アメリカの政教分離と見えざる国教

アメリカの政教分離原則について簡単にまとめ。アメリカの政教分離原則は合衆国憲法修正第一条で以下のように規定されている。

アメリカ合衆国憲法 – 在日米国大使館
アメリカ合衆国憲法修正第一条
修正第一条 連邦議会は、国教を樹立し、あるいは信教上の自由な行為を禁止する法律、(中略)を制定してはならない。

ここで定められているのは教会と国家の分離(Separation of Church and State)であって政治と宗教の分離ではない。特定の教派を国教として定めたり特別扱いせず、各宗派とも自由に活動させ、競争させるという趣旨になっている。

この背景にはアメリカ合衆国建国の歴史と不可分な事情がある。そもそもピューリタンたちはイギリス国教会が支配的だったイギリスから逃れて、それぞれの宗派が信じる宗教的な生活を送りたいと思いアメリカ大陸に渡ってきた。

会衆派はマサチューセッツを開き会衆派を公認宗教とする神権政治を行っていた。そのマサチューセッツのやり方に不満を持ったバプチストのロジャー・ウィリアムスが信教の自由を原則として作ったのがロードアイランド、同じくマサチューセッツから逃れた人びとが作ったのがコネチカット、クエーカー教徒はペンシルベニア、カトリックはメリーランドと言った具合に各植民地とも個々に宗派を公認宗教として持ち宗教と不可分なコミュニティを作っていた。

このため、13植民地をとりまとめることになる連邦政府としては中立な立場を取る必要があり、そのため政教分離原則が盛り込まれた。つまり各州の宗教には介入しないし、特別扱いもしませんよということ。

当時、13州のうち12州で公職に就くにはキリスト教徒であることが求められ、また5つの州で公認宗教が定められていて、各州の公認宗教の廃止は1833年、1868年に憲法修正第一条を拡大適用し、公職に就く条件を制限することの禁止を定めた修正第十四条が制定された後もキリスト教徒であることを条件とする規定は一部の州で続き、最終的に全州で公職に就く際の宗教的資格要件条項が撤廃されるのは1961年のこと。

修正第一条の解釈については長く裁判が行われていたが、その意味するところを具体的に出した判決が1947年の「エヴァーソン対教育委員会事件」で修正第一条は以下の6つのことを意味するとされた。

1)連邦・州による教会の設立の禁止
2)ある宗教を補助したり、すべての宗教を補助したり、ある宗教を他より優先させることの禁止。
3)教会に行く、または行かない、宗教を信じ、または信じないことの告白を強制したり、それに影響を与えたりすることの禁止。
4)宗教を信じ、または信じないこと、またそのことを告白したこと、教会に出席し、または出席しないゆえに制裁を課されないこと。
5)宗教的活動や制度を支えるために租税を徴収することの禁止。
6)連邦・州が宗教組織・団体の事項に関与すること、あるいは逆のことの禁止。

またその後1963年から1971年にかけて国教樹立禁止条項のもとで州の行為が合憲とされるための三つの条件を示した。

1)法律は世俗的な立法目的を有していなければならない
2)その主たる効果が宗教を促進し、あるいは抑圧するものであってはならない
3)法律は「政府と宗教の過度の関わり合い」を促進してはならない
(以上、蓮見博昭著「宗教に揺れるアメリカ」(P39-45))

これらが最高裁の判例として、後々の係争で基準として使われるようになるが、批判も多く微妙に無視されることもあるという。

このように政治が宗教に介入することの禁止が概ね定められていて、宗教が政治に影響を与えることについては直接の制限は厳格ではないというのがアメリカの実情ということのようだ。

このような背景で多民族、他宗派を一つの国家としてとりまとめるために汎ユダヤ・キリスト教的な儀礼や思想をベースにして「市民宗教」あるいは「見えざる国教」と呼ばれる宗教的信条が作られアメリカ合衆国のナショナル・アイデンティティとなっていると考えられている。例えば大統領選挙や大統領就任式での聖書への宣誓とキリスト教儀礼に類似した式次第、あるいは硬貨に刻まれた”In God We Trust”など。

いわば大統領を祭司とした神権政治的側面をアメリカは持っており、それがアメリカの様々な政治、思想、生活等に影響を与えている、というところが理解出来ると色々見方が変わりそうです。

参考書籍
・森孝一著「宗教からよむ「アメリカ」 (講談社選書メチエ)
・蓮見博昭著「宗教に揺れるアメリカ―民主政治の背後にあるもの
・大宮有博著「アメリカのキリスト教がわかる―ピューリタンからブッシュまで
・飯山雅史著「アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)

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