糸井重里氏が語る、個々の欲望を左右する「欲望の増幅装置」

前回のエントリーで紹介した糸井重里さんのインタビュー(→「糸井重里氏、エロ画像収集について熱く深く語る」)の続きがまた面白いので紹介します。前回エロ画像収集から自身の欲望のありかを追究していくというお話でしたが、それに続けて人間の欲望が個人的な何かに根ざしたものだけではなく社会的な影響もあって、欲望は抗えない大きなものだと思い込みすぎているんじゃないか?ということから以下のようなことをおっしゃっています。

考える人 2009年 11月号 [雑誌]」(P27)
大きな流れというか、大きく見えるものって、増幅する人たちがいるから大きくなるんですよ、たぶん。エコだって、誰も増幅しなければ、小さな考え方のままだったかもしれない。ところが増幅に増幅が重ねられていくうちに、「エコは人間の義務である」ぐらいまでなってきて、そのうちに「自分が生まれてきたのはエコのためだ」って言いたくなってくる(笑)。いや「エコ」じゃなくてもいいんです。「エコ」のかわりに「戦争」を入れてもいいし、「お金」でも「性」でもいいわけですけれど。
なんか大きすぎて見えなくなるぐらいに感じはじめると、正面から見ることを恐れてしまうというか、もう目を凝らして考えるのは難しいと思い込んでしまって、考えるのをやめてしまうんですね。世の中の大きな流れってそういうものなんじゃないか。大きな流れがどうしてできてしまうかといえば、それはもう増幅装置が犯人だって、ぼくは思うんですね。

前回のあの内容から、このように市場経済の構造に到達してしまうところが興味深いです。まさに性欲など根源的な欲望も含めた幅広い欲望=需要を喚起し増幅させることで今の社会は成り立っていますから、その欲望を喚起され続ける「大きな流れ」が自身の欲望にいかに影響しているか、というのはやはり一歩引いて観察していかないといけないなぁと日ごろから感じています。
そして個々人の欲望はそういう増幅装置が無ければ元々そんなに大きく無く、欲望を抑えきれなくなる瞬間があっても平静へと戻れる振れ幅があるものではないかと言っています。

考える人 2009年 11月号 [雑誌]」(P27)
欲望っていうのは、本来はそれぐらいの振れ幅のあるものかもしれない。ところが、強い欲望の幻想を信じこんでしまうと、しかも「みんなはいいことしてるぞ」みたいな小さな声がいつもどこかから聞こえてくるような日本にいると、「お金」とか「性」とかがすべてを動かすんだ、みたいな気分になってしまう。

また、これに続けて「草食系」などと言った最近の若い層の傾向についてもこう言っています。

考える人 2009年 11月号 [雑誌]」(P27)
昔だったらもっとぎらぎらしていたのが、淡々としているでしょう。その清潔感を、今の若い子たちのポテンシャルが落ちているせいだって世の中は整理したがるんだけど、そんなことはないんじゃないかな。時代とか場所の持っているエネルギーに強く影響されているか、それほど影響されてないか、という問題にすぎないかもしれない。「草食系」だなんて簡単に片づけてしまわないほうがいい、とぼくは思いますね。

ここも、的確に捉えているんじゃないかと思いました。僕はこれまで「増幅装置」が欲求を露骨に煽りすぎてきたことに対するカウンター的な傾向と、あと若い人たちの生活空間の縮小やアイデンティティへのこだわりの低下というのが大きいのではないだろうかと思っています。欲望がすなわち消費だったのが徐々に分離して消費しない欲望という傾向が強まっているのかもしれないですね。
ただこれからは徐々にそういう「無欲という欲望」を喚起し増幅させていく「大きな流れ」が形成されていくんだろうなとも思います。欲望の形は変わりつつもなんらかの形で増幅させていくことで、需要を喚起する、というのは不変だろうと思いますので。
そういえば、大乗仏教の概念の一つに煩悩即菩提ってあるじゃないですか。煩悩(欲)があるから苦しみがあり苦しみがあるから菩提(悟り)を求めようとする心が生まれ、菩提(悟り)があるから欲を見つめることができる、というなかなか含蓄のあるものですが、自身の欲望のありかを把握するというのはそういう仏教思想的なところとも相通じるものはあるかもしれないですね。
欲望は増幅されるのが当然の社会ですので、別に禁欲的になる必要は無いと思いますが、自身の「欲望のありか」には敏感でありたいですねぇ。少なくとも、どんな欲望を「増幅装置」は喚起しようとしているのか、湧き上がる自分の欲求は何か、を観察するように心がけていくのが大事だなぁと思います。
欲望のありかをどのように捉えるかと個人の欲望に対する欲望増幅装置という社会的環境もあるということを糸井さんなりの視点で考察していて、それが結構ダイレクトに本質的なところに到達していて面白かったです。まだまだこれインタビューの前半部分で、このあとほぼ日についてなど幅広く展開して色々興味深い内容でしたねー。また他の人のインタビューもなかなか読み応えあるの多くておすすめです。

考える人 2009年 11月号 [雑誌]
新潮社
おすすめ度の平均: 4.0

4 webがどれほど発展しようが紙媒体はなくならないような気がするが…

関連エントリー
糸井重里氏、エロ画像収集について熱く深く語る
故河合隼雄氏最期の対談(考える人 2008年 冬号)は現代人必読です。
インタビュー「荒木飛呂彦先生の描く未来」が面白い
村上春樹最新インタビューまとめ~やたら長い長編執筆中、テーマは『恐怖』
「世間」ってそもそも最初はどういう意味だったの?
「仲間はアタシの帰るトコロなんですよ」と彼女は言った

スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク