「モーレツ宇宙海賊」は今を生きる人達を応援する良アニメ

現在放映中のアニメ「モーレツ宇宙海賊」が面白い。
舞台は遠い未来の宇宙世界。宗主国である銀河帝国に対して独立戦争を起こした植民地惑星は戦力差を埋めるべく宇宙海賊たちに「私掠船免状」を発行し、攪乱などゲリラ戦を展開、戦争終結後も宇宙海賊たちに「私掠船免状」を船長の直系継嗣継承を条件として交付し、合法海賊としての存続を認めた。それから一二〇年後、海賊船弁天丸の船長が死亡し、その一人娘である女子高生の加藤茉莉香に次期船長として白羽の矢が立つ。そんな主人公の活躍を描いた物語が、これから展開されそう、というあらすじ。
ニコニコ動画より「モーレツ宇宙海賊 PV」

■私掠船免状と女王陛下の海賊
この「私掠船免状」という設定は歴史好きであればおっ!と思うかもしれません。十六世紀後半、エリザベス女王治世下のイングランドは北方にスコットランド、海を挟んでフランス、スペインと対峙していました。人口一六〇〇万人のフランス、一〇〇〇万人のスペインに対し、当時のイングランドは人口四〇〇万人前後、常備陸軍は無く、海軍力もほとんど無い、羊毛や毛織物など一次産品の輸出で辛うじて外貨を稼ぐ小国に過ぎませんでした。スコットランド女王メアリーは虎視眈々とイングランド女王の座を狙い、仏西両国ともエリザベスより自国に都合のいいメアリーを傀儡にしようと画策する。まさに四面楚歌の中、一五六八年、スペインの圧政に耐えかねたネーデルラント諸州(オランダ)が独立戦争を開始すると、スペインはアントワープを占領。当時イングランドはアントワープ経由での輸出に頼っていたから、首根っこを押さえられた形になり非常に苦境に立たされる。とはいえスペインに正面切って戦う勝算も国力も全くありませんでした。
そこで、「海乞食」と呼ばれた海賊たちに密かに通じ、スペインの港を襲い、略奪し、船舶を破壊するゲリラ戦を展開することにする。さらにその略奪した諸々の財宝、外貨である銀、香料、産品、船舶などを海賊とイングランドとで分配することで国力を飛躍的に向上させました。当時イングランドの国家予算は二〇万ポンド、それに対し海賊が略奪でイングランドにもたらしたのは総額六〇万ポンドに上るという。イングランドは海賊国家として生き残る道を選択したのだ。その結果、ジョン・ホーキンズ、フランシス・ドレークら名だたる海賊たちが私掠許可を得て「女王陛下の海賊」として大暴れしスペインを攪乱。一五八八年、世界史上名高いアルマダの会戦において海賊船を中心としたイングランド海軍がスペイン無敵艦隊を撃破、後の世界帝国への第一歩を標す。合法海賊たちは一八五六年のパリ宣言で私掠船が国際的に禁止されるまで英国だけでなく欧州諸国で各国の海軍力を埋めるかたちで活躍することになります。
と、このような史実を世界設定の背景としつつも、作品の活躍の舞台は宇宙であり、また放送された五話までの時点では、いきなり大スケールの駆け引きが描かれる等というわけではなく、降って湧いた宇宙海賊船船長候補という立場に困惑しつつも、その道へ進もうとする一六歳の少女の決断の様子が丁寧に描かれていきます。
■女子高生が宇宙海賊として戦う理由
十六歳の少女が宇宙海賊船の船長になる、つまり命を懸けた戦いに身を投じる決断をするというのは、簡単なように見えるかもしれないが、やはり非常に重い。アニメなどの物語世界では戦うことが主題になるし、戦い始めることが物語の始まりであるわけですが、「戦い」が非日常の世界である視聴者にとってはその戦う理由が当然必要になるのでしょう。
一言に戦う理由と言っても、戦う資格があることと、戦う意思があることと、戦う決断ができることと、戦うための素質あるいは戦うに足る能力があることはそれぞれ別の問題ではないかと思います。一般的な例として、戦う資格が与えられ、その能力に恵まれながら戦う意思がないまたは戦う決断が出来ずに悩む主人公も居れば、戦う意思と能力に恵まれながら戦う資格を与えられず忸怩たる思いに駆られる登場人物という場合もあります。本作ではこのような戦いを始める=海賊船船長になるプロセスが五話かけて丁寧すぎるほどにじっくり積み重ねられていきます。
唐突に海賊船船長になれるのは長子だけという戦う資格が与えられた主人公はしかしその意思も無ければ、その決断もすぐにはできない。だが、その能力は足りないにしても、その素質が充分あることは三話以降、ヨット部の練習航海(もちろん宇宙!)の様子を通して様々なかたちで描かれます。女子高生にしては優秀なパイロットであること、何かにつけて思いっきりのいい決断力を持っていること、全くの素人だが戦略・戦術を踏まえた計画立案能力があること、想定外の危機の中で咄嗟にベストの案を考案し、その選択肢を選ぶことができること、など。彼女の猪突猛進な感じは微笑ましい。
そのような主人公の素質や可能性が提示されるプロセスはそのまま彼女自身が自分の能力を確認するプロセスとしても描かれます。自身の素質や可能性を練習航海を通じて確認していくことで、宇宙海賊の船長になるという意思を育み、そして決断に至る。その彼女の決断へのプロセスを母、ヨット部の他の部員、弁天丸の搭乗員の中の二人のキャラクターが支えていくという展開は、これぞ物語の説得力、と言っていいでしょう。ですが、彼女はあくまで素質はあっても能力が充分あるわけではないのだ。次回以降はどうやらその戦うための能力を実戦を通して磨いていくという段階に入るようです。宇宙海賊船長見習い成長物語としてド王道な展開が充分期待できる丁寧さだと思います。
■流動化する現代社会の理想像としての海賊
また、「海賊」はある種現代に生きる人々が抱く共通の憧憬、あるいは理想の生き方を具現化した存在であるのかもしれません。それは現代的な社会構造の変化の必然的な帰結として広がりつつある感覚ではないかと思います。少し大きな動きを単純化してお話しすると、戦後の経済成長に支えられた主権国家を中心とした世界システムは一九七〇年代以降急激に融解しはじめます。国境が無意味化しネットワークが複雑に入り交じり、主権国家だけでなく多国籍企業や民間団体、国際組織など様々な主体が世界にコミットするようになるとともに、政治、経済、宗教、文化、芸術など一定の機能が分化することで成立していた旧体制は経済が分化を超えてそれぞれに浸食することを媒介に各々独自に融合しはじめる。「流動化する近代」と呼ばれるその現象の結果、現代世界は一九世紀的世界から乖離し近代以前の一七世紀に微妙に類似するようになりつつあると指摘されます(「再帰的近代化論」「新しい中世論」など)。
このような既存の枠組みが大きく揺らぐ現代社会においては、古い体制・反体制的ヒーローにかわって既存の体制から距離を置き、マージナルな世界で独立独歩で進むアウトサイダーに注目が集まるように思います。単純化すると、これまでは、社会は支配するか支配を覆すか、従属するか反抗するかの二極構造でした。しかし、今や、既存構造とは関係なくその周縁で自分の力で自分の世界を切り開く、そういう生き方が模索されることになります。「自由」と「自己決断」が至上のものとされる様々なムーブメントが現代社会でも目立ってきていますが、それらと響きあうかたちで具現化される理想像としての海賊。七つの海は俺の海とばかりに自由自在に暴れまわる海賊の人気はそういう社会的風潮の変化を少なからず反映しているのではないでしょうか。
モーレツ宇宙海賊でもナレーションでこう語られます。

宇宙には上下左右という基準は無い。それを決めるのは、今その空間に存在する己自身である。自分が何処から来て何処へ行こうとしているのか、どちらを向いているのかを理解すれば、己が位置している今を知ることが出来る。広大な宇宙に初めて足を踏み入れ、自らの小ささに茫然とし、混乱することもあるだろう。しかし、それを乗り越えることが宇宙での第一歩なのだ・・・(「モーレツ宇宙海賊」第四話冒頭モノローグより)

これまでの基準が揺らぎ、上下左右もわからなくなった宇宙化した現代の地上世界において宇宙海賊の生き方はまさに、今を生きようと模索する我々の想いだとか、あこうありたいという生き方と繋がる何かがあるのではないでしょうか。主人公が一歩を踏み出そうとするその姿に僕自身少なからず感動と共感を覚えたのは、そういう理由があるのかなと思いました。というわけで、「モーレツ宇宙海賊」は今後も楽しみに見ていきたい作品の一つです。
現時点では斬新な設定とか、手に汗握る展開とか、刺激の連続、などといった面を期待すると、案外がっかりするかもしれませんが、きちんと物語を積み重ねていく種類の作品なので、今後じわじわと登場人物たちが掘り下げられて描写されることで見応えが出ていきそうな・・・というかそうあるであろうことを期待できる始まりです。また、僕は詳しく分からないのですが古いSF作品のオマージュあるいはパロディに溢れているらしく、各所で話題になっているので、SF通な方にはより楽しめるようです。あまり知らない僕でも、特に四話から五話にかけての細かいSF的演出の積み重ねは燃えました。ジェニー部長!
公式Twitterによると、二月十一日二十四時から一週間Gyao!で1~5話無料配信されるとのことなので、一気観する良い機会じゃないかと思います。またそれ以外にもバンダイチャンネルニコニコ動画で最新話無料、過去回一話210円で配信されています。

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参考書籍
・竹田 いさみ 著「世界史をつくった海賊 (ちくま新書)
・成瀬 治 著「近代ヨーロッパへの道 (講談社学術文庫)
・君塚 直隆 著「近代ヨーロッパ国際政治史 (有斐閣コンパクト)
・森 政稔 著「変貌する民主主義 (ちくま新書)
・正村 俊之 著「グローバリゼーション-現代はいかなる時代なのか(有斐閣Insight)

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