【江戸時代の身分制度論】士農工商から身分的周縁へ

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2016年五月の初頭ごろだったか、Twitterで士農工商という表記が教科書から無くなっているという話が話題になっていた。そう。もう江戸時代の身分制を「士農工商」として表記することは退けられて久しいのだ。少なくとも一九七〇年代初頭に疑問が呈され、九〇年代にほぼ否定され、その結果として二〇〇〇年代半ば以降、教科書から消えはじめた。

かねてから近世身分制社会について個人的にまとめたいと思っていたので、いい機会と思い改めて研究書籍や論文を読み直したり、新規に関連文献を読んだりして一気にブログ記事としてまとめてみようと思いたったのが運の尽き。なんだかんだで書き終えるまで三か月ほどかかってしまい、かつ三万三千文字オーバーの超長文記事となってしまった。誰が読むんだ。

というわけで、長文を読みたくない人のための簡単なまとめ
・士農工商は職能分担を表す言葉で、社会通念として身分体系を意味するようになるのは十九世紀、江戸時代後期だが、一貫して制度を示す言葉ではなかった。
・江戸時代の基幹身分は兵農分離を前提として支配者層としての武士・朝廷・寺社、平人としての百姓・町人、賤民の三身分だが、身分制に含まれない周縁的人々「身分的周縁」が多数存在していた。
・江戸時代の身分制の成立は1670年代、キリシタン弾圧を契機として作られた年一回の「宗旨改め」が実態として運用されはじめてから。
・近世身分制は村や町などの地縁的共同体、イエなどの血縁的共同体、種姓イデオロギーに基づく血統、役の負担の種類、不動産や道具の所有の有無、職業、仲間や座などの共同組織、組合村や組合町などの社会的結合、公家や寺社・宗派を本所とした社会的編成、等々様々な社会関係の中で差別被差別の関係が決定された。
・身分制の周縁で蔑視されたり貧困に甘んじさせられた身分的周縁の人々の中にも強力な集団化を成し遂げて身分制社会で強く生きた例も多い。集団化の差が身分的差異とは別に相対的に社会的立場の強弱を決定した。
・身分的周縁とともに、身分的中間層として支配者と被支配者の間で支配を支える人々が存在していた。
・身分制社会の中で経済力を蓄え、事実上の社会的権力として君臨した大店・豪商と豪農層がいて、彼らの台頭と平人層の没落が同時に進行して格差社会化が進み幕藩体制を揺るがした。
・武士身分は金で買えた。同様に町人、百姓身分も金で失う。
・固定的な身分理解から柔らかい身分理解へという近世身分制社会観の転換が起きているのであって、士農工商がなかったからといって江戸時代に身分差別がなかったことを意味するわけではない。むしろ流動的な社会関係の中で差別・被差別の関係が複雑に張り巡らされた、より強固な身分差別社会であったことが明らかになってきたのである。

ほら、要点まとめただけでも長い・・・というわけで以下長文。

1章「士農工商」とは何だったのか
2章江戸の身分制度研究略史
3章近世身分制社会の成立
4章近世身分制社会の構造~武士、朝廷、寺社、町人、百姓
5章近世身分制社会の社会的権力と身分的中間層
6章賤民制と身分的周縁を構成する社会集団
終章柔らかい身分理解という日本社会史の新視点

第一章では日本の「士農工商」観の変化について、第二章では近世身分制度研究の研究史を簡単に、賤民の起源をめぐる近世政治起源説から中世社会起源説への転換、そして身分的周縁研究へという流れを描き、第三章では兵農分離、検地と刀狩り、キリシタン弾圧と宗旨改めによる戸籍制度の成立を通して近世身分制社会の成立を概観、第四章では近世身分制の主要身分のうち支配者層である武士、朝廷、寺社と中流層となる百姓・町人のアウトラインを、第五章では前半で身分制社会の周縁から事実上社会的権力として君臨する大店・豪商登場過程を描き、後半で支配機構の末端で武士でも平人でもない支配をささえる人々としての身分的中間層を紹介、第六章で身分的周縁としてえた・非人の賤民制と身分制社会下でおきた集団化の波についてまず描き、続いて身分的周縁の例として様々な宗教者の例を身分的上昇を遂げた神職とかつてのエリートから没落していく陰陽師、強力に組織化を進めながら解体していく虚無僧などを中心に紹介し、近世の身体障害者差別と障害者ながら高い地位を獲得しで独自の格式格差社会を作った盲人について、そして都市の身分的周縁となる日用(日雇い労働者)層について簡単にまとめている。

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