「猫的感覚 動物行動学が教えるネコの心理」ジョン・ブラッドショー 著

ネコって何だよ(哲学)・・・に動物行動学の研究者が最新の研究をふまえてわかりやすくかつ幅広く網羅して解説したネコを知るための決定版的な一冊。キウイフルーツの根がマタタビと同じ効果があることとか、数えきれないほどの発見があって読みながらへぇ~!を連発していた。

第一章から第三章まではネコの進化と人間社会におけるネコの歴史が描かれ、第四章から第六章では身近過ぎるがゆえについついヒトの感覚で捉えてしまいがちなネコとヒトの違いについて様々な身体的特徴から脳の構造、そして思考や感情まで解説、第七章から第九章ではネコ同士、ネコとヒトとの関係性について孤独を好みがちに見えるネコの社会性に関する最新の研究動向が紹介、第十章と第十一章ではネコの未来について展望される。

本書によれば、ネコ科の動物は千百万年前に中央アジアに生息していたプセウダエルルスに遡る。プセウダエルルスは世界中に広がってアジアでライオン、トラ、ジャガーなどの大型ネコへ、北アメリカでボブキャット、オオヤマネコ、ピューマへ、南アメリカでオセロットやジョフロウネコへ、アフリカに渡って中型ネコとなった。現在のイエネコの祖先は八百万年前に北アメリカで生まれたと考えられ、その後アジアでヤマネコ、スナネコへと進化し、約一万年から一万五千年前にヤマネコと分かれてイエネコが誕生した、と考えられている。

人間に飼われていた最古の記録は紀元前一五〇〇年頃のエジプトで、それに先立って紀元前七五〇〇年頃、人間が移住し始めた時期のキプロス島で最初のネコの遺骸が見つかっている。家畜として飼い慣らされたのはこの約一万五千年前から三千五百年前の間のことだと思われるがいつのことかはわかっていない。ネコはまずネズミなどの害獣駆除係として家畜化されるようになり、やがてペットとしても愛されるようになった。エジプトではさらに、ネコに霊的・宗教的な意味を見出して信仰の対象とされた。この”エジプト人がネコ好き過ぎたこと”が歴史を大きく変えていく。エジプトから地中海へとネコ飼いの文化が広がり、フェニキア人やローマ人の船乗りが輸送中の船荷をネズミから守るためにネコを乗せ、欧州からインド、さらには東南アジアまでネコが拡大していく。一方でエジプトのネコ信仰は各地に広がりつつ、キリスト教の拡大に際して異教・異端として捉えられ、中世ヨーロッパでは呪術や魔女とネコは結びつけて考えられて迫害されることになる。

イヌは生後七週間目から十四週目の間に人間に毎日撫でられることで人間と親密になるが、ネコはもっと早い時期に人間と接さないと懐かせることが難しい。ネコの発達は四段階に分けられる。出産前の時期、生後二週間半までの新生児期、生後三週間目からの社会的時期、生後八週間目からの幼齢期で、幼齢期は七ヶ月~一歳までに終わる。様々な実験からこの生後三週間目から人間に触られたネコは人間に懐きやすいが七週目を過ぎるともう難しいようで、九週目になって初めて人間と触れ合ったネコは人間に警戒心を抱くようだ。ペットとしての適性を持つか、人間に懐かず野良ネコとしての道を歩むかはこの時期にすでに決まるのだという。「人間との交流は遅くても生後六、七週間のうちに始めなくてはならない」(P143)。

ネコの目は、構造的に昼間はよく見えていないが夜目が効く。ひげや体毛など触覚から集まる情報とネコ耳の内耳にある前庭器官が抜群の平衡感覚をもたらし、人間の三倍の嗅覚受容体は、実際に区別しているかは別として理論上だが、おそらく一〇億種類の臭いを区別することができる。嗅覚についてはもうひとつ、ネコを始めとした多くの――霊長類を除く――ほ乳類は鋤鼻器官(VNO)と呼ばれる第二の嗅覚期間を持っている。通常の嗅覚とVNOとを使って仲間や他の生物を見分け、コミュニケーションを取っている。「ほ乳類の嗅覚受容体はシステムはいささかオーバースペック」(P160)で、人間は嗅覚については他のほ乳類に大きく劣るが、その嗅覚と引き換えに一〇万色以上ともいう色の識別能力という抜群の視力を持ち、視力の発達は脳の発達の相乗効果をもたらした。

脳科学の研究から「ネコも人間と同じような感情を生みだすのに必要な精神的機構を持っている」(P171)ことがあきらかになり、その研究が進んでいる。感情と言っても人間のような複雑なものではなく瞬間的で単純なものだ。「ネコの行動を説明するためには、ネコは喜び、愛、怒り、恐怖を感じることができると認めねばならない」(P202)。ネコの感情と訓練による学習能力との関係についても様々な実験と研究が述べられているので面白い。「ネコの感情的側面は、ネコを中傷する人が主張する以上に複雑だが、熱心なネコ愛好家が信じたいと思うほどには精巧ではない」(P207)。

ネコの家族は雌ネコと子供たちが中心の母系家族で、父の雄ネコは子育てに関与せずコロニーを外敵から守る用心棒的な役割のようだ。また、エサが少なくなれば雄ネコは群れから離脱して単独行動を余儀なくされる。互恵行動と血縁選択による協力関係がネコ社会の原則で、他の家族との交渉はなく、また血縁関係になくとも、例えば野良ネコ同士が群れを作るように、生き延びるために一時的な協力関係を結ぶ。基本的には利己的な生き物である。このような社会的関係を形成するために生み出されたのが尻尾を立てる、とか体を相手にこすりつけるといったお馴染みの特徴的な行動だと考えられている。

ネコは飼い主である人間をどう捉えているのかは謎だという。諸説あるが「ネコがわたしたちをどう見ているかに対して、まだ決定的なことは断言できない。ネコはわたしたちを代理母として、さらに優位に立つネコとして考えている、というのがとりあえず妥当な説明だろう」(P261)。ゴロゴロと喉を鳴らすというネコに特徴的な行動も甘えているわけではなく、満足を伝えているわけでもなく、お腹が空いたとか対象に動くなと命じているとか何らかの要求を行っているだけのようだ。飼い主を舐める理由もにおいづけという説があるものの解明されていない。しかし、飼われている家は飼い主も含めて縄張りと考えるのは確かに目からウロコではある。

ニャーという鳴き声も家畜化の過程で発達した特徴だ。ネコは状況に応じて鳴き声を変えることができるので、人間が好む音に変化させた可能性があり、確かに「特定の状況で効果を発揮する鳴き方」(P257)を学習しているようで人間の注意を惹く技術かもしれないらしい。状況と要求に応じてニャーを使い分けることで、飼い主との意思疎通を図ろうとしている、つまり「ネコと飼い主はじょじょにお互いが理解できる”言語”を開発」(P257)しているわけで、「ネコと飼い主はお互いを知らず知らずに訓練しているのだ」(P257)。

ネコはいくらペット化したといっても、野生のハンターとしての特徴を忘れたわけではない。ペットのネコでも二世代あればまた野生化するそうだ。むしろ狩りの習性は常に持っていて十分なエサと栄養が確保出来ないと狩りのために飛び出していくので、ネコに不必要な狩りをさせないために飼い主として十分な量と質のキャットフードを与えることは重要だという。一方で与えすぎると肥満になる。また、遺伝的に人間になつくネコとそうでないネコとの差がある一方で、去勢されているのは前者の人間になつくイエネコたちだから、繁殖についてのビジョンが無いまま去勢していくと、向こう数世代は大丈夫だがその先、人間を信頼するネコが非常に少なくなり、人間と相容れない野生のネコたちの方が優勢になっていくかもしれない、という指摘は確かになるほどど思う。野良ネコによる希少生物への被害なども含めて総合的に、人間とネコの関係を見直す必要性があることが強く指摘されているので、とても考えさせられる。

参考までに、本書(P272-273)から「室内飼いのネコを幸せにしておくために」必要な11項目

室内飼いのネコを幸せにしておくために

  • 歩き回れるスペースをできるだけ与える。
  • 目立たない場所にトイレを置く。他のネコから見られる窓際は避ける。
  • 可能なら、バルコニーなど、ネコのために囲われた外の部分を作る。ネコは新鮮な空気を必要としているわけではないが、戸外の風景、音、においはネコの興味をかきたてる。
  • 室内に、二種類のベッドを用意する。ひとつは床に置かれた屋根と三方に壁があるもの、たとえば、横向きに置いたダンボール箱。もうひとつは高い場所に用意するべきだ。天井に近いが簡単に行け、家の入り口か窓の外がよく見える場所。すべてのネコが両方を使うわけではないが、大半がどちらかにいると安心感を覚えるだろう。
  • 少なくともひとつは爪研ぎを与える。
  • 一日に何度かネコと遊ぶ。獲物に似たおもちゃでのゲームは、ネコの狩りの衝動を満足させるだろう。とりわけネコが窓から鳥を見ているなら、いっそう効果がある。ネコの興味を維持するために、頻繁におもちゃを変えること。
  • 側面に適切な大きさの穴が開き、そこからドライフードが出る仕掛けのペットボトルで、何時間も熱心に遊ぶだろう。もっと複雑な装置も販売されている。
  • 新鮮なネコ草を与える。多くのネコはこのカラスムギの苗を噛むのが好きだ。
  • えさを与えすぎない。室内飼いのネコは、戸外に出るネコよりも肥満になるリスクがとても大きい。
  • まだネコを飼っていないなら、きょうだいネコを二匹飼うことを検討しよう。二匹はいい相棒になれるだろう。
  • 室内飼いのネコがすでに一匹いるなら、別のネコを仲間として迎え入れる前に計画を立てておこう。一度も会ったことのないネコ同士は、限られた空間を共有することに自然に適応することはできない。

というわけで、ネコ好き、ネコの飼い主にはとても役に立つし様々な発見がある一冊だと思います。

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