人が宗教に入信する過程で見られる7つの条件

伊藤雅之著「現代社会とスピリチュアリティ―現代人の宗教意識の社会学的探究」ではいわゆる「新宗教」(キリスト教世界においては伝統的キリスト教と対立する各宗教、日本においては明治維新以後に登場した宗教教団)への入信(宗教組織の存在を前提として「自らの基本的な意味体系の変化にともなう自己の変容」)プロセスを総合的に理解するための入信モデルを紹介している。

まず、個人の入信に影響する諸要因は大別して個人的要因と状況的要因に分けられる。

(1)個人的要因
 (a)肉体的特性(病気、肉体的疲労)
 (b)心理的特性(耽溺的な性格、宗教的探究心、ノイローゼ)
 (c)社会的属性(年齢、性別、学歴、職業)
(2)状況的要因
 (a)時間的な状況
  ・個人史レベル(人生の転機、ライフサイクル)
  ・集合的、歴史的レベル(ベトナム戦争後のアメリカ)
 (b)社会・文化的な状況
  ・ミクロ・レベル(対人関係、社会的ネットワーク)
  ・中間レベル(宗教の組織形態)
  ・マクロ・レベル(価値観の多様化・相対化)

これらの要因が複雑に絡み合い、影響しあうことが個人の入信の背景として作用する。

これまで入信の研究では大きく二つのアプローチが考えられてきた。一つは人を受動的な存在として考える伝統的パラダイム、もう一つは能動的な存在として考える新しいパラダイムである。

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伝統的パラダイムは、人間が社会的状況に左右されやすい存在と考えられ、洗脳モデルなどが特徴的だが、これに対して新しいパラダイムでは「人間は社会的な状況において、自己と他者の行為に意味を付与する意思をもった存在」であると考えられ、人間を活発な「探求者」であるとして人間の能動的な側面に焦点をあてた入信のプロセスが捉えられる。

現在では新しいパラダイムを取る研究者が多いそうだが、この二つは互いに対立するアプローチではなくどちらも有効で相補的な関係にあると伊藤は言う。その上で、この二つのアプローチを統合する理論として、ロフランドとスタークによるロフランド=スターク・モデルを紹介している。

これはアメリカにおける統一教会の初期の入会者を調査した結果得られた、「ある個人が入信にいたるまでの必要かつ全体で十分となる7つの条件」だという。

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「ある個人が入信にいたるまでの必要かつ全体で十分となる7つの条件」

1)持続的な、激しい緊張(tension)を経験したことがあり
2)その問題を宗教的なパースペクティブ(観点)により解釈しようとする傾向があること
3)その試行錯誤の過程で自らを宗教的な探求者と位置づけて行動すること
4)人生の転機(turning point)で入会する宗教と出会い
5)その集団内の一人以上の信者と感情的な絆が形成され(もしくは前もって存在し)
6)その宗教以外の人たちとの愛着は存在しないか弱まり
7)正真正銘の信者となるためには、メンバーと集中的に相互交流する必要がある

1)持続的な、激しい緊張(tension)を経験したことがあり

貧困、病気、人間関係の問題などによる悩みなどの緊張状態を経験していることで、それは個人の心理的特性とともに年齢や職業などの社会的属性、さらには経済的不況や社会不安など特定の時代背景が大きく影響する。

2)その問題を宗教的なパースペクティブ(観点)により解釈しようとする傾向があること

その悩みなどの緊張状態を、あえて神や先祖の霊など宗教的な観点に結び付けて解消しようとする傾向があること。それは宗教的なものでなくとも、例えば政治的運動を起こすなど、他の方法が多数あるにも関わらず、宗教的パースペクティブに結び付けて理解しようとすることである。

3)その試行錯誤の過程で自らを宗教的な探求者と位置づけて行動すること

たとえばいくつもの教会を渡り歩いたり、様々な宗教書を読み漁りながら自己の問題を解決しようとする行動で、日本の近年の例だと「自分探し」のため自己啓発書を読み漁るなどはそれに近いだろう。

4)人生の転機(turning point)で入会する宗教と出会い

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人生の転機とは、過去から継続していた行動様式が途切れるか完結するかして、新しい生活を送る義務や機会が生じた状況である。病気、離婚、失業、転勤、引越しなどが転機の具体例である。また、若者にとっての転機は教育に関連するものが多く、学校の卒業や中退、受験の失敗、あるいは入学にともなう転地などが挙げられる。

また、具体例では挙げられていないが、女性(または配偶者にとっても)の妊娠、出産は人生の転機として信仰と結びつきやすいように見える。あと配偶者や親族との死別、転機と呼ぶほどではないかもしれないが会社内での昇進など地位・環境の変化もそうだろう。

5)その集団内の一人以上の信者と感情的な絆が形成され(もしくは前もって存在し)

将来入信することになる宗教の教義に接してから、実際にそれを受け入れるまでのギャップを埋めるために、信者との絆が形成されていることが必要となる。

6)その宗教以外の人たちとの愛着は存在しないか弱まり

入信にいたる段階で、信者との絆が強まることと平行して、信者以外の家族や友人などとの関係が希薄になっていく。あるいはそもそも希薄な状態で、信者との感情的な関係が強化されていくことが挙げられる。

7)正真正銘の信者となるためには、メンバーと集中的に相互交流する必要がある

ロフランドとスタークは信者を「形式的な信者」と「完全な信者」に分類している。

  • 「形式的な信者」・・・これまでの6つの条件を満たしてその宗教の世界観を受け入れてはいるが、行為レベルでの変化までは見られない人々
  • 「完全な信者」・・・本人の意味体系が変容し、思想的にも行動においても特定の宗教の一員となった人々

この「完全な信者」となるために、毎日のように他の信者と集中的に交流することが必要となる。

このロフランド=スタークモデルは数多くの入信に関する実証研究で用いられ、中立的な人間観に立ち過ぎているという批判もあるものの有効なモデルとして考えられている。しかし、現在ではこれがすべてを満たす必要はないと見られており、この七つの条件のうち「5)その集団内の一人以上の信者と感情的な絆が形成され(もしくは前もって存在し)」、「7)正真正銘の信者となるためには、メンバーと集中的に相互交流する必要がある」の二点のみ必要不可欠な条件であるというのが研究者間の共通の見解であるという。

また、該当する宗教運動が一般社会の価値観から逸脱している、あるいは独自の共同体を形成している場合には2)、3)、6)の条件が必要不可欠になるという。このように、対象となる宗教に応じて七つの条件は重要度を変えていくもので、必要不可欠ではないが、入信に関するチェックポイントとして有効だとされている。

以上、伊藤雅之著「現代社会とスピリチュアリティ―現代人の宗教意識の社会学的探究」P39~59「3章 入信の社会学」を元にしたまとめでした。

いくつか補足的に。

脇本平也は「宗教学入門」でカール・ヤスパースの「限界状況」について説明している。「限界状況」とは「人間が乗り越えることのできない限界をなし、選択のきかないものとして人間に課せられている状況のこと」で、「偶然」「闘争」「死」「負い目」などが挙げられる。例えば「偶然」の思いつきが歴史的な発明を生むこともあれば、偶然の事故によって大怪我を負ったりあるいは死ぬこともある。受験戦争、就職戦争や仕事上の競争など人生の上で人は様々な「闘争」にさらされ、さらには自分とも「闘争」する必要性すらでてくる。また「死」は誰のもとにも訪れるし、身近な人の死もまた直面させられることになる。そして、生まれたときから人は「闘争」して生き残ってきた結果、いわば無数の犠牲の上に生きている。その人たちへの「負い目」は人一人では背負いきれないものがあるだろう。

そのような生きていく上でどうしても直面する「限界状況」はどれも解決しがたい難問をはらんでおり、避けて通れないものとして立ちはだかることになる。人生の基本構造として、そのような限界状況に直面する悩みの中で人は「聖なるもの」を求めるようになる。その聖なるものというのはつまり「いのちの拡充」ということだ、と脇本は言う。

このように、上に挙げた7つの条件の1)持続的な、激しい緊張(tension)というのは、人が生きていく限りにおいて必ず直面し経験せざるを得ないということになるのであって、その難問をいかに自身の中で消化し、昇華させていくか、その過程で入信というプロセスを辿る可能性は、おそらくすべての人々にあるのではないだろうか。

疑似科学、スピリチュアルなどについては追々まとめていきたいと思っているが、一点だけ。

上の条件4)で敢えて例として追加したが女性の妊娠、出産は特に現代社会において「大きな転機」であり、様々な形で思い悩む「激しい緊張」をもたらす原因であるが、特に宗教性、疑似科学性が強い様々な代替医療、信仰集団が、その「転機」を利用して入信へと至らせようとする傾向があるようだ。

特に必要不可欠とされる5)と7)の条件、つまり出産や妊娠時の悩みを解消するためのパースペクティブを提供し、感情的な絆を積極的に築いてきて、そして同じ悩みを同様のパースペクティブで解消した「信者」との集中的な交流を図る、というプロセスが共通している。

そこで妊娠・出産に直面している当事者や配偶者・家族は極力他のパースペクティブがあることを提示・理解し、何より6)その宗教以外の人たち、つまり家族や友人などとの愛着を普段以上に強化することが重要になってくる。そのうえでいかにして悩みを抱える人が「いのちの拡充」を図っていく支援を行える体制を作るかということになるだろう。

また、少し話は逸れるが最後に。

七条件をざっと見た時におっと思うのは、これが特に日本の大企業を中心とした企業の就職活動→新卒一括採用→入社・研修の体制にかなりの部分あてはまるように見えることだ。就職というのは卒業前の「人生の転機」に「激しい緊張」を伴う「悩み」として「多くの選択肢の中で」就職というパースペクティブによって解釈し、何度も面接を繰り返して特定の企業のメンバーと感情的ではないにしろ「絆が形成」されて、入社後は「毎日のように他のメンバーと集中的に交流」し、結果として会社以外の人たちとの関係は弱まっていく中で、「本人の意味体系が変容し、思想的にも行動においても特定の企業の一員」=社会人へと変わっていく。

企業を宗教組織と重ね合わせるつもりは”あまり”無いが、おそらくこの入信のモデルは宗教だけでなく様々な社会集団、共同体への加入プロセスの分析にも一定の尺度として有効かもしれない。特にロイヤリティを強く求め、その活動に多くの時間を割く必要がある集団は入信モデルによく似た加入プロセスを辿るのではないだろうか。

ということで長くなったが様々なケースでこの入信のモデルは有効ではないかと思いますので、何かの参考用に。

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