「世間」ってそもそも最初はどういう意味だったの?

いいかげん、井上忠司著『「世間体」の構造』(1979年)についてまとめようと思いつつ、なかなか出来なかったのでこれから何回かに分けてエントリーをアップしていきます。第一回はそもそも「世間」ってどういう意味だったの?ということから。

「世間体」の構造  社会心理史への試み (講談社学術文庫)
井上 忠司 講談社 売り上げランキング: 219416

井上忠司著『「世間体」の構造 社会心理史への試み (講談社学術文庫)』(P31)
もとはといえば、「世間」は、梵語loka(こわされ否定されてゆくものの意)の訳語であって、「生きもの(有情世間)とその生きものを住まわせる山河大地(器世間)、あるいはこれら二つを構成する要素としての五蘊(五蘊世間)の総称」であった。

五蘊世間の五蘊は人間やこの世界を構成する五つの要素( 色蘊、受蘊、想蘊、行蘊、識蘊)のことで、ナーガールジュナの大智度論で説かれる仏教の根本原理の一つ。仏教ではこれら三世間がこの世の現象世界を三つに分類したものと捉えられていた。(参考→世間 – Wikipedia
「世間は虚仮なり、唯だ仏のみ是れ真なり」という一句にもあらわされている通り、仏教の輸入とあわせて日本に示された、この「世間」という言葉は「世間無常」という根本命題を背負った哲学であり、その後の日本が様々な形で「無常観」をあらわしていきながら転変していくことになることを考えると、とても重要な意味を持つ。
「世間」という言葉は「世」と「間」に分解できる。
「世間」の「世」は「時間」のことで、中国では、「遷流」つまり移り変わることという意味だった。たえずこわされ、否定されてゆき、刻々と他のものに転化していく様のことである。

井上忠司著『「世間体」の構造 社会心理史への試み (講談社学術文庫)』(P32)
たえずこわされ、否定されてゆき、刻々と他のものに転化していくがゆえに、「世」とよばれるのである。だが、破壊されるのみであって、なんら本質的なものでないなら、それがひとつの「世」であることはできない。不断の転変に対立し、打ち克ってこそ、ひとつの「世」でありうるのである。さりとて、完全に打ち克って、遷流なき境があらわれたなら、それはもはや真理であって、すでに「世」ではないであろう。

同書に引用される和辻哲郎の表現を用いると「要するに「世間」の「世」とは、「遷流からの脱却の可能性を保持しつつも遷流のただ中に堕在することである」ということになる。」(P32)
反対に「世間」の「間」は「空間」のことで、原語のlokaは本来「場所」(世界、領域、界などとも訳される)の意味が強かった。この「場所」は物質的なるものにかぎらず、非物質的なるものの世界や場所のことでもある。非物質的な世界とは、例えば仏教でいうところの欲界など人間の現象として存立する状態そのもののことだ。
このように「世間」は空間的な意味を持ちつつ、主として時間的性格でとらえられており、「無常性」を内包していた。生まれたときに世間に出て、世間を渡り、あの世へと行き着く。しかし、時が経ち「世間」という言葉が日常の用語として浸透していくにつれて仏教的意味合いは薄れ、無常性は残しつつも「現世での縁につながる他者との関係において、人生をいとなむ状況であることを意味」(P36)する、生々しい人間関係そのものを指すように変化していった。
特に世間が人間関係そのものを意味するようになったのは江戸時代からといわれる。憂き世が浮世になり、浮世=世間となったあたり。ということで、次回(時期未定)は「世間観の移り変わり」ということで、江戸の町人、農民、武士などの世間観の移り変わりについて簡単にまとめて、その次は特に重要な「明治期のイエ制度の成立史」、最後に「世間体の構造」について簡単にまとめるつもりですが、少し色々入れ替わったりするかもです。
関連エントリー
外集団の価値基準に左右されながら閉鎖的な内集団を形成する社会
<世間の目>から逃れ自由を渇望するが故のプライバシー観
村八分が始まったのは実は最近?
ほんとうにだいじなことは目に見えないんだよ
アルファブロガーという現代の「世間師」
日本教の正体を炙り出す上で押さえておきたい17冊
「「はかなさ」と日本人―「無常」の日本精神史」竹内 整一 著
「「空気」の研究」山本七平著
コミュニティは安心を与え、自由を奪う

「世間」とは何か (講談社現代新書)
阿部 謹也 講談社 売り上げランキング: 17498
おすすめ度の平均: 3.5

5 東西の個人と社会そして「自由・平等・平和」の成り立ち
3 世間は何かは人それぞれ
5 「世間」は空気のように見えない、感じない
5 我々が生きる日本社会の特質
5 世間の謎

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))
山本 七平 文芸春秋 売り上げランキング: 1223
おすすめ度の平均: 5.0

5 日本と「空気」
5 裁判員になった人は皆読むべき
4 遅れてしまった出会い
5 「空気」読め!
5 日本人を呪縛する最高法規「空気」に科学的・論理的光を当てる良作

日本仏教史―思想史としてのアプローチ (新潮文庫)
末木 文美士 新潮社 売り上げランキング: 4982
おすすめ度の平均: 5.0

5 仏教から見た日本思想史
5 素人にもわかるよう書かれた貴重な体系的研究書
5 インドとの比較から照射された日本仏教の特質
5 「仏教」だけの問題ではない!
5 仏教思想の多様な日本化の過程

スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク