「グローバリゼーション 人類5万年のドラマ」ナヤン・チャンダ著

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ (上)
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おすすめ度の平均: 4.5

5 全ては歴史認識とリアリズムから始まる。
3 銃・病原菌・鉄と比較して
5 「フラット化・・」を遥かに凌駕する壮大なスケール
5 人間の宿命としてのグローバリゼーション

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ (下)
ナヤン・チャンダ エヌティティ出版 売り上げランキング: 11841
おすすめ度の平均: 5.0

5 世界史はいつもグローバル(ボーダーレス)
5 フラット化する世界を遥かに凌駕する(上巻から引用)

グローバリゼーションという言葉は、最近はそれほどでも無いが、一時期バズワード的になっていたこともあって頻繁に耳にすることが多かったし、また、様々な意味で使われていた。グローバリゼーションによって経済が成長し、技術進歩があり、人々の生活は豊かになり・・・といった輝かしい意味合いで使われることもあれば、様々な貧困や経済危機や環境問題の原因であり、人々から道徳を奪い去り、グローバリゼーションによって拡大する資本主義が諸悪の根源で・・・と言った忌まわしい意味合いで使われることも多々あり、非常に多面的で象徴的な言葉に近年なってきた。
そのグローバリゼーションとはいったい何者か?について、およそ5万年前の人類の祖先による出アフリカから、21世紀の現代に至るまでの様々なグローバリゼーションの過程を壮大なスケールで生き生きと描き出した大作。著者のナヤン・チャンダ氏は「ファー・イースタン・エコノミック・レビュー」編集長等を経てエール・グローバリゼーション研究センター出版部長、エール・オンライン編集長として第一線で活躍中のジャーナリスト。
とても面白くで知的好奇心をそそられ、かつエキサイティングな本なのだけど、読み物として面白いのはもちろん、特にこの本が魅力的なのは5万年以上にわたるロングスパンの人類史を通してグローバリゼーションという事象を俯瞰できること、時空を超えて様々な事象が結びつき、相互に連関しあっていることだろう。それは目次を見ただけでもわかる。第一章から第五章までが上巻、第五章から第十章までが下巻という構成です。

第一章 すべてはアフリカから始まった
旅の隠された物語/アフリカの一人の母/オーストラリアへの急行便/紅海の晩餐/わが、曽、曽…曽祖父はアフリカ人/黄帝の黒い母/アメリカに渡る/皮膚の色を変える/気候が身体を変える/イチジクの木のルーツ/新たな移住/交易による結びつき/帝国の衝動/信仰を説く
第二章 ラクダの隊商(キャラバン)から電子商取引(eコマース)へ
大きな家はいつ持てるのか/砂漠の船/甘いワイン、干しイチジク、そして学者/インド洋の無賃航海/イタリアの冷たく香り高いワイン/アラビアの大三角帆船と中国の舵/マラバルのユダヤ商人/ヴェネチアの喉を扼するメラカの手/「悪魔の使いよ、おまえは何をしにきたのか?」/金貨からオンラインのペイパル決済へ/銀、繊維、香辛料の三角地帯/粘土板からインターネットへ/メラカからメンフィスへ/新たなモンスーン
第三章 ワールド・インサイド――世界がその中に詰まっている
マネーより換金性の大きな綿/不信心者の糸は使うなかれ/王様になった綿と奴隷/供給チェーンとタコ部屋/跳ね回るヤギ/悪魔のおいしい飲み物/コーヒー豆に愛をこめて/飢えをごまかすもの/インターネット・カフェ/押し合いへし合いするゼロ/タレスの琥珀/コロッサスからマイクロチップへ
第四章 布教師の世界
信仰と旅/黄金を求めて/仏陀の足跡/絹の貿易/ナザレの大工/伝道葡萄/アフリカに「神のハイウェー」を通す/砂漠の啓示/聖戦がアジアにやって来た/すべての道はメッカに通ず/「茹だってしまえ、汝、悪魔の申し子よ」/「暗さを乗ろうより蝋燭を灯すべし」/認識は瞬時に行き渡る
第五章 流動する世界
ハンノと河馬/キリンを持ち帰る/「百万の法螺」の旅/旅行者の馬取引/ユダヤ人のマルコ・ポーロ/「知識を求めよ、中国に行ってでも」/新世界のゴールドラッシュ/マカタン島での非業の死/統治とは人を住まわせること/奴隷、苦力、旦那様/カリブ海への棺桶船/ジャマイカ人、ロンドンに襲来す/移民特急――セヴィーリャからサイゴンまで
第六章 帝国の織りなす世界
世界帝国の夢/偶像崇拝者を殺せ/アフリカの誘惑/モンゴル人の種を蒔く/征服し、住まわせよ/言語ネットワーク/神の道具としての帝国/法の帝国/モンゴルの贈り物はズボンと弓の弦/中国の火薬、ペルシアの工業技術/朝鮮人、キムチを手に入れる/本物のノアの方舟/ヴィクトリア女王の世界に伸びる電信線
第七章 奴隷、最近、そしてトロイの木馬
ヨーロピアン・ドリーム/最古の貿易/奴隷―兵士、労働者、コンパニオン/奴隷・砂糖コンプレックス/アジアとアメリカ大陸の架け橋/産業革命の推進/彼方からの見えざる脅威/死のハイウェー/検疫の誕生/兵士、蒸気船、そしてスペインかぜ/国境なき病/ウィルス・ハンター/キスマーク/ゼロデイ・ウィルスを警戒/犯罪市場
第八章 グローバリゼーション――流行語から呪われた言葉へ
スプートニクとアムネスティ・インターナショナル/グローバリゼーション=保護主義/国際貿易は過去、グローバリゼーションは未来/ブラック・マンデー(暗黒の月曜日)/GO-GOグローバリゼーション/グローバリゼーションの「バンブー(空洞)効果」/人殺しのWTOを殺せ/グローバリゼーションはここにある/九・一一ショック/反グローバリゼーションからもう一つのグローバリゼーションへ/アウトソーシングの脅威
第九章 グローバリゼーションを恐れる者は誰だ?
疫病が見の貿易/全滅/空飛ぶ牛、ビッグマック/長距離公害/不条理劇/解雇通知とウォルマート/仕事泥棒の侵入/低賃金、高度処理能力/大金持ちと美容師の国/ポーランド人配管工の溶解/丸見えの勝者と敗者/ラテンアメリカ、アフリカの疑惑の発展
第十章 前途
貧困から救済された数百万の人々/解き放たれた資本、失業者/金持ちのパーティータイム/世界的流行病の暗雲/帝国の負の遺産

この目次だけでドキドキしてきませんか?先日第三章からコーヒーの歴史についてまとめたエントリー「世界と人々の暮らしを激変させたコーヒーの1000年の歴史」を書きましたが、この目次の通り、第一章から第七章にかけて様々な人々、商人、宗教家、冒険家、戦士らがいかにして世界に拡散し、そして世界を結びつける役割を担ってきたかが描かれ、第八章、第九章で現在のグローバリゼーションという言葉が抱える諸問題や実情の考察があって、最後にこれからの世界について、希望と絶望とが入り交じった将来像が浮かび上がっていくという、世界史上の様々な出来事がグローバリゼーションという言葉をキーにしてつながり合っていくダイナミックな構成で描かれています。
グローバリゼーションとは何か?を表すことは難しい。その言葉が意味する変化は第八章で様々なデータを元に考察されているが、それこそグローバリゼーションという現象を是とする人たちはそのもたらした莫大な利益を声高に主張するし、グローバリゼーションという現象を非とする人たちは、グローバリゼーションによって失われた様々な事柄と苦境に立たされた人々の悲劇を殊更に強調する。

(下:P153)
相互接続、相互依存社会の現実を理解する最善の方法は、おそらくグローバリゼーションをめぐる解釈論争に巻き込まれることではなく、相互接続を推し進めてきた力やグローバリゼーションが辿ってきた歴史的道筋を検証することである。

僕も上記のような著者の意見に同意したい。
グローバリゼーションという相互に連関しあう事象は時を経ていくにつれてつながりあうもの同士の影響の度合いを強め、一方に利益をもたらしつつ、一方で多大な損害を与えつつ、距離を近づけていく。著者は「超結合社会(ハイパー・コネクテッド・ワールド」と呼ぶ。
だが、確かに世界中で、世界がつながっていくことによって悲惨な出来事が起き、格差が生じているじゃないかというだろう。そのとおりで、グローバリゼーションによる市場の近接化と経済成長は格差も産む。しかし、経済成長は貧困を減少させもする。果たしてどちらが大きいのか?について、ここポイントだなと思ったところがあるので引用すると、

(下:P204)
世界銀行のブランコ・ミラノヴィッチは、二〇〇三年に九五ヵ国で実施した家庭収入調査の最新かつ詳細なデータを使い、アナリストのランドバークとスクワイアの結論―「われわれが得た確証は、開放経済で恩恵を受けるのは、微々たる利益であっても富裕層だということだ」に近づいた。平均的な中流諸国の経済水準が上がると、貧困層や中流階層の収入は、上位二〇パーセントの高所得者と比べて相対的には増えるとしながらも、ミラノヴィッチは、「開放経済は以前よりひどい所得格差をもたらしているようだ」と結論づけた。
こうした調査結果は、貿易が拡大すれば格差はさらに広がり、最貧困層の収入はゆっくりとしたペースでしか増えないことを示唆している。

つまり、経済成長によってまず富裕層が最大の恩恵を受け、格差は「急」拡大する反面中流層、貧困層の収入は「ゆっくり」と微増していき、「最終的に」豊かになるということのようだ。
交易はすべての人々をより豊かにする」が、その過程でよりシビアな形で成長と分配という「トレードオフに直面」するということなのでしょうね。
そして、グローバリゼーションという事象のこれからについて、「数千年をかけ勢いを増してきた相互依存の複雑なプロセスを止めることはできない」としながらも「グローバリゼーションの「中断期」に向かって進んでいるのかもしれない」と危惧している。そしてそれは確かに現実のものとなりつつあるのかもしれないと思います。
リチャード・セネットがその著書「不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化」で英国の政治を例に出して政治のプラットフォーム化が進むと双方の政策に差がなくなっていくので小さな差異を殊更強調してまるで大きな違いであるかのように言い立てるようになり、そういう傾向が例えば移民排斥などの差別へと繋がっていったという趣旨のことを書いていたが、グローバリゼーションという急速な結合は、同様に人々の様々なアイデンティティを揺るがせ、「小さな差異の強調」を産むかもしれない。その結果、グローバリゼーションの過程で強いローカリゼーションが進むのだろう。例えばかつての日本の村八分もそういう構造を持っていた。
結合が人々の間に断絶を産み、悲劇を巻き起こしながら、しかしより強く結合していくという方向へと無情にも歩んでいくというのが、この本で描きだされた人類の歴史だと思う。この国でも、その過程で「日本的なるもの」は、新たな格差や差別や経済社会の変化を招き、また様々な文化を再生産しつつも、溶解していくのだろう。
グローバリゼーションは「中断期」を迎えつつもその歩みを止めず、より人々を近づけ、結びつけていくが、その超結合世界の中で「小さな差異の強調」ではなく「多様性」をいかに保ち、創り上げていくか、ということがこれから特に重要なのだろうと言う思いを、読み終えて新たにした。共通化と多様化とのトレードオフ、あるいは矛盾をいかにして解決し、共存させていくかということなのだろうな、と思う。
ということで、この本、おすすめです。
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5 人間わずか10万年、下天のうちに比ぶれば
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5 人類の全地球への伝播が、理解できた
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2 ビジュアルなやさしい本なら ・・・

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