Global Jobs Pact:経済危機下で雇用の回復と発展を促進する11の原則

2009年6月国際労働機関(ILO)の第98回総会でGlobal Jobs Pact(グローバル・ジョブズ・パクト:仕事に関する世界協定)という国際協定が採択されました。
グローバル・ジョブズ・パクトは2008年第4四半期から2009年第1四半期にかけて始まった金融危機によって世界的に発生した失業者の増大や仕事の消滅という事態を受けて今後の世界的雇用情勢の予測と分析を元に、世界的な経済危機下でディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の回復と発展を促進するための11の原則とディーセント・ワークの実現に向けた四つの戦略分野ごとの具体的な政策選択肢を提示しています。
ILOの「Global Jobs Pact(仕事に関する世界協定)-ILO駐日事務所メールマガジン2009年6月30日号トピック」のページでは経済危機により世界中の雇用や今後の予測等が詳細に分析、まとめられておりとても興味深い内容となっていますので、一読をおすすめします。

■仕事不足の長期化

Global Jobs Pact(仕事に関する世界協定)-ILO駐日事務所メールマガジン2009年6月30日号トピック
世界の労働力人口は年平均1.6%で成長し、これは毎年約4,500万人が新たに労働力に加わることを意味します。この伸びを吸収するだけでも 2009~15年に約3億人分の新規雇用の創出が求められます。しかし、2009年の雇用創出の見通しは記録史上最悪で、2008年に1.4%に低下した雇用成長は2009年にはさらに落ち込んで0~1%に留まることが予想されます。
 過去の金融危機の経験から、雇用は平均4~5年景気回復に遅れて危機前の水準に回復することが示されています。2009年4月、IMFは今回の世界的な景気後退が長く激しいものとなり、ゆっくりとした回復が見込まれるとし、世界の経済成長は2010年にようやく1.9%とプラスに転じると予測しました(先進国の場合は0%)。このことから長く厳しい世界的な仕事の危機が今後6~8年続くことが予想されます。

■回復と発展を促進するための11の原則

Global Jobs Pact(仕事に関する世界協定)-ILO駐日事務所メールマガジン2009年6月30日号トピック
1. 回復と発展を援助する現行の国内及び国際的な行動の一部として、持続可能な企業を通じた雇用の保護と育成、質の高い公共サービス、すべての人々に対する十分な社会的保護の構築を注意を向けるべき最優先事項とし、これらの措置を調整を図って直ちに実施すべきこと
2. 危機的状況にある若者、低賃金労働者、低技能労働者、インフォーマル経済で働く人々、移民労働者など、危機によって深刻な打撃を受けている脆弱な男女に対する支援の向上
3. 無職の人々の労働市場への参入を支援することに加え、雇用を維持し、転職を円滑化する方策に焦点を当てること
4. 効果的な公共職業安定業務その他の労働市場機構の確立または強化
5. 回復に向けて準備するための技能開発、質の高い訓練、教育を受ける平等な機会の拡大
6. 保護主義的な解決策並びに賃金のデフレ悪循環及び労働条件悪化の有害な結果の回避
7. 経済及び雇用の回復を支え、男女不平等を軽減する中核的労働基準その他の国際労働基準の促進
8. 実体経済のニーズに対する危機対応の影響力を最大化する建設的なプロセスとして、政労使の三者構成主義や労使間の団体交渉といった社会対話に従事すること
9. 短期的な行動が経済、社会、環境の持続可能性と整合することの確保
10. 国家と市場の相乗効果、及び企業創出、持続可能な企業を可能にし、産業部門横断的に雇用を促進する法規制環境を含む効果的かつ効率的な市場経済規制の確保
11. ILOは他の国際機関、国際金融機関、先進国と共に、危機に対応する財政及び政策的な余裕が限られている後発開発途上国、途上国、移行経済諸国に対する開発援助及び支援を深め、政策の整合性を強化すること

■四つの戦略分野ごとの具体的な政策選択肢

Global Jobs Pact(仕事に関する世界協定)-ILO駐日事務所メールマガジン2009年6月30日号トピック
(1)企業を支え、仕事を回復し、雇用創出速度を高める方策
 失業の長期化と、ひとたび移行するとなかなかフォーマル経済に戻れないインフォーマル化の増大のリスクを制限するには、雇用を創出し、人々が仕事に復帰するよう支援する必要があります。そのため、完全雇用、生産的な雇用、ディーセント・ワークの目標を危機対応の中心に据えることとし、考えられる対応策として、協定は次のような方策を挙げています。
1. マクロ経済的総合刺激策などを通じた実効的な需要の押し上げと賃金水準の維持に向けた支援
2. 対象を適正に定めた効果的な積極的労働市場政策、求職者が十分な支援を受けられることを目指した公共職業安定業務の能力向上及び資源・資金増大並びに民間職業紹介所と協働している場合には質の高いサービスが提供され、権利が尊重されることの確保、雇用者・自営業者向け職業・起業スキル事業の実施などを通じた求職者の支援
3. 既に失業した者、失業の危険がある者、弱い立場の層向けのものを中心とした、就業能力向上に向けた労働者の技能開発、技能向上、技能再習得への投資
4. ワークシェアリングや部分失業給付など、社会対話と団体交渉を通じて実施される正しく設計された仕組みを通じた、企業の労働者保持努力の支援及び雇用喪失の制限または回避
5. 経済諸部門横断的な雇用創出支援
6. 雇用創出における中小・零細企業の貢献を認め、負担可能な信用を得る機会の提供などその育成に有利な環境を確保する措置を促進すること
7. 協同組合が地域社会に仕事を提供する事実を認め、そのニーズに合った支援を工夫すること
8. 臨時就業のための公的雇用保障制度、緊急公共工事事業、その他正しく対象を定め、インフォーマル経済を含む直接的な雇用創出制度の活用
9. 持続可能な企業の創出及び育成を通じた雇用創出に結びつく支援的な規制環境の実現
10. 雇用を創出し、持続可能な経済活動を刺激する重要な手段としてインフラ構造、調査研究、公共サービス、環境に優しいグリーンな生産及びサービスに対する投資の増大
(2)社会的保護制度を構築し、人々を保護する方策
 弱い人々を支援する持続可能な社会的保護制度は、経済の安定化及び就業能力の維持・促進を助けつつ、貧困の増大を防止し、社会の困窮に対処することができます。危機の状況下では最も弱い人々を支援する短期的な措置が適当となる可能性があります。
 各国が検討すべき事項としては、以下のようなものが挙げられます。
1. 貧困層を対象とした現金移転制度の導入
2. 保健医療へのアクセス、高齢者・障害者の所得保障、児童手当、失業者及び働く貧困層向けの公的就労保障制度と組み合わせた所得保障などの基礎的社会的保護の最低線に依拠した、すべての人への十分な社会的保護の構築
3. 失業給付の対象範囲と期間の拡大
4. 就業能力に向けた技能開発などを通じて長期失業者が労働市場とのつながりを保つことの確保
5. 年金または保健基金の財源が労働者の十分な保護を確保するにはもはや不十分となった国における最低給付保障の提供及び制度の将来設計における労働者の貯蓄をより良く保護する方法についての検討
6. 臨時・非正規労働者を十分保護対象に含むこと
 すべての国は所得扶助、技能開発、平等及び差別を受けないことへの権利の強化を組み合わせ、危機によって最も打撃を受けている弱い層を支援すべきです。賃金のデフレ悪循環を回避するには、社会対話、団体交渉、法定または交渉による最低賃金を手引きとし、最低賃金の定期的な改訂・適応、政府は使用者及び調達者として交渉による賃金率を尊重・促進すること、これらの取り組みを構成する一部として男女賃金格差を縮小することが求められます。
 効率的に運営されている力強い社会的保護制度が備わっている国は経済を安定化し、危機の社会的影響に対処できる貴重な仕組みが備え付けられていると言え、これらの国では既存の社会的保護制度の強化が必要かもしれませんが、その他の国ではより力強くより効果的な制度の基礎を構築しつつ緊急の必要への対処を優先させる必要があります。
(3)国際労働基準の尊重を強化する方策
 国際労働基準は就労上の権利の基礎を形成し、それを支えるものであり、危機の時代に特に有用な社会対話の文化の構築に貢献します。労働条件の引き下げ悪循環を防止し、回復を築くためには、以下の事項を認識することが特に重要です。
1. 就労上の基本的な権利及び原則の尊重は人間の尊厳並びに回復及び発展にとって決定的に重要であることを認識し、強制労働、児童労働、就労上の差別などの増大を防止し、その撤廃を達成するため監視を強め、社会の緊張が高まる時代に生産的な社会対話を可能にする仕組みとして結社の自由の尊重、団結権、団体交渉権の実効的な認識を強めること
2. 基本条約に加え、雇用政策、賃金、社会保障、雇用関係、雇用の終了、労働行政、労働安全衛生など、このような状況下で通用するILOの条約・勧告が多数存在すること
3. ILOの多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言は社会的に責任ある形で危機に対応する上ですべての企業にとって重要かつ有用なツールであること
(4)社会対話:集団的に交渉し、優先事項を確定し、活動を刺激する方策
 社会の緊張が高まっている時には特に、社会対話の仕組みの尊重と活用を強めることが不可欠です。社会対話は各国の優先事項に合った政策設計において重要な仕組みであり、危機を克服し、持続可能な回復に向けて必要な政府との共同行動に労使から参与の約束を取り付ける強力な基盤となり、うまくいった場合、達成された結果に対する信頼感を醸成します。労働行政と労働監督の能力強化は、労働者の保護、社会保障、労働市場政策、社会対話に関する包摂的な行動において重要な要素です。

2009年9月25日、日本の鳩山首相も参加したピッツバーグサミットではG20首脳声明としてグローバル・ジョブズ・パクトを重視した政策の実行を各国で採用することを宣言したとのことです。

ILO駐日事務所メールマガジン【No.88】より
9月25日に発表されたG20首脳声明は、「世界経済が完全に健全な状態に回復し、世界中の勤勉な家庭が人間らしい働きがいのある仕事を見つけることができるようになるまで休むことはできない」として、「我々の国民が必要としている良質の仕事を創出する耐久性のある回復」を確保するための「強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み」を定めています。「質の高い仕事を回復の中心に置く」と題する節には、「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)を支え、雇用の維持を助け、仕事の成長を優先させる回復計画の実施」に向けた公約が明記されています。
失業者及び失業のリスクが最も高い人々に対しては、「所得、社会的保護及び訓練支援を引き続き提供する」とした上で、「現下の困難は国際的に認められた労働基準を無視または弱める口実にはならない」点に合意し、「世界の成長が幅広く利益をもたらすよう確保するため、ILOの就労に係わる基本的な原則と権利に一致した政策を実施すべき」と記しています。
(中略)
さらに、今年6月のILO総会で採択されたグローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)を歓迎し、「グローバル化の社会的側面を促進するためにその一般的枠組みの中の重要な要素を自国で採用すること」を公約し、国際機関に対しても、「危機及び危機後の分析及び政策策定活動において、ILOの基準及びジョブズ・パクトの諸目標」を考慮することを求めています。

このように、グローバル・ジョブズ・パクトが世界の雇用政策の基準として重要度を増して行きそうなので、今後ますますホットなキーワードになっていくのではないでしょうか。これらを踏まえつつ色々と自分なりにも考えて行きたいとは思いますが、むずかしーーのでたぶんむり(笑)日本が抱える諸問題とこの世界的な潮流との間で、労働政策は適切な方向へと進んで行って貰いたいと思いますが、何はさておき喫緊の最大の課題は、このような経済情勢下ですので、どのようにして「仕事を作る」かということですよねぇ。
ILOのメールマガジンは僕も登録して3ヶ月ぐらいですが国際的な労働・雇用関連の話題に興味ある人はオススメかなと思います。
ILO駐日事務所メールマガジン
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