アメリカ多文化社会を理解するための4つの理論

アメリカは多文化社会であると言われる。建国以来数多くの移民を受け入れてきたが、その多文化社会を統合する理論も、その時代背景の影響下で大きく分けて四段階に分けられる。以下藤本龍児著「アメリカの公共宗教―多元社会における精神性」よりまとめ。一部仲正昌樹著「集中講義!アメリカ現代思想―リベラリズムの冒険 (NHKブックス)」参照。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

1)アングロ・コンフォーミティ論

建国当時から南北戦争にかけて、ほぼイギリス系移民が多数派で、英語を共通語とし、アングロ・サクソン流の社会制度で運営されていた。南北戦争後の国家統合の時期から、一九世紀末ごろの南欧・東欧系の非アングロ・サクソン系移民の急増の時期にかけては、このアングロ・サクソン流の生活様式や価値を受け入れることがアメリカ人になることとイコールであった。

2)るつぼ論

1908年、ユダヤ系イギリス人の劇作家イズレイル・ザングウィルが発表した戯曲『メルティングポット(るつぼ)」がブロードウェイでロングランヒットとなり、アングロ・サクソン系だけではない様々な人種がアメリカというるつぼの中で融合し、文化的に新しい人間=「アメリカ人」が形成されるという考え方が広まった。

3)サラダ・ボウル論(文化多元主義)

1)、2)とも文化的融合を前提とした考え方だが、これらの考え方を批判する形で文化多元主義が唱えられる。

藤本龍児著「アメリカの公共宗教―多元社会における精神性」P188
一九一五年、ユダヤ系アメリカ人の哲学者であるホレス・カレンは、アングロ・サクソンの伝統がアメリカ文化の中心的な地位にあることを認めながらも、それぞれの移民が依然として、自らの属するエスニック集団の伝統的文化に執着していることに注目した。事実、アイルランド系の移民は、カトリックの信仰を保持しており、アーミッシュは、アングロ・サクソン文化とは隔絶した生活を送っている。こうしたことからすれば、アメリカは、同質化された社会なのではなく、異質な文化が、モザイクのように組み合わされた社会であると言えるのである。

この文化多元主義は1950年代から60年代にかけての公民権運動の中で多様性を認めるための思想としてリベラル派によって取り入れられ、アファーマティブ・アクションなどの政策に反映されていく。

藤本龍児著「アメリカの公共宗教―多元社会における精神性」P190
文化多元主義は、アメリカ社会のなかに多様な文化があることこそ、すなわちさまざまな「差異を承認」することこそ、アメリカのナショナル・アイデンティティであると主張する。ところが、そう主張するならば、いやがおうにもそこには「差異を共通性の基盤とする」という矛盾が生じてしまうことになる。多様性と統一性を同時に成り立たせるためには、どうしてもその矛盾を調停しなければならない。そこで、文化多元主義は、その矛盾を調停するために、「差異を承認する次元」と「共通性を担保する次元」を区別するという理論構成をとった。
まず「民族性」は、他者や他の文化からの干渉をまぬがれる事柄であるとし、それを「私的領域」に位置づけた。次に「国民性」は、他者や他の文化との交渉によって形成されたり維持されたりする事柄であるとし、それを「公的領域」に位置づけた。このように「私的領域」においてエスニック文化の多様性を承認しながら、同時に「公的領域」において共通性を確保したのである。こうした思想が、文化多元主義にほかならない。

この共通性を保障するものが自由や民主主義という信条であるとされた。

4)多文化主義

1970年代以降になると、アメリカ移民の中心は中南米、アジア等非ヨーロッパ系集団へと移行していった。そのような構造変化の中で、西欧的価値観を中心とした国であるという考え方に基づいた上での多様性を認める文化多元主義は限界を見せ始めた。アフリカ系やヒスパニック、アジア系など非西洋系の人々を含んだ新しい思想として多文化主義が登場する。

多文化主義は文化多元主義が公的領域で共通性として保障する自由や民主主義という信条の背景にある西洋的価値観がアメリカの国民文化となることで他の文化を抑圧していることを指摘し、公的領域における国民文化の相対化の上で、「私的領域のみならず公的な領域でもエスニック文化の多様性を承認」(P191)するように求めた。そして人種や民族だけでなく女性、同性愛者、高齢者など様々な社会階層の文化の尊厳と承認の要求へとつながっていった。

これらは例えば黒人らしく生きる権利、女性らしく生きる権利などそれまで社会の主流派だった「白人男性」との差異を主張し「差異の政治」と呼ばれ、固有のエスニシティを主張する運動や、特に奴隷としての歴史を持つ黒人などの歴史を学ぶマイノリティ教育などが展開していく。その中で一部は「ポリティカル・コレクトネス」を振りかざして差別語の言葉狩りなどラディカルな活動を行いはじめ、保守派と鋭く対立していった。

この多文化主義と、いわば1,2であげた同一性を重視し、国の統一性を重視する保守派との対立が1980年代以降に激化する文化戦争の構造である。

多文化主義が問題にしているのは第一に「差別の是正」であり第二に「差異の承認」である。様々な文化、個人の多様な差異を承認するために自由、平等、民主主義といった抽象的な概念だけで相対化するのではなく、それぞれのケースにおける自由や平等を具体的にどのように解釈して実行させていくのか。公と私との関係に各文化の多様性どのように、どの程度まで反映させ、どのようにして文化多元主義を再構築していくのか、という大きな課題に今アメリカは直面し模索している。

リベラル=コミュニタリアニズム論争も上記のような文脈で文化多元主義をどのように構成しなおしていくのかという対立であり、文化戦争を通じての宗教右派や保守派の巨大な反動も多文化社会で既存のキリスト教的白人中心の伝統が過去に押しやられようとすることに対する危機から登場してきた。今人気のサンデルの主張もこういう文脈で読むことで、何故対話を重視するのか理解出来るだろう。

そして、このアメリカが辿った多文化社会への道はこれから多くの国や地域が辿っていく道だろうと思う。例えば日本社会も、ほぼ他民族の移民に対してはいわゆる「ヤマト・コンフォーミティ論」的な態度であるが、好むと好まざるとにかかわらず多様性と直面せざるを得なくなるだろう。そのとき、統一性ではなくいかにして文化多元主義を構築していくか、そのとき多くの人達は「日本的なるもの」が過去のものになることに耐えることが出来るのか。そして、文化戦争は日本でも起きるのか。

多様性と寛容の問題はこれから僕自身向かいあわなければならない課題だと考えている。ので、こんな感じで基本的なポイントを少しづつ整理している。アメリカの政治思想はきちんと勉強しておいた方がいいですね。日本の社会状況と合わせ鏡のような構造だと思う。
ああ、cultural right(マイノリティの文化主張権)の問題と決疑論についてもなんか書きたかったが、それはまたの機会に。

アメリカの公共宗教―多元社会における精神性
藤本 龍児
エヌティティ出版
売り上げランキング: 212,836
多文化主義とは何か (文庫クセジュ)
アンドレア センプリーニ
白水社
売り上げランキング: 418,307
集中講義!アメリカ現代思想―リベラリズムの冒険 (NHKブックス)
仲正 昌樹
日本放送出版協会
売り上げランキング: 177,108

関連記事
「多文化主義とは何か」アンドレア・センプリーニ著
フランスの三つの公共哲学~「自由主義」「共和主義」「多文化主義」
愛と赦しの全体主義的宗教共同体アーミッシュについて
ナショナリズムを考える基本としての四類型と日本の単文化主義
「見えないアメリカ」渡辺将人 著
「ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在」鎌田 遵 著
欧州のムスリム差別とオランダ「柱状化」社会の限界

スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク