「排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで」デイビッド・ウォルトナー=テーブズ著

ウンコの話を恥ずかしげもなく喜んでするのは子供たちで、大人たるものおおっぴらにウンコの話をするものではない・・・というのは様々な社会で概ね常識とされている見方だろう。しかし、ウンコはヒトが生物である限りにおいて、毎日のように直面させられるものだ。

そして、人類というおおきな括りで俯瞰すると、排泄物とどう向き合ってきたかが、人類の文明史を推し量るパースペクティブを提供する。さらに視野を広げて生物と排泄物との関係を捉えようとするなら、まさに排泄物を通じた情報・エネルギーの交換は生態系の複雑性を表すことになる。そんな、排泄物が動かしてきた人類、生態系、文明について俯瞰できる、ベストセラータイトルをもじるなら「ウンコはどこへ行った?」「これからのウンコの話をしよう」といったテーマに要約できるだろう、クソ面白い一冊。

目次
序章  フンコロガシと機上の美女
第一章 舌から落ちるもの
第二章 糞の成分表
第三章 糞の起源
第四章 動物にとって排泄物とは何か
第五章 病へ至る道――糞口経路
第六章 ヘラクレスとトイレあれこれ
第七章 もう一つの暗黒物質
第八章 排泄物のやっかいな複雑性とは何か
第九章 糞を知る――その先にあるもの

著者デイビッド・ウォルトナー=テーブズは「国境なき獣医師団」創設者で世界的な疫学者。カナダ・グエルフ大学名誉教授。

「馬糞と牛糞の、ウンコと肥料の区別がつかない人は、おそらく原子力の話をしないほうがいい。」(P17)という手厳しい一節は、アメリカンジョークの紹介に添えて述べられているものだが、本書を読めばその真意もわかるだろう。生態系の持続可能性の話なのだ。

研究者にとって排泄物はその複雑性ゆえに「やっかいな問題」なのだという。そこで本書では「言語の問題としての排泄物」「公衆衛生の問題としての排泄物」「生態学的な問題としての排泄物」という3つの視点から排泄物を考えている。

「排泄物とは、私たちが取り込んだ食物のうち体内で使われなかった部分のすべて、加えて腸内で繁殖した何億もの細菌、さらに加えて腸の内壁から剥がれ落ちた少なからぬ細胞である。もっと具体的に言えば、排泄物は肛門括約筋によって、それが離れていく動物に定義される。」(P22-23)

ウンコの歴史は古い。あたりまえだ。数十億年前、生物の誕生とともにあった。バクテリアが二酸化炭素を取り入れ酸素を排出するようになると、それに対応して酸素を取り入れ二酸化炭素を排出する別のバクテリアが登場した。何度かの滅亡と再生を繰り返しながら、やがて排泄物を相互にやり取りする仕組みを整えることで、生物は生態系を作り上げていく。動物や植物の誕生だ。

排泄物を通じたエネルギー・物質・情報の種を超えた交換と相互作用は生態系の維持に欠かせない。動物の糞は栄養源としてあるいは種子を運ぶ運び屋として、多種多様な植物の拡散と生存に貢献した。植物が光合成によって「排泄」する酸素は動物の生存に必要不可欠だ。動物の糞は「ある場所の環境を作るのに欠かせない構成要素」(P64)である。

一方で排泄物は感染症を拡大させる最大の要因であった。人類の歴史はまさにその感染症との闘いの歴史であり、排泄物と感染症にどう対処するかが文明化のプロセスでもあった。都市を築いて、生活を改善させ、排泄物を管理し、やがて医学の発展と公衆衛生の進展が、様々な伝染病を克服し、人類を繁栄させてきた。

しかし、二十世紀になると大都市化によって、病原菌もまた集中することになり、感染症の発生や急速な拡大のリスクが高まっていると著者は言う。

「人口と家畜数の爆発は、世界規模の急速な都市化(人間のウンコ産出の集中化)、農業における規模の経済の急成長(家畜のウンコ産出の集中化)、世界規模の貿易と往来(あらゆる形のウンコの広い範囲にわたる再配分)と相まって、尻から口への道をいくつも用意している。言い換えれば、私たちは排泄物の中にいる病原体のために新しい通り道を作り出し、それによって有効接触率を高めてしまったのだ。」(P94-93)

平均的な大人は一日120~150グラム、一年で55キログラムの排泄物を出すのだそうだ。そして1900年に16億人だった世界人口は2013年には70億人になり、人類は年間四億トンの人糞を生産している。また、家畜の数も人口の増加にあわせて爆発的な増加を見せ、2010年には家畜が産出した畜糞の合計は一四一億三六四五万トンに上るとされる。

現在、史上最大規模のウンコの集中大量生産体制が築かれており、様々なリスクがあることが本書で示されているが、ではその対処法はどのようにするのが良いか。自然に還れ的な理想主義ではなく、現在進行しているような都市化・農業の規模の経済は不可逆的なものだとして、具体的な施策を様々な点から考察している。一つはバイオソリッド化しての肥料転用、バイオガスなど化石燃料の枯渇を見据えてのエネルギー転用、その他排泄物の中の資源を使った様々な工業製品への転換などなど。排泄物との関係はこれからどうあるべきなのか、市民参加での知の向上もまた重要な論点として著者は挙げている。

「ホロノクラシ―」「パナーキー」「レジリエンス」といったキーワードを紹介しながら排泄物の持つ複雑性とどう向き合うか、ジョークを交えつつ軽妙な語り口で描いていて、知らないことだらけで様々な発見があり、クソ面白い・・・もとい、クソの面白さに触れて考えさせられる一冊になっている。

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