「フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか」ダニエル・ピンク 著

フリーエージェント社会の到来 新装版
ダイヤモンド社 (2014-10-06)
売り上げランキング: 10,242

現在のアメリカ社会が、いかにしてオーガニゼーション・マン(組織人間)中心の社会からフリーエージェントの社会へと移行しつつあるか、を豊富な資料と取材、調査を行うことで明らかにした力作。著者のダニエル・ピンクはクリントン政権下でR・ライシュ労働長官の補佐官兼スピーチライター、ゴア副大統領の主席スピーチライターを歴任後フリーエージェントとなり執筆活動を行っている。
本書によると、フリーエージェントとして働く人々の実数を正確に把握できるわけではないが、政府統計、民間調査、研究等をふまえ、フリーランス1650万人、臨時社員350万人、ミニ起業家1300万人、計3300万人、実にアメリカの労働者の四人に一人がフリーエージェントとしての働き方をしているであろうと推計されている。
フリーエージェントという働き方が登場した背景は以下の四つの変化があげられる。(以下P52-59、P61より)
1)経済の「子供時代」の終焉
従来の労使間の社会的契約、すなわち従業員が忠誠心と引き換えに会社から安定を保障してもらうという関係が崩壊した。
2)小型で安価な生産手段の登場
生産手段(富を生み出すのに必要な道具)が小型で安価になって個人で所有できるようになり、操作も簡単になった。
3)経済の繁栄
繁栄が社会の広い層に行き渡り、しかも長期間続いている結果、生活の糧を稼ぐことだけが仕事の目的ではなくなり、人々は仕事にやりがいを求めるようになった。
4)組織の短命化
組織の寿命が短くなり、人々は勤め先の組織より長く生きるようになった。
面白かったのは、アメリカの大企業もかつては終身雇用に近い雇用体制を取っていたことで、80年代半ばまではIBM,ボーイングなど大企業は「家族的温情主義(パターナリズム)」を土台として「完全雇用」を貫き、分厚い保障の代わりにタテの忠誠心を求め、従業員もそれに応えていた。しかし、90年台に入るとそのパターナリズムは放棄され次々と数十万人規模の人員整理が行われ、ひとつの会社でしか働かないことこそリスクとなっていった。
「忠誠心」の方向が変わったともいう。それまでの上司や組織に対する縦方向の忠誠心に変わってチームや同僚、職業、同業者のコミュニティ、顧客、家族、友人たちなどに対する横方向の忠誠心が強化された。この様子を同書では有名なグラノヴェッターの論文などを紹介しつつ弱い紐帯で繋がった信頼が支える社会的ネットワークの形成がフリーエージェント世界の特徴だという。

(P188)
フリーエージェントという働き方が円滑に機能する土台になっているのは、賢い利己心、すなわち「あなたがいつか力になってくれると思うから、いまはあなたの力になろう」という発想である。自由気ままで、一見すると裏切りが横行していそうなイメージとは裏腹に、フリーエージェント経済は、実は人々に道徳的な振る舞いを促す。フリーエージェント経済をまとめているのは、様々な宗教で教える黄金律――「汝の欲するところを他人になせ」という考え方なのだ。

このような例として同書では様々なフリーエージェント間のネットワークの試みを紹介する。例えば「ウィミン・イン・コンサルティング(WIC)」はカリフォルニア州の小さな町サンカルロスの小さなレストランヴィグズ・レストランで年十回の会合を開いている。参加者はフリーエージェントで働く女性。会費は年100ドル。レストランでの食事は無料で、会合では毎回ゲストスピーカーを呼び、ビジネスに関する様々な話を聞き、他の参加者の話を聞いたり、お互いに助言をしあったりするという。他各地で様々なネットワークが形成されている様子が紹介されている。
また、最近バズワードになりつつある「第三の場所(サードプレイス)」だが、アメリカではキンコーズのようなコピー店、スターバックスのようなネットにつなぐことができるカフェ、バーンズ&ノーブルのようなカフェ併設の書店、宅配サービス、私書箱センター、レンタル個人用作業スペースなどなどフリーエージェントとしての働き方を経済的に支える様々なインフラとなるサービスが普及し、まさに「サードプレイス」を作り出しているという。
様々な実例と確かなデータ、手堅い分析でアメリカ社会で広がるフリーエージェントという新しい働き方について分析しつつ、到来するフリーエージェント社会の未来について未来像を描く。
ビジネス

(P367-368)
企業、とくにグローバルな巨大企業は、当分は消えてなくならない。(中略)消えていくのは中間サイズの企業だ。「規模の経済」の恩恵を受ける企業はとほうもなく巨大化し、国家の規模に近づく。一方、企業の小規模化もさらに進行し、フリーランスやミニ企業は増え続ける。しかし、その中間の規模の企業は、消滅したり、存在感が薄まっていく。経済の新しい生態系では、たくさんの象ともっとたくさんのネズミが活躍し、その中間サイズの種は滅んでいくのだ。

キャリア

(P372)
私たちのキャリアは、レゴの積み木のようなものになる。すなわち、技能やコネ、関心など、基本的なブロックをいろいろ組み合わせて仕事の形態を決めるようになるのだ。
(P373)
生き残るごく一部の管理職は、ハリウッドの映画プロデューサーのようにプロジェクトの立ち上げから完了までを監督するプロジェクトマネージャーだ。そのいちばん重要な役割は適材適所の人材を集めること。(中略)未来の管理職は、素晴らしいパーティーのホストであり、らつ腕の映画プロデューサーであり、優秀なバスケットボールコーチであることが求められるのだ。

そして、フリーエージェントとしての働き方は家族や地域のコミュニティを再生していくだろうという。フリーエージェント同士の人的ネットワークを形成していくだろうとも。
よく、アメリカでは解雇されたら、次の仕事が見つかるまでの間フリーランスで食いつなぐという話を良く耳にしていて、日本では考えられないこと(日本だとフリーランスなんてもってのほか。雇用保険の基本手当で食いつなぎ、雇用保険の受給期間が終了したらアウトだ)なので、それはどのような社会的要因があるのだろうか?と思っていたのだけれど、このような「ヨコの忠誠心」つまり弱い紐帯による信頼のネットワークとでも呼ぶべき関係性が作られているところにあるのだなということが良くわかりました。
おそらく日本も近い将来これに近い状態へと移行していくのだろうと思います。今は一部の業界の一部の職種だけに限られているように思いますが、それはこれからの数年で広がりを見せていくのだろうなと。バブル崩壊からの失われた十年と去年末の金融危機に端を発した不況の波は日本でもついにパターナリスティックな経営の終わりと会社組織への信頼の失墜をもたらしつつあり、それはダニエル・ピンクが喝破しているような大企業という象とフリーエージェントというネズミの二極化の社会へ至る幕開けなのかもしれませんね。
著者はフリーエージェント社会の到来をばら色の未来として描いていますが、日本においてはどうなるのでしょうか?来たるであろう将来を考えるのに良いヒントやネタが満載のオススメの一冊です。ぜひどうぞ。

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