人はなぜ「貧しくても幸福な生」の物語に憧れるのか

「貧しくても幸福な生」について、社会学者の見田宗介氏はこう書いている。

見田宗介著「現代社会の理論」P107
貨幣経済の支配しつくしたシステムの中で、しかし貨幣を少ししか得ることができず、(つまりげんみつに貧困で、)けれども愛情や感動のような至高のものに祝福されてあるような生のことである。

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4 消費社会の誘惑を覗き、不安ト恍惚ワレニ。この克服をいかに。
4 あたらしい視点
4 骨董的価値
5 先見の明、褪せることなく輝く。

至高のもの、それは「生きるということの意味と歓びの源泉である限りの他者」の存在であり「究極には、たがいに他者である人と人との相渉る他のない世界の内で、<魂の自由>を相互に解き放つような」関係性の存在である。(見田宗介著「社会学入門」P169-170)
「貧しくても幸福な生」への憧憬は、そのような理想のソーシャル・キャピタルへの憧憬であり、また、日々の生活の中で感じる「至高のもの」の不在と渇望ゆえに、人々は物語としての「貧しくても幸福な生」に惹かれ、夢中になるのだろう。
それは往々にして「失われた想像上の過去」への憧れ、擬似懐古のかたちを取ることになる。現実ではなく、想像上の、かつてあったかのような幻想と共に立ち上がる旧き良き過去。
人は何故「失われた想像上の過去」を求めてやまぬのか。近代とは共同体の解体と共同体からの解放の歴史である。古い因習が支配し、一生を共同体に捧げ、共同体の一員として死して家郷へ帰る、その呪縛からの解放によって、人は個人としての自由を求めた。
都市の空気は自由にする、はずだったが、共同体が独占していた個人の生の解放の役割を担った貨幣と市場経済システムは本質的に凝縮された共同体を散開させるシステムであった。まず第一段階で物質的な拠り所である共同体を散開させ、さらに精神的な拠り所としての共同体の役割もまた散開させていった。共同体の持つ濃密さを微分し、積分するプロセスとしての近代化である。
実際にはそうでないのであっても、主観としての愛情の欠乏、関係性の希薄、どうしようもない孤独、私が私であることの嘔吐、私が私であることからの逃走・・・湧き上がる欲求が「失われた想像上の過去」に理想を求めるのではないだろうか。
ナショナリズム、ノスタルジア、スピリチュアリズムなどの様々な動きを求める欲求はおそらく同一の地平にある出来事であろう。しかしもはや伝統に帰ることも、国家が社会を抱合することも、自由の果てにある自生的秩序の形成も、旧き良き共同体の再生も儚い理想でしかないことが薄々見えてきた今、”新しい公共”(という呼び名は登場した瞬間から陳腐化しているようだが)なるものへの希求が人をつき動かしはじめているのかもしれない。
山脇直司氏は「公共哲学とは何か」で伝統的な公私二元論に代わって「政府の公/民の公共/私的領域の相関三元論」を構想している。詳しく理解出来ていないので言及は避けておくけれど、個人的に、方向性はその「相関三元論」に共感するところ多い。くわしくはまたあらためて書ければ。

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1 門外漢の感想だが・・・
4 他の類書と共に読むべき書
3 現代の我々の責務
2 一つの意見として
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見田宗介氏は理想的な社会のあり方を構想する様式として次の二つを上げる。(見田宗介著「社会学入門」P172より改変引用)

1)歓びと感動に充ちた生のあり方、関係のあり方を追求し、現実の内に実現することを目指すもの
2)人間が相互に他者として生きるということの現実から来る不幸や抑圧を、最小のものに留めるルールを明確化してゆこうとするもの

見田宗介著「社会学入門」P173-174
社会の理想的なあり方を構想する仕方の発想の二つの様式は、こんにち対立するもののように現れているが、たがいに相補するものとして考えておくことができる。一方は美しく歓びに充ちた関係のユートピアを多彩に構想し、他方はこのようなユートピアたちが、それを望まない人たちにまで強いられる抑圧に転化することを警戒し、予防するルールのシステムを設計する。両者の構想者たちの間には、ほとんど「体質的」とさえ感じられる反発が火花を散らすことがあるが、一方のない他方は空虚なものであり、他方のない一方は危険なものである。

おそらく、ここが出発点であろうとおもう。そして、そのユートピアは一つの社会に一つのものではない。人の数だけ構想されるユートピアがあり、それらが互いに交響しあいながら構成されることになるのだろう。

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