村上春樹が本を読み込むために心がけている3つのポイント

二日続けて村上春樹ネタというのもどうかと思ったりはするのだけど、まぁ、書きたいと思ったときが書くべきときだということで、簡単に紹介。
若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)」という村上春樹が吉行淳之介、丸谷才一など第三の新人と呼ばれた戦後の日本文学界を代表する作家たちの短編小説を中心に紹介していく読書案内本があります。1991年から93年にかけて村上春樹がブリンストン大学大学院で教鞭を取っていた時(このころのことは「やがて哀しき外国語 (講談社文庫)」に詳しい)に日本文学の授業で取り上げた内容やその後編集者等向けのディスカッションを録音して文章化したもので、結構詳細に各作家の作品について突っ込んだガイドになっている本です。
そのあとがきで、村上春樹が参加者に要求した三つのことが紹介されています。それは村上春樹が『真剣に本を読み込むにあたって、僕自身が常日頃心がけているポイント』だとのこと。

1)何度も何度もテキストを読むこと。細部まで暗記するくらいに読み込むこと。
2)そのテキストを好きになろうと精いっぱい努力すること(つまり冷笑的にならないこと)。
3)本を読みながら頭に浮かんだ疑問点を、どんなに些細なこと、つまらないことでもいいから(むしろ些細なこと、つまらないことの方が望ましい)、こまめにリストアップしていくこと。そしてみんなの前でそれを口に出すのを恥ずかしがらないこと。

いわば多読より精読のすすめ、ですね。僕自身、多読では全く無く、何度も何度も同じ本を繰り返し読むことが圧倒的に多いのですが、それは本を読むことを通して、何らかの言葉に出来ない確かな感触のようなものを感じたいという思いが強いからです。
一冊の本にはそれこそ何百もの違った側面があって、読むたびごとに印象が変わるし、あるいは、全く関係ない本を読んでいて、ふとその本のどこかのある一節が蘇ってくるということもよくあることで、本と本とが無数の糸で繋がり合っていく感覚は言葉に出来ない素敵な体験です。そのような、感情と密接につながるような記憶に残すためには一度や二度ではたぶん足りない。
一冊の本からはほんとうに沢山のことを学ぶことができます。何度か僕のブログを読んでくれた方なら気づくかもしれないのですが、僕のブログの記事は大体一冊の本が繰り返し何度も使いまわされて書かれています。書評を書くのが苦手で、一つの本の感想を一つの記事に収めることが出来ないんですね。
例えば最近だと赤坂憲雄の「異人論序説 (ちくま学芸文庫)」という本からは、同書を中心に他の何冊かを参考にして以下の記事が書かれました。
村社会の宿業「子殺し」が生んだ妖怪「座敷わらし」
王殺し、偽王(モック・キング)の戴冠と死
流転する浄と不浄、信仰世界への回帰現象と科学の立ち位置
かつて、世界の至る所で「沈黙交易」が行われていたという
たぶんもういくつか同書を参考にした記事がかかれると思います。多分読む側にしたらもううんざりしているんだろうと思いつつ、やはり一つの本から得られる様々な魅力を紹介したい、あるいは自分なりに考えてアウトプットしたいという欲求は止めることができません。
村上春樹は、読書の歓びについてこう書いています。

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)」P220-221
僕はいつも思うのだけれど、本の読み方というのは、人の生き方と同じである。この世界にひとつとして同じ人の生き方はなく、ひとつとして同じ本の読み方はない。それはある意味では孤独な厳しい作業でもある――生きることも、読むことも。でもその違いを含めた上で、あるいはその違いを含めるがゆえに、ある場合に僕らは、まわりにいる人々のうちの何人かと、とてもおくぶかく理解しあうことができる。気に入った本について、思いを同じくする誰かと心ゆくまで語り合えることは、人生のもっとも大きな喜びの一つである。とりわけ若いときはそうだ。皆さんにもおそらくそういう経験があるのではないだろうか。
もちろん文学にとって、的確な批判も大事なことである。しかし僕としては、気持ちの良い午後に、「そういえば、こんな素晴らしい本をこのあいだ読んだんだよ」と誰かに語りかけられることの、「そうだね、あれは本当に見事な小説だったね」と語り合えることの、単純で純粋な喜びの方をより大切にしたいと思う。僕自身、そういうものによって励まされ、ずっと小説を書き続けてきたのだから。

「本を読む」ことと、「生きる」ことをつなぐために、たぶん村上春樹が挙げた三つのポイントはとても有用なのではないかとおもいます。
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5 最良の「春樹論」としての「第三の新人」講義
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5 アメリカに住んでみて同感です。
4 箇条書き
5 すごく真面目で、深いエッセイです
5 ちょうど良い長さ。
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4 村上インタビュー、これは値打ちもの
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5 良いタイミングでのインタビュー
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