ソーシャル・ベンチャー(社会貢献を目的としたベンチャー)は何故、自己啓発・ロハスなどニューエイジ系に傾倒するのか

社会(ソーシャル・ベンチャー)というムーブメントを最近良く耳にする。利益の獲得よりも、社会変革を目的として株式会社を起業することで、最初耳にしたときはなかなか興味深い傾向だなと思っていたのだけど、どうも一般的に社会の変革のために!と言っているベンチャーの多くが自己啓発やロハス、スピリチュアリズムへの傾倒が強く見られていて、そういうところをよりどころにしていなければ、賛同しやすいんだけどなぁ、と残念な思いで見ていました。

で、先日、「女、京大生の日記」さんが社会起業家についてまとめておられて、とても興味深く読んだ。
社会起業家シリーズ1 – 女。京大生の日記。
社会起業家シリーズ2 – 女。京大生の日記。

今回参考にした二冊。

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)
社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)
斎藤 槙
概論 ソーシャル・ベンチャー
概論 ソーシャル・ベンチャー
神座 保彦

前者の「社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流」はソーシャル・ベンチャーの現状が良く分かる本で、後者の「概論 ソーシャル・ベンチャー」はさらに突っ込んでソーシャル・ベンチャーのマネジメントやファイナンスなど経営全般に関して詳述された本でした。特に後者はソーシャルベンチャーに限らず、ベンチャー企業全般にも通じる内容で超面白かった。

以下続きを読むからどうぞ

概論 ソーシャル・ベンチャー」(P23)
ソーシャル・ベンチャーとは、組織内に社会貢献のための社会貢献モデルとキャッシュフロー獲得のためのビジネスモデルを併せ持ち、社会貢献という目的を達成するために、社会起業家がその持てるビジネス・スキルを活用してマネジメントする組織ということになる。
したがって、ソーシャル・ベンチャーは、社会貢献モデルとビジネス・モデルを兼ね備えた組織モデルとなっている。
(中略)
社会起業家には、ソーシャル・イノベーション創出が期待されている。この観点から、ソーシャル・ベンチャーは、社会起業家がソーシャル・イノベーションを実現するためのプラットフォームの役割を果たす組織であるとも言えよう。

この説明がシンプルでとても分かりやすい。

これまでも、社会の変革を目指した企業は多くあったものの、現代的なソーシャル・ベンチャーが生まれた背景はグローバリゼーションとサッチャリズム、レーガノミクスなど小さな政府化によるところが大きく、最大のターニングポイントはエンロン・ワールドコム事件による大企業の信頼失墜で、これにより、当時のハーバードMBAを中心とした学生エリートたちが、不信感から多く社会起業志向化していった。日本においてはバブル経済の崩壊とその後の不況による既存企業の信頼性の失墜と社会格差の拡大、阪神淡路大震災などの災害によるボランティア意識の高まりなどが複合的に重なって社会起業家志向が高まりつつあるが欧米ほどのムーブメントにはまだなりえていない。

と、このあたりまではテキストに書かれているような紋切り型の内容だけど、ここまでの流れで言うと、特に何の問題も無いように思える。社会企業いいじゃない。という感じである。だが、何故、ソーシャル・ベンチャーは洋の東西を問わず、自己啓発、ロハス、スピリチュアリズムなどのニューエイジ運動と親和性が高いのかがわからない。

「社会起業家」によるとアメリカの個人・小規模の社会起業家のネットワークであるソーシャル・ベンチャー・ネットワーク(SVN)の総会は以下のように行われる。

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)」(P107)
SVNの総会は、BSR(引用者注:ビジネス・フォー・ソーシャル・レスポンシビリティ:大企業中心の社会企業ネットワーク)の総会に比べて、参加者同士の交流という側面が強く、起業家としての意識の持ち方にインスピレーションを与えようとする催しが多い。例えば、朝七時からヨガのクラスが開かれたり、アリゾナの自然を楽しむハイキングに出かけたりする時間もあった。
「スピリット・イン・ビジネス」というグループ・セッションでは、ビジネスのスピリチュアルな側面が話し合われた。エイミー・ドミニやベン・コーヘンなどが体験したダライ・ラマとの対話が紹介され、精神性によってビジネスと社会改革運動の関係がどのように影響を受けるか、といったテーマでディスカッションが盛り上がった。

特に小規模のソーシャル・ベンチャーの多くがこのようなニューエイジと親和性の高い価値観(反資本主義とか、現代文明批判とか、ロハス、キャッチコピーとしての宇宙船地球号とか。)を共有していることが多い。(そうじゃないところももちろんあるけど印象としてそう多くはない。)なぜか。

金融資本主義への不信が強くあるのではないだろうか。聞きかじりの知識なので間違っていたら申し訳ないのだけど、グローバリゼーションの進展はそのまま産業資本主義から金融資本主義への移行過程であると認識している。モノを作って売る経済からお金でお金を売買することで価値を増大させることを目的とした経済への変化で、その象徴的出来事としてエンロン事件は起こり、日本ではたとえばライブドア事件がおきた。お金でお金を増やすことへの、お金だけを目的とした既存企業への不信感が、社会企業という言葉を生み、それは保守層への対抗意識へと変化したのではないかと思う。アメリカではその対立構造は思想面ではニューエイジ的カウンターカルチャーとキリスト教右派などの保守勢力との対立構造にシフトしたのではないかと思う。誰がどういう形でそうしたのかわからないが、たぶん、自然発生的にスムーズな流れとして既存思想に対するニューエイジ、既存の市場を重視する企業に対する市場価値より社会変革を目的とする社会企業、という対立構造の融合がなされたんだろうと思う。

それが日本に流れてきて、ロハス・自己啓発ブームと重なったのと、ボランティアなど不特定多数の人への慈善活動の文化が歴史的に薄く、ミウチを重視する世間体構造なのがポイントだと思う。ミウチではなくタニンに何か施しをするのに、ミウチを差し置いているわけではないというエクスキューズが必要というか。「僕は満足しているんです。僕自身(あるいは関わる仲間)が成長するために、多くの人のためになることをするんです」が言い訳として使われる文化というか。ミウチのためになることを何より重視する文化に、ためになること=自己啓発・成長信仰というニューエイジの落とし子的思想が重なったんじゃないかな。

この思想対立と二重構造はソーシャル・ベンチャーの実体を見えにくくさせると思う。

既存の営利企業であれ社会変革を目的としたソーシャル・ベンチャーであれ、株式会社という形状は同じであり、しかもCSR意識が高まった現代においては、CSRを重視する営利企業と大きな違いは無くなっているといえる。社会変革・貢献を目的として、キャッシュフローの獲得はその手段と考えるか、営利を目的としつつ余剰資本で社会貢献をするかという優先順位の違いしかない。その差は大きいのだけど、しかし同腹の兄弟と言えると思う。そして、上場などを目指すことは少ないため資金調達は困難で、かつ営利を最優先にすることは無く、ビジネスモデルが構築し難い中でキャッシュフローの確保が困難でありながら、社会貢献の成果を最大化し続けるという困難が待ち受けている。さらに、組織体制の問題がある。

概論 ソーシャル・ベンチャー」(P144)
組織の維持や当面の社会貢献の実行に必要な水準以上の利益を追求する姿勢が本来的に欠けており、さらにはマネジメント面が弱いことで、大規模化に際しては、その限界にすぐ突き当たることが想定される。
同(P145)
非営利組織形態のソーシャル・ベンチャーの経営に着手するに当たって、社会起業家は組織風土を「Non Profit Organization」から「Not for Profit Organization」へと切り替える努力をしなければならない。この過程で社会起業家は、外では営利企業との市場競争を通じて事業計画の確かさを立証しつつ、内ではキャッシュフロー獲得や営業活動に消極的な組織風土と戦うという両面作戦を強いられる。
同(P146)
現実に目を転じると、非営利組織には社会貢献意欲の高い人材が終結しているのは当然としても、ビジネスの知識やスキルを兼ね備えた人材は少ない。そのため、目下のところ、ビジネス人材(ビジネス・プロフェッショナル)を外部から採用するしか手立てはない。
あえて極端な言い方をすれば、迅速な意思決定を好むビジネス人材は、事業環境がそれを希求するならば、トップダウンの経営を希求する。これに対し、やはり極端な言い方をすれば、社会貢献の志の高いボランティア人材は、社会的使命達成の前にはみな平等であるとの意識が働き、組織に参加する段階から感覚面で齟齬が生じる恐れがある。

神座氏、ちょっと言いたい放題なところがあって超面白いんですけど(笑)、これはソーシャル・ベンチャーだけでなく多くのベンチャーが抱える問題だろうと思います。しかし、そういう困難が存在しているという理解の上でソーシャル・ベンチャーは運営されていくものでしょう。

欧米での進展のひとつの要因に起業家を支援するソーシャル・キャピタルの整備があると「概論 ソーシャル・ベンチャー」では言われています。その中で、みんな大好きシリコンバレーの例がこう書かれています。

概論 ソーシャル・ベンチャー」(P137)
カリフォルニア州サンタクララには、スタンフォード大学、カリフォルニア大学といった教育機関、ヒューレット・パッカード、インテル、シスコなどの大手ハイテク企業に加え、数多くのハイテク・ベンチャー、それらを取り巻く法律・財務会計・人材関連のアウトソーシング・サービス、さらには多くのベンチャー・キャピタルやエンジェルが集積している。新しいハイテク技術や製品を次々と生み出し、数多くの成功した起業家を輩出し続けている。
シリコンバレーで重視されているのは、人的ネットワークである。優秀な研究者、技術者、起業家予備軍、有能なベンチャー・キャピタリスト、ビジネスで功成り名を遂げて後進の起業家予備軍を支援するエンジェルが、産学の垣根を越えてネットワークを作っている。ソーシャル・キャピタルが形成されているのである。

こういうネットワークをソーシャル・ベンチャーなども利用しやすい状況にあるところが強みなんだろうと思います。こういうの日本でも作れないのかなと思う。

無理矢理まとめるんですが、産業革命以降、株式会社の影響は日に日に増大し、企業としての営利追求がそのまま社会の利益の増進につながるというようなアダム・スミス的企業観から、意図的に社会変革を行う主体としての株式会社への変化というのは、必然的な流れなんだろうと思います。社会企業としての側面が強くなったあと、長期スパンで考えるとたぶんゆり戻しがあって営利性と社会貢献性とを持ち合わせるスタイルの株式会社へと変化していくのだろうと思います。そのころ、個人の働き方がどう変わっているかということも考えると、株式会社は形を変えつつ相対的に影響力が低下しているかもしれない。

また、ニューエイジとソーシャル・ベンチャーの関係性についてですが、僕はニューエイジだろうがキリスト教右派だろうが、あるいはイスラームだろうが基本的にどういう思想・価値観であっても、それがメンバー間で合意の上で共有することで企業共同体としての一体化が保てるのであれば、理解したうえでそういう共同幻想を持つのは良いと思います。ベンチャーにとって価値観の共有ほど重要なことはない。営利企業でも大企業になると創業社長が神格化(松下、本田、盛田、最近だと稲盛氏が宗教化しつつあるようにみえる)されるのはよくあること。ただ、ニューエイジ的思想は、米での保守勢力に対するカウンタカルチャーとして代理戦争的役割でソーシャル・ベンチャーの間に広まっていると思われる点から、様々な現実を見えにくくさせる点は注意が必要でしょう。さらに、ニューエイジの流れを汲んだスピリチュアリズムや新宗教が一部社会問題化しているので、慎重であるべきだとも思う。まぁ、ニューエイジ的思想だと僕は共有しにくいし、一般に価値観を理解してもらうのも大変でしょうね。

あくまで個人的意見だけど、敢えて自己啓発的思想とソーシャル・ベンチャーは切り離すべきなんだと思う。私は満足だからいいの!やりがいを求めて!というエクスキューズは周りを見えなくさせる。より厳しい舵取りが要求されるソーシャル・ベンチャーではリアリストの集団である方が大きな成果を得られるのではないだろうか。リアリストという共同幻想こそ、ソーシャル・ベンチャーに重要な思想なのではないかと思う。

で、これだけのこといろいろ挙げておいて言うのもなんですが、それでも僕は社会企業というムーブメントを応援したい。ソーシャル・ベンチャーって、擬人化したら要するに「てやんでぇ。金金言ってんじゃねーよ。金なんでどーでもいいんでぇ。困ってる人いるじゃねーか。」という感じの昔かたぎの職人さん、あるいは傾き者的人物なわけで、そういう人に対する親愛の情は、どうしても抱いてしまうんですよね。バカだなー。かっこいいじゃねーか。という。(営利を追求する株式会社が何言ってんだというツッコミはもちろんありだけど(笑))

どんな価値観、思想であろうと、ソーシャル・ベンチャーという困難な道に挑戦する生き方をとことん貫けばいい。古臭い嫌悪したくなるかもしれないものでも徹底的に利用して、貫くことが出来れば何かを変えることができるかもしれない。そして、そういうバカが僕は大好きだ。思う存分傾け。と、ソーシャル・ベンチャーのことを調べてみて思った。

その他参考書籍、サイト
ニューエイジ – Wikipedia
・LOHASのホントはウソである
現代日本社会研究のための覚え書き――2.スピリチュアル/アイデンティティ(第2版) – on the ground
「世間体」の構造 社会心理史への試み (講談社学術文庫 1852)井上 忠司
株式会社という病 (NTT出版ライブラリーレゾナント 34)平川 克美
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