付けとなる説明もあまり理屈っぽくてもいけないし、あまりに突拍子無くてもいけないということで、虚実のバランスが絶妙だ。「人体を組成する物質の六十三%は水」なんだから人体が流体化してもおかしくないし、人間には自然治癒現象があるからそれが高速に発生してもおかしくないし、「ある種の精神感動が血管壁の透過性を昂進させ、血球や血漿が血管壁から漏出する」というウンドマーレーなる怪出血現象を自らの意志で起こすことが出来てもおかしくない。詭弁やら三段論法やらを使って科学的知識と事実と虚構をいかに組み合わせてこじつけると創作上必要最低限の説得力を持たせることができるか、そのお手本がずらりと並んでいる。民明書房から出したい。

あらためて、忍法帖シリーズ第一作であり、後の映画・アニメ・漫画・時代小説・大衆小説に与えた影響は計り知れない、娯楽小説の原点であると同時に一つの完成形とでも言うべき作品で、実に素晴らしい。ぜひ、これから「伊賀忍法帖」「魔界転生」を始めとして他の忍法帖シリーズを読んでいこう。

ところで、「バジリスク~甲賀忍法帖~」という本作を原作とした漫画やアニメもあるそうで、タイトルは確かに聞いたことあったけど、「甲賀忍法帖」が原作とは知らなかった。また、非常に評判が良いようなので、機会があれば漫画も読んでみたいしアニメも観てみたい。

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