原理主義のイデオロギー・組織に関する9つの特徴

小川忠著「原理主義とは何か―アメリカ、中東から日本まで (講談社現代新書)」によると、米国の宗教学者マーティン・マーティ教授らが中心となって行った原理主義研究プロジェクト(通称シカゴ大プロジェクト)は世界の主な宗教における教義、世界観、社会状況、規模、教団の組織等を分析し、原理主義の共通特性について、イデオロギー的特徴と組織的特徴について総括しているという。それによると原理主義の特性は以下の通り。

イデオロギー的特徴
○近代化による宗教危機に対する対応
○選択的な教義の構築
○善悪二元論的な世界観
○聖典の無謬性の主張
○終末観的世界認識と救世思想
組織的特徴
○選民思想
○組織のウチとソトとの明確な区別
○カリスマ的な指導者の存在
○厳格な規律、行動規範

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1)近代化による宗教危機に対する対応

世俗化、近代化の進展による社会変化によって、特に近代国民国家の政教分離原則が宗教を個人の領域に限定し、公教育においても宗教を排除しようとすることや、宗教に変わって自由民主主義や社会主義等宗教性を持たないイデオロギーが推進する近代化や世俗ナショナリズムが、宗教危機を招き、伝統的なコミュニティを解体するという危機感を持っている。

また、米国の宗教学者ユルゲンスマイヤー教授によると、脱宗教であるはずの世俗ナショナリズムも宗教が有する教義、神話、倫理、儀礼、体験及び社会組織という六つの基準を満たしており、非西洋の側から見ると一つの宗教に見えるという。

2)選択的な教義の構築

原理主義は以下の三つの点で選択的であるという。
(1)原理主義はその属する宗教のさまざまな教義の中から、特定の教義、思想を選ぶことによって、独自性を獲得しようとする。
(2)近代に反発しつつも、近代が有するいくつかの面、特にキリスト教の宣教技術や科学技術などについては選択的に摂取しようとする。
(3)近代に対する反発のうち、近代のどの要素に反発するかも選択的である。例えば中絶に固執するキリスト教原理主義団体など。

原理主義とは何か―アメリカ、中東から日本まで (講談社現代新書)」(P27)
つまり、原理主義者が直面する政治状況、社会状況に応じて、最も都合の良い教義、聖典が引用され、近代の肯定、否定も状況によって、解釈は変えられるのである。

3)善悪二元論的な世界観

善と悪、ウチとソトという構図が描かれ、他者=邪悪という位置付けの元で外部から侵入を図ってくる悪魔から仲間を守り、神の世界を実現するという世界観を持つ。善悪二元論は主にアブラハム宗教の特徴であったが、もともと善悪二元論に馴染みが薄い多神教地域でも敵となる他者を作り出す原理主義的思想が生まれている。

4)聖典の無謬性の主張

聖典に一切誤りがないと主張し、聖典の解釈を否定し聖典を絶対視する特徴がある。しかし、解釈の余地がある部分を文字通り読むというのも一つの聖典解釈であり、また上記2)のように選択的な教義の構築をしているなど、聖典の無謬性の主張そのものが時代状況に応じた一種の戦略であると見られている。

5)終末観的世界認識と救世思想

やがて最後の審判が下され、その前に救世主が登場して神を信じるものだけが救われる。その後楽園が登場する、という終末論とユートピア思想がセットになったキリスト教やイスラム教などアブラハム宗教の特徴的な世界観をアブラハム宗教以外の地域でも原理主義的運動に持ち込まれている。

6)選民思想

自らを神に選ばれた者と考え、さらに自らの組織の中でも幹部集団とそれ以外の構成員とを峻別する傾向がある。

7)組織のウチとソトとの明確な区別

構成員であるかないかの境界線を明確にし、外の者たちは罪深い者とみなす傾向がある。

8)カリスマ的な指導者の存在

構成員の自発性、自覚が高い一方でカリスマ的指導者を持つことが多く、指導者の指示は組織内で絶対視される。但し、構成員の自発性が強いことと、カリスマ的指導者の存在とが組織内に亀裂を生み分裂へとつながることが多い。

9)厳格な規律、行動規範

集団行動を重んじ、構成員の日常生活には厳格な規律、行動規範が示される傾向が強い。

ただし、同プロジェクトの分析ではキリスト教、イスラム教、ユダヤ教などのアブラハムの宗教においてはこの九つの特徴に当てはまる場合が多いが非アブラハムの宗教(ヒンドゥー教、仏教など)においては外れるものも多いため、分析結果を「アブラハム系原理主義」「原理主義的運動」「非原理主義運動」に分類しているとのこと。

著者の小川忠氏はこのシカゴ大プロジェクトの分類とユルゲンスマイヤー教授が「シカゴ大プロジェクト」を批判する形で定義した「宗教ナショナリズム」との分類を組み合わせて、上記の9の特徴を踏まえた宗教運動について「原理主義」と「宗教ナショナリズム」という二つに分類を行っている。

「原理主義」
近代化を推進する世俗政治権力に対して宗教の側から反抗を試みる思想、運動
「宗教ナショナリズム」
原理主義と類似性を有するが、政治目的と宗教目的が合体して国民国家の統合を強化しようという思想、運動

この分類がとてもわかりやすいと思う。例えば前者は米国でID論や中絶反対、アンチフェミニズムを推進するキリスト教右派勢力やアルカイダ、ジハード団など、後者はインドのヒンドゥーナショナリズムやスリランカのダルマパーラに始まる仏教ナショナリズム、日本の国家神道や昭和初期に生まれた日蓮主義思想などがそれにあたる。

そして、原理主義の決定的な特質として、「その宗教の原点となる教祖がいた時代、コーランや聖書のような聖典が書かれた時代」という過去を理想とするが、その過去とは誰も体験したことの無い「原理主義者の「想像上の過去」」であるということが上げられる。そして、その「想像上の過去」を絶対視するが故に過去の名の下にそれまで続いてきた秩序を破壊するという革命理論に転化し、また「自分たち固有の原理に固執するという側面では排外主義という反革命の原理にもなる」という二面性を持つ。(「原理主義とは何か」P22,38より)

このような分類を見ていくと、原理主義についての理解が深まるとともに、宗教のみならず、身近にある様々な活動の原理主義性のようなものにも気付かされます。もうしばらく、原理主義については色々調べてみたいと思っています。

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