現代人のための神仏習合入門その1「神仏習合のはじまり」

よく、日本は神仏習合の社会だと言われます。特に最近は、一神教と比較して日本の多様性・独自性を強調する場合に使われるのを良く見かけますが(個人的には、そういう言説に危ういものを感じますが)、では、神仏習合とはどのような現象なのか?についてはあまり語られることなく、「神仏習合」という単語が一人歩きしている印象を受けることが多いように感じます。そこで、神仏習合について何回かに分けて簡単にまとめておこうかと思います。
主な参考書籍は義江彰夫著「神仏習合」、末木文美士「日本宗教史」など。
神仏習合は八世紀から十三世紀にかけて土着の神祇信仰と仏教とが複雑に結合し独特な信仰複合体を築きあげた現象ということができます。ただし、ここで留意しておかないといけないのは、仏教と神道の二つの宗教の混淆ではなく、また、個別の神と仏の関係などによって多様な結びつき方をしているということです。
神仏習合という現象は以下の四つの段階を経て形成されます。
1)神々の仏教帰依(神身離脱)と神宮寺の建立
2)怨霊信仰の登場
3)ケガレ忌避観念と浄土信仰の登場
4)本地垂迹説と中世日本紀の登場
この記事では、神仏習合の初期段階神々の仏教帰依(神身離脱)と神宮寺の建立についてまとめます。
神仏習合はまず、神々の仏教帰依から始まりました。
■神々の仏教帰依(神身離脱)と神宮寺の建立
記録によると天平宝字七年(西暦763年)、伊勢国桑名郡(現三重県桑名市)にある多度山の神、多度大神は人に乗り移ってこう託宣を下したという。

我れは多度の神なり。吾れ久劫(きゅうごう)を経て、重き罪業をなし、神道の報いを受く。いま冀(こいねがわく)ば永く神の身を離んがために、三宝に帰依せんと欲す。
長きにわたってこの地方を治めてきた結果、いまや本来の神道からはずれて重い罪業に苦しめられ、神道の報いを受けるところに至ってしまった。いまこの桎梏から脱出したいが、そのために神の身を離れることが必要であり、仏教に帰依したい(義江「神仏習合」P11-12)

このように、神様としての勤めをしているうちに自身の罪の意識にさいなまれ、このままでは神様の職務(?)を全う出来ないので、仏教に帰依したいという趣旨の告白をする神が八世紀に入るころから各地で続出。そこで、神社の近くに神様が仏教修行するための寺院(神宮寺)の建設が行われ(最も古い神宮寺の建立は715年)、その後、仏教の高僧たちから、神様は仏教の修行をよく頑張ったと認められて菩薩となっていくというプロセスを、辿ったようだ。ようだ、というのは必ずしも資料が残っていると言うわけではなく、また例外的な、たとえば元々仏教的な色彩の濃いい八幡神などの場合もあるからだが、全体的な流れとしては前述のような神身離脱→神宮寺の建立→仏教神化という展開をしていったと考えられている。
なぜ、このような神仏習合現象が起きたのか?の前に、神仏習合前史となる仏教伝来以降の歴史を簡単におさらいしましょう。
■神仏習合前の仏教史概略
日本に仏教が伝わったのは西暦538年。仏教の導入を巡って反対派の物部氏と賛成派の蘇我氏の間での政争などもあったが、まずは中央の権力者層と主要な豪族たちの間で信仰が広がり、推古朝の四天王寺を皮切りにして七世紀~八世紀にかけて法隆寺、薬師寺、東大寺、国分寺などといった官寺、私寺が次々と建立されていくとともに大乗仏教の僧侶を組織化。南都六宗という六つの宗派が勢力を伸ばした。
南都六宗の各宗派は基本的には仏教の学究を中心としており、現実に苦しむ人々を救えないという問題から、より具体的に個人の修行を重視した密教が注目を集めるようになる。そこで登場するのが最澄と空海という二人の仏教史上の巨人で、当時インドでもヒンドゥー教に押されて大乗仏教が見直されており、大乗仏教より呪術性が強い新しい仏教=密教が誕生していた。最澄、空海はともに遣唐使に随行して中国に渡り密教の経典を持ち帰ると、最澄は比叡山、空海は高野山に寺院を建設、それぞれ天台宗、真言宗とした。前者を台密、後者を東密、最澄・空海以前に大乗仏教とあわせて民間に伝わっていた密教的信仰を雑密と呼ぶ。
ここまでが神仏習合前から初期にかけての簡単な仏教史ですが、もう一つ、当時の律令国家の体制についてもおさらいしておく必要が有ります。
■律令制度の概要
663年、白村江の戦いで敗退し国際的な孤立を深める状況下で天智天皇の死後に壬申の乱によって政権に就いた天武天皇は朝廷の権限強化に注力していきます。具体的には豪族が占めていた官職のうち主要ポストは皇族を充て、その下の官僚には庶民も含めた能力ある者に門戸を開いて登用するとともに、評価制度を整備し、戸籍や税制改革、法令の整備などに当たります。その天武天皇の死後、701年、天武天皇の遺志を引き継いだ法典大宝律令が制定。
大宝律令は天皇を中心とした二官八省の官僚機構とその下に地方の行政区分や職責を明確にした地方官制が整備されるとともに、刑法にあたる「律」と民法行政法にあたる「令」が揃い司法が確立。さらに大宝律令下で身分制度や税制、兵役、戸籍等も整備されていた。
神仏習合の話を踏まえる上でポイントになるのが二官八省の官僚機構の二つの官。ひとつは政務を司る太政官。もう一つが祭祀を司る神祇官と呼ばれる役職で、この神祇官の下に全国の神社が編成されることになった。
■神祇官による徴税バックアップシステム
神祇官の重要な職務の一つに幣帛班給というものがあります。これについて、義江彰夫著「神仏習合」から引用します。

「神仏習合」(P31)
神祇官は、大宝律令が定められた七〇一年(大宝元年)いらい、地方の古来の祭りを土台として収斂・変容するかたちで設定した祈念祭(豊年祈願)・月次祭(季節の順調な運行祈願)・新嘗祭(収穫祭)などの祭りを執行するに先立ち、朝廷が公認した全国の神社の祝部らを神祇官に集め、神々への捧げ物(幣帛)を前に、神祇官役人中臣氏が神々に感謝と加護の祝詞を読み上げ、それが終わるや、居並ぶ祝部らに同じ役人忌部氏がこの幣帛を班給する。

これはどういう儀式かというと、ざっくり言うとこういうこと。
皇祖神の霊力に満たされた捧げ物(稲穂など)を全国から選ばれた神社の祝部(神主)に分け与えて各々の地域に持ち帰らせる→上記と同様の儀式を祝部が各村々で行い、村人達に捧げ物を分配→村人たちはその捧げ物を使ってその年の生産に励む→収穫→村人大喜び→皇祖神への感謝の気持ちを引き出す→収穫のお礼に喜んで納税、という当時の人々の呪術的な信仰心を上手く制度化した徴税バックアップシステムだった。
ということで、仏教史と当時の政治体制をおさらいしたところで、やっと本題。神仏習合は何故おきたのか?
■神仏習合を招いた社会構造の変化
律令国家以前の社会は基本的に呪術的で共同体的な明確な支配・被支配の色が薄い社会だった。もちろん奴隷は居たし身分も分かれてはいたが、支配者は祈念祭・新嘗祭など共同体の生産に関する神事を祭祀し、また神とのつながりを明示することで地位を築いていた。そのような共同体の代表者的な緩い共同体の連合がヤマト王権であったと考えられている。
しかし、律令制度のように組織化が進んでいく過程では「みんなの代表」というような緩い立場から支配-被支配を明確にしていく必要があり、それは旧来の神祇信仰では説明が付かないものだった。また、生産力の向上によって地方豪族など有力者は神の名の下に私有財産を築きつつあり、形式上は神々への献上物の一部を村人承認のもとに私財に転化するというものであっても、事実として力を蓄えつつあり、そこに彼らは罪の意識を覚え始めてもいた。
生産性の向上による私財の蓄積、共同体の代表から支配者へという社会構造の転換という大きな変化の中で新たな精神的支柱になるのが仏教であった。上記の神の願いはそのまま当時の支配階層が神の託宣という形で漏らした願いだろう。「長きにわたってこの地方を治めてきた結果、いまや本来の神道からはずれて重い罪業に苦しめられ、神道の報いを受けるところに至ってしまった。いまこの桎梏から脱出したいが、そのために神の身を離れることが必要であり、仏教に帰依したい」という支配者の苦悩が神仏習合を生んだ。
しかし、神でも有り続けなければならなかった。支配者以外の”みんな”は神を信仰していたからである。神々に感謝し、神々からの託宣を聞き、呪術的な儀式や祭りは生活の一部だった。仏教に救いを求め、また仏教の論理によって自身の私有と支配という現状を肯定しつつも、みんなの代表として神々との折り合いをつける役割を果たさなければならないという状況が神仏習合という現象につながった。
そして、中央の支配者層は南都六宗に代表される大乗仏教に帰依していきますが、神仏習合の第一段階である神宮寺の建立に活躍したのは密教の僧たちでした。大乗仏教の抽象性ではなく、呪術性が強く既存の神祇信仰と親和性が高くて、かつ個々で具体的に何を修行していけばいいのかという実践的な内容だったからです。特に雑密の僧侶たちと空海率いる東密の僧侶たちが神宮寺建立と神々の仏教帰依を支援していったとのことです。
このあたりは、例えば現在でもベンチャー企業の経営者や、あるいは新任の管理職さんたちはある種の共感を覚えるのではないですか。自身の所属する共同体が急速に組織化していく過程だったり、あるいは自身の役割に一気に支配という観念が入ってきたときに感じるジレンマと根本的に通じるものがあると思います。そして、何かに救いを求めてしまう心証も。
さて、その後ですが。
■幣帛班給制度の崩壊と呪術的共同体の解体
八世紀後半から九世紀前半、大きな変化が訪れます。
幣帛班給制度の崩壊です。地方の祝部が徐々に幣帛を取りに来ないという事態が起き始め、それが一気に広がっていきます。幣帛班給制度は徴税システムと密接に関わり合っていましたので、度々朝廷は取りに来るよう全国に発令し、罰則も適用させますが効果は薄く、ついに朝廷から地方に幣帛を届けるようにまでなりますが、幣帛班給制度の行き詰まりは明らかでした。
その理由は、律令国家そのものにありました。

「神仏習合」(P70)
律令国家の組織力で、条里制の整備、用水路の確保、山野の田畠への開発などが推進され、数十年をへて軌道に乗ってくると、この基盤整備が功を奏して、村々はそれ以前に比して飛躍的に生産力が上がり、国家への租税を差し引いても、なお村の内部に富の余剰が生じてくる。このような動きが顕在化してくると、いきおい、村長や富農など、古来ある程度富を蓄積していた層の私富形成に大きな拍車がかかるのは必然である。

その結果、共同体が徐々に無効化していきます。持てる者たちはその財で他所から流れてきた田夫を雇って大規模に農業を担わせ、それまでの祭りは形式的に行われる程度で最低限の捧げ物と税の他はすべて私富にすることで私的領主化していき、一方で貧困化した村人たちは他所の村へと流れ、そこで私的領主に雇われる田夫として働くようになります。
さらに村長や富農を束ねる地方豪族たちもこの変化の中で、村長ら新興勢力に負けないために大規模な私的領主化をし始めます。その結果、幣帛は不要になっていったのでした。
この私的領主化は朝廷にとってその体制を揺るがす大問題であり、対応に迫られます。しかし豪族たちの私的所有を禁じたところでそれができるはずも無く、だからと言って現状を認めることは、律令制度そのものの否定に繋がりかねない。そこで、採られたのが仏教に帰依した神のために建てられた神宮寺を朝廷が公認し、その後ろ盾によって彼らの私的領有権を黙認しつつ、租税徴収の実効性を保証するというものでした。
「仏教に帰依する神」であり続けることで精神的・政治的な保証が確保でき、さらに力と財を蓄えることができるようになったのです。また、神宮寺を国家が公認することで旧来の大乗仏教は密教化せざるを得なくなります。九世紀末までに全国の寺院や神宮寺は東密・台密の二代大乗密教の系列と化していきました。
神仏習合の進展の過程で、前述のように旧来の共同体が解体し、富裕層と貧困層の格差が拡大するとともに、私的領主として富を蓄えられなかった没落者=負け組が生まれていきます。そのような変革と社会不安の中で神仏習合の第二段階「怨霊信仰」が登場していくことになるのです。
(つづく)
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参考サイト
・085 義江彰夫 神仏習合/モナ丼/本読
神仏習合をどう語るのか
山岳信仰と密教伝来 – 何でも知ってるタカハシ君のうんちく日本史XYZ
KanseiTaikan_Jingikan
日本の仏教 – Wikipedia
密教 – Wikipedia
日本の官制 – Wikipedia
古代日本の地方官制 – Wikipedia
大宝律令 – Wikipedia
律令制 – Wikipedia
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