グレイトフル・デッドにティーパーティ運動を学ぶ

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」はティーパーティ運動に関する論文十本からなる、同研究の現状が概ねよくまとまった本でとても興味深く読んだ。せっかくなのでいくつかの記事に分けて同書からティーパーティ運動について紹介していこうと思う。

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容
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Chapter2中山俊宏氏論文「ティーパーティ運動とインスティテューションの崩壊」は大きく二つの趣旨からなっている。一つは一九七〇年代以降共和党の異端であった保守主義運動が八〇年代に「保守革命」を成し遂げ米国政治の主流となったことで構築された政治インフラがブッシュ政権の行き詰まりで崩壊、その結果オバマ政権の誕生へと展開する大きな流れの中で共和党が大きく動揺しているという点。

もう一つは自然発生的に登場したティーパーティ運動が、反リベラルだけでなく反エスタブリッシュメントなど既存の共和党から距離を置いていることに対し共和党自身が強い危機感を覚え、ティーパーティ運動対応に苦心しているという点を指摘、その「グラスルーツ反乱軍」としてのティーパーティ運動を代表する団体のひとつ、フリーダムワークスの代表兼CEO(注1)マット・キビーへのインタビューが紹介されている。

フリーダムワークスは九〇年代中盤にニュート・ギングリッヂが率いた共和党で彼の右腕として院内総務を務めたディック・アーミーが八〇年代に設立したリバタリアニズムの普及を目的として設立した団体で、二〇〇九年以降のティーパーティ運動の広がりの中で運動の中核として存在感を見せている団体の一つである。

マット・キビーのインタビューで面白かったのが、ティーパーティ運動を六〇年代ロックバンド、グレイトフル・デッドの熱狂的ファンを指すデッドヘッドと重ね合わせているという点だ。「運動の中枢による一元的な管理ではなく、むしろ無秩序の中に自生的に発生する秩序に身をまかせる」(注2)というのが、リバタリアニズムを背景とするフリーダムワークスの理念で、マット・キビーは「デッドヘッド共同体には、どこかに中心があるわけではないが、不思議とある種の秩序が保たれている。必要があれば、互いに助け合うし、自由な精神がつねに維持されている」(注3)のだという。フリーダムワークスはティーパーティ運動のモデルとしてグレイトフル・デッドを前面に押し出して広報しているとのこと。

ところで、この部分を読んで、最近「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」という本が話題になっているのを思い出した。読んでいないので詳しくはわからないが、この本は上記のようなティーパーティ運動を通じてグレイトフル・デッドへの興味が喚起され、そのような米国でのニーズに答える形で出版されたものではないだろうか。特に著者のインタビューなどでティーパーティ運動への言及は見かけなかったので真偽のほどは不明ではあるが、確かにこのようなアドホックな組織運営、マーケティング手法についてはティーパーティ運動に限らず現代社会において興味を強く喚起するものだと思う。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
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同書chapter8、前嶋和弘氏論文「ティーパーティ運動とソーシャルメディア」では、ティーパーティ運動についてソーシャルメディアが果たした役割について詳述されており、前述のティーパーティ運動のグレイトフル・デッド的側面がより詳しく見えてくる。

ティーパーティ運動のルーツを遡るとロン・ポールによる共和党内部からの反ブッシュ政権運動でティーパーティという言葉を使ったことに遡るが、運動が急拡大したのは二〇〇九年二月十九日にCNBCの金融キャスターだったリック・サンテリがニュースの途中にオバマ政権のサブプライムローン問題の救済策を激烈に批判した「サンテリの叫び」という事件を契機とする。

CNBC’s Rick Santelli’s Chicago Tea Party

”負け犬”を救うこんな政策が本当に支持されているのか、インターネットでレファレンダム投票してみろ」「資本主義を信じる人すべては、独立記念日にミシガン湖に集まれ!私がシカゴ・ティーパーティ運動を組織する」(注4)、などと叫ぶこの映像はリアルタイムで観た人は少なかったがYoutubeなど動画サイトに投稿され、政治サイトが取り上げ、ツイッターやフェイスブックで次々と話題になり、chicagoteaparty.comというドメインを偶然持っていた人物や、同じく偶然動画を観たフリーダムワークスの幹部も、同時多発的にサンテリの支援サイト・フェイスブックページを立ち上げたことで、ソーシャルメディアを通じて爆発的な広がりを見せたという。

ツイッターやフェイスブックを通じて反「大きな政府」反「オバマ政権」的な意見を交換しあううちにオフラインでの運動に誘われたり、あるいは有志が集まって運動を立ち上げるといったプロセスを経てティーパーティ運動が急拡大していった。ティーパーティ運動参加団体のうち参加者が五〇〇名以上の団体はわずか十六団体に過ぎないという調査もある。そのほとんどは一〇〇名前後の小規模団体であり、その多くが政治活動初心者であるという。このような素人団体を上記のフリーダムワークスなどが支援し、運動が急拡大していった。

この背景にはソーシャルメディアの持つ「選択的接触」の強化という特徴が反映しているという。ソーシャルメディアに限らずオンライン上の世界は様々な意見が溢れているが、「非常に均質的な意見をもった自分の同志を求めてつながろうと」(注5)し、「自分のもともとの政治的な傾向と一致する情報には積極的に接触する一方で、自分の立場とは食い違う情報は避ける傾向にある」(注5)ため、ソーシャルメディアを通じて「非常に党派性の高い空間」(注5)が形成される。

「似たような属性をもつ、同じ政治イデオロギーの人間がソーシャルメディアのなかで知り合い、オフラインの集会で党派性の高い均質な意見を主張してきたのが、ティーパーティ運動の本質である。」(注6)

ティーパーティ運動というソーシャルメディアを通じて自発的に形成される均質な意見の党派性の強い小規模諸団体による巨大な運動は、オバマ政権という「敵」、「大きな政府」という「敵」がある限り、次々と人々が立ち上がり続けるのだろうと思う。

とりあえず今回は以上のようなさらっとした内容のみ。後日、同書からティー・パーティの主要グループを率いるロン・ポールについて、あるいはティー・パーティの政策についてなどについてもまとめてみようと思う。

(注1)本文では会長兼CEOだが、ほかの論文では事務局長との表記もある。フリーダムワークスのサイトを見ると、president and CEOで、ディック・アーミーは同サイトではchairmanとなっているので、本記事ではマット・キビーは代表兼CEO、ディック・アーミーは会長と表記する。
(注2)P33
(注3)P34
(注4)P131
(注5)P136
(注5)P137

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