西欧の怪火伝承~ウィル・オ・ウィスプ、ジャック・オ・ランタンなど

原因不明の発火現象「怪火」にまつわる伝承は世界中に見られる。日本でも狐火や鬼火、不知火などとして知られるが、ここでは主に欧州の「怪火」にまつわる様々な言い伝えを簡単にまとめ。

「怪火」は「愚者の火(ignis fatusイグニス・ファトゥス)」と呼ばれる。その火についていくのは愚か者の所行だからである。「怪火」は大きく分けて「死の予兆」と「旅人を惑わす明かり」がある。前者は「人魂(コープス・キャンドル)」「ウィル・オ・ウィスプ」等、後者には「ジャック・オ・ランタン」等で、いずれも多数の伝説がある。

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「人魂(コープス・キャンドル)」

主にウェールズ地方と英国諸島で見られる死の予兆。死が迫っている人の家や場所で地上を上下に飛び回り蠟燭の火のような形をしている。アイルランドとイングランド北部では生霊の蠟燭とも呼ばれる。イングランドでは死者の魂についていくと言われ、ウェールズの伝承では青白い火は幼児の死を、大きな光は成人の死を、多数の火は大勢の死を予告するという。

ローズマリー・エレン・グィリー編「妖怪と精霊の事典」で紹介されているエリオット・オドーネルが収集した怪異現象集「幽霊の国の横道」(1911年)の人魂エピソードはウェールズのとある老婆が見た様々な怪火とその後の彼女の回りの人びとの死とが語られている。いずれもベッドからテーブルの上に光る蠟燭のような火で、数日のうちに近所の子供が死んだり、女中たちが死んだりしたことと結び付けられている。また、北ウェールズでも火の見えたその場所で数日中に人が死んだという様々な言い伝えが紹介されている。

「ウィル・オ・ウィスプ」

様々な罪人の幽霊で、この世を永遠にさまよう運命にある火であると言われる。欧州各地に伝承が残り、ドイツではイルリヒトという名で森の精または見えない葬列についている魂であるとされる。ネイティブアメリカンのペノブスコット族では火の悪霊と呼ばれて搾乳場で夜ミルクの上澄みをすくう車の輪の中で火の点いた指を廻す死の予兆の精霊であるとされる。

アイルランドの民話では、ウィリアム・ダフィーという男の伝承として語られる。ヘンリー・グラッシー編「アイルランドの民話」には二編収録されているが、概ね似た構成だ。

鍛冶屋で大酒飲みのウィリアム(ウィリー、ビル)・ダフィーという男が聖人を助けたことで三つの願いを叶えられることになり、第一の願いとしてウィリアムの大槌(トンカチ)を握った者はウィリアムの許可無くして離すことはできないこと、第二の願いは誰であれウィリアムの椅子に座ったらウィリアムの許可無くして立ち上がることはできないこと、第三の願いはどんな金でも一旦彼の財布に入ったらウィリアムが取り出すまで出ることは出来ないことを彼は願い、この願いの下劣さに聖人に愛想をつかされる。

金遣いの荒いウィリアムは悪魔を呼び出して七年後に自身の命を差し出すことと引き換えに巨万の富を得るが、果たして七年後、ウィリアムは言葉巧みに悪魔に自身の大槌をもたせ、大槌を離すことが出来ず鉄を打ち付ける作業を繰り返すことになった悪魔と、悪魔を解放するかわりにさらに七年の延長と富を得る。次の七年後、やはりウィリアムは言葉巧みに悪魔を自身の椅子に座らせて動けなくし、その交換条件でさらに七年の延長を、その七年後には、ウィリアムの裏を書こうとコインに化けた悪魔をウィリアムは財布の中に閉じ込めたとする伝承と、酒場の支払いで、悪魔に命を捧げる最後の一杯分として悪魔にコインに化けてくれといい、6ペンスに化けた悪魔を財布の中に閉じ込めたとする伝承があるが、ともかく3つの願いを巧みに使って悪魔を欺いた。

結局巨万の富すら使いきって一文無しになり、寿命を迎えたウィリアムは聖人からも悪魔からも拒否されて天国にも地獄にも行けずこの世をさまようことになった。地獄から追い払われるとき、強い酒を鼻に注ぎ込まれ鼻から火が噴き出し、この火がウィル・オ・ウィスプと呼ばれる怪火になったという。また別の伝承では石炭の燃えさしであったり、火付けの干し草であったりと諸説ある。

「ジャック・オ・ランタン」

ジャック・オ・ランタンは旅人を驚かしたり、道に迷わせたりする怪火の一つで、ハロウィーンのお祭りでおなじみになっている。

ジャック・オ・ランタンの伝承もウィル・オ・ウィスプのそれと非常に良く似ている。元はアイルランドの伝承で、ジャックという酔っ払いがハロウィーンの夜、酒場で酔いつぶれていると幽体離脱しそうになる。そこに悪魔が登場、ジャックは死ぬ前に一杯だけ飲みたいと懇願し、しかしもう手持ちが無いので悪魔に6ペンスに化けてくれと頼む。支払った後元の姿に戻ればいいということで悪魔は快諾するが、6ペンスに化けた悪魔をジャックは財布に閉じ込め一年間の猶予を悪魔に求めた。ジャックは心いれかえるつもりがずるずると以前の自堕落な生活に戻り、一年後のハロウィーンで悪魔が再登場する。ジャックは悪魔に林檎を薦め、悪魔が林檎の木にのぼったところで、木の幹に十字を刻んで降りられなくし、悪魔に再び譲歩を求めた。結局次のハロウィーンが来る前にジャックは死んでしまうが、自堕落な生活から天国にいけず、かといって悪魔に嫌われているため地獄にも入れず、悪魔から渡された石炭をカブに入れて灯火にしてこの世をさまようジャック・オ・ランタンとなったという。

アイルランド移民によってアメリカに伝えられたジャック・オ・ランタンの伝承は、アメリカで形を変えた。ジャックがある夜、十字路で悪魔に魂を売り渡し、その交換条件で七年の猶予期間を得たとするもので、七年後に悪魔が魂を取りに来た時、ジャックは悪魔の手を壁に釘付けにし、悪魔との契約を反故にするが、結局死んだ後天国にも地獄にも行けず、悪魔から火を一欠片投げられてジャック・オ・ランタンとしてこの世を永遠にさまようことになった。十字路で悪魔に出会うというモティーフはその後も様々な物語や映画などで頻繁に登場する。

ハロウィーンではくり抜いたカブやビートに蠟燭を入れて灯火として使うアイルランドの習慣を由来としてジャック・オ・ランタンが祭りに取り入れられ、またアメリカでアイルランド系移民がカブやビートの代用品としてカボチャを使ったことが十九世紀から受け継がれた。ハロウィーンでのジャック・オ・ランタンは死者の魂や死者から解放されたゴブリンを表しているという。

ちなみに頻繁に登場する七年の契約は英国の年季奉公の契約期間と一致しているから雇用慣習を反映した身近な伝承になっているのだろう。悪魔が契約内容を律儀に守っているからこその物語の面白さになっているわけで、現代日本を舞台に変えると曖昧な雇用慣行を反映して、悪魔に雇い止めされたり、契約内容と違う無理難題を押し付けられたり、もっと世知辛い内容になりそうでもあり、そんな想像をしてみるとよりブラックユーモア溢れる怪火伝承が生まれそうだ。

参考書籍
・ローズマリー・エレン・グィリー編「妖怪と精霊の事典
・ヘンリー・グラッシー編「アイルランドの民話
・ヤン・ブレキリアン著「ケルト神話の世界(上)(下) (中公文庫)」

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