「テロリスト」の4つの特徴と「テロリズム」を生むもの

アラン・B・クルーガー著「テロの経済学」表紙折り返し部分より

その1:テロリストは十分教育を受けており、裕福な家庭の出である傾向がある。
その2:社会で最高の教育を受けている人や高所得の職業に就いている人のほうが、社会的に最も恵まれない人たちよりも過激な意見を持ち、かつテロリズムを支持する傾向がある。
その3:国際テロリストは貧しい国よりも中所得国の出身である傾向が強い。
その4:市民的自由と政治的権利が抑圧されているとテロに走りやすい。

多くのテロリストは、生きていくための目的を持てないほどひどく貧しく、教養がない人たちではない。むしろ彼らは、その達成のためなら自ら死んでもよいと考えるほどの理想を持っており、その理想に対する自信を持てるだけの教養もある。そしてその理想に対して、深くかつ強烈な関心を持っているのである。

テロの経済学
テロの経済学
posted with amazlet at 11.11.02
アラン・B・クルーガー
東洋経済新報社
売り上げランキング: 390933

テロの経済学」は労働経済学者アラン・B・クルーガーによってさまざまな統計データから以下の三点

1)テロリストの特徴はどのようなものであるか。彼らは裕福なのか貧しいのか、また高等教育を受けているのか、受けていないのか
2)テロリストは一般的には、どのような特徴を持つ社会の出身であるのか。彼らは一般的には、どのような社会を攻撃目標としているか
3)テロリズムは一国の経済、精神的幸福、および政治にはどのような影響を及ぼすのか

について分析した本である。その要点が上記の四つのまとめだ。

テロリズムについては、別途この本とともに他の書籍も含めてあらためていくつかの記事にまとめるつもりなので、この記事ではシンプルにテロリストとされる対象の特徴についての紹介だけにとどめておく。

そもそもテロリズムという語については定義不可能性が歴然と存在する。非常に政治的な用語であり、様々な事情から統一した定義づけが未だなされておらず、ある対象をテロリストと呼ぶことには恣意性が存在し、それとされた対象は排除や攻撃の対象となってしまうものだ。

クルーガーは「学問的には一〇〇以上の異なった定義が存在している」と前置きしたうえで、ここで考察しているテロリズムとは「前もって計画された政治的動機に基づく暴力」を意味し、「政治的動機に基づく暴力」という分類自体クルーガー自身の主観的なものであると但し書きをつけたうえで、「直接の犠牲者だけでなく広く大衆に影響を及ぼそうとする意図を持った、準国家組織や個人によって実行されるという形のものである」としている。上記の特徴はそのような意味でのテロリストに関する特徴と考えてもらえばよい。

ヘイト・クライム」(この本では「宗教的・人種的または民族的グループのメンバーに対する暴力行為であり、そのメンバーがグループに加入していることによって引き起こされた暴力行為」と定義される)と上記の意味での「テロリズム」は非常に類似していること、ドイツにおける統計調査の結果、失業率、賃金水準、平均教育年数、外国人比率、人口規模など経済的環境は外国人に対する暴力的犯罪としてのヘイト・クライムの発生には関係しておらず、むしろ「法の執行の崩壊がヘイト・クライムの発生を予測する、重要な要因」であることがわかったという。

また、「貧困と不十分な教育がテロリズムの原因」という通説も否定される。調査の結果、貧困層・失業者層・低教育層はむしろテロリズムに興味がないか、テロリズムの実行が正当かどうか判断できない傾向が強く、逆に高い教育水準層や富裕層がテロリズムに対する支持傾向が高いという。確かにウサマ・ビン・ラーディンはサウジ屈指の富豪でかつ名門大学出身であるし、現アルカーイダのトップであるアイマン・ザワヒリは医師、9・11実行犯のムハンマド・アッタも弁護士家庭に生まれドイツの工科大学に留学経験を持つエリートである。むしろ貧困は、このような高教育・中流以上の富裕層の人々が、同胞が貧困にあえいでいる様子を目の当たりにして義憤に駆られるロビンフッド・テロリズムと呼ばれる行動の要因にはなる。

テロの経済学」P7
私は、テロ行為が路上犯罪よりもむしろ投票行動のほうに似ていると主張したい。たとえば経済学では、高賃金の職に就きかつよい教育を受けている人のほうが、時間の機会費用が高いため、投票に行かないと考えるが、実際投票に行くのはまさにその時間の機会費用が高い人たちなのである。なぜだろうか。それは、彼らは選挙結果に影響を及ぼしたいと考えており、また十分よい教育を受けているため自分自身の意見を発言したいと考えているためである。テロリストもまた政治的結果に影響を及ぼしたいと考えている。何がテロリストを生み出しているのか、を理解するには、給料の低いのは誰か、経済的機会の少ないのは誰かと問うよりも、誰が強固な政治的目的を持ち、かつ十分確信をもって彼らの過激な幻想を実現するために暴力的手段に訴えようとするのか、を問うべきである。多くのテロリストは、生きていくための目的を持てないほどひどく貧しい人たちではない。むしろ彼らは、その達成のためなら自ら死んでもよいと考えるほどの理想を持っており、それに対して、深くかつ強烈な関心を持っているのである。

一言で言ってしまえば利他主義者である。小川忠「テロと救済の原理主義 (新潮選書)」では昭和初期、日蓮主義に傾倒した宮沢賢治にテロリズムの思想との共通点を見る。日蓮主義もまた右翼テロリズムの思想的バックボーンとなった。

青空文庫「銀河鉄道の夜」
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。僕はもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」
「うん。僕だってそうだ」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう」
 ジョバンニが言いました。
「僕わからない」カムパネルラがぼんやり言いました。
「僕たちしっかりやろうねえ」ジョバンニが胸いっぱい新しい力が湧くように、ふうと息をしながら言いました。

雨にも負けず、風にも負けずあらゆることを自分を勘定に入れない、誰かの幸せを願う優しき利他主義者が、最早同胞の苦痛、社会の不正義と矛盾を解決するには暴力によるしかないと絶望したその瞬間、テロリズムが誕生するのである。

今回はここまで。テロリズムについては後日またあらためて記事にまとめる予定。

関連書籍(今後言及予定・・・たぶん)

テロリズム―歴史・類型・対策法 (文庫クセジュ)
J.=F. ゲイロー D. セナ
白水社
売り上げランキング: 407980
国際テロリズム入門 (現代選書3)
益田 哲夫 真山 全 門司 健次郎 芹田 健太郎
信山社
売り上げランキング: 707795
テロと救済の原理主義 (新潮選書)
小川 忠
新潮社
売り上げランキング: 337317
スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク