ティーパーティ運動を分断するリバタリアニズムの化身ロン・ポール

前回(「反「大きな政府」連合としてのティーパーティ運動」)、前々回(「グレイトフル・デッドにティーパーティ運動を学ぶ」)に続き「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」より。

同Chapter3渡辺将人氏論文「ティーパーティと分裂要因」ではティー・パーティ運動の軸のひとつを形成するロン・ポール派とリバタリアン勢力の動向を紹介することで、様々な勢力によって構成されるティーパーティ運動が共和党の分裂要因として働く面を指摘する。

一九八八年に共和党議員のまま第三勢力リバタリアン党の大統領候補として大統領選に立候補した経験を持つロン・ポールがティーパーティ運動の前身となる運動を始めたのは二〇〇七年のことで、「反ブッシュ政権・反共和党エスタブリッシュメント」を掲げて、共和党内部から二〇〇八年大統領選に向けて当時のブッシュ政権批判を開始したことに端を発する。金融危機を招いたブッシュ政権の行き詰まりと巨額の財政赤字に対し「自由のためのキャンペーン」と名づけられたロン・ポール支援の動きは草の根運動としてインターネットを中心に拡散、共和党員だけでなく無党派層も多く惹きつけていった。

オバマ政権成立後はリバタリアン的立場から同政権を「社会主義」と呼び「大きな政府」に対する批判を徹底的におこなうことで勢力を拡大、息子のランド・ポールが上院議員に当選するなど、二〇一〇年以降、ティーパーティ運動の中心団体のひとつとして存在感を強めている。

このような経緯から共和党にとって反エスタブリッシュメントと徹底した「小さな政府」化を掲げるロン・ポール派は党内の反体制派であり、非ポール派ティーパーティ勢力とともに共和党内の「穏健な保守主義者」に対して苛烈な批判を加えている。

また、ポール派は共和党内の分裂要因であるとともに、ティーパーティ運動内部においても分裂要因として機能する。ロン・ポールは完全なる自由を優先し、立憲主義に立つ「憲法保守」を自称しており、信仰や伝統的価値観に立つ通常の保守派とは特に社会争点と外交について一線を画することになる。

「社会争点」としてはロン・ポールは妊娠中絶問題、同性婚などについて連邦政府ではなく州の決定に任せるべきとしており、両方に反対する保守派と違いを見せ、社会争点問題では民主党に近くなる。また一部には大麻使用の自由化などを主張するなど独自色を強めており、保守派と相容れない。一方で移民問題や銃規制については保守派と一致するなど、経済争点ではなく社会争点に関してティーパーティの分裂要因となっている。

「外交争点」については保守派が防衛費予算の聖域化、テロとの戦いの重視を前提とするのに対してポール派は徹底した非介入、孤立主義を取る。軍事的な介入だけではなく人道的な海外援助についても否定的で「リベラルな平和主義ではない」(注1)。

日本についても共和党保守派や保守系ティーパーティが日米同盟の重視を前提とするのに対してポールは在日米軍の完全撤退を主張している。また保守派がイスラエルを特別重視するのに対し、ポールはイスラエルへの援助廃止、中東への関与軽減を主張する。安全保障問題についてポール派は具体的な施策を持っているのではなく、軍事行動やテロ対策にともなう国内的な「自由の侵害」を重視しており、その国内問題としての個人の自由に影響を与える可能性があるすべてに反対の姿勢を取っているといえる。一方でメキシコ国境の武装強化など強硬な移民制限政策を主張しており、基本的に外交より国内問題を徹底的に重視する点で一貫している。

このようにポール派ティーパーティと保守派ティーパーティと共和党エスタブリッシュメントとで政策上大きな分裂要因が存在しており、「経済・財政争点が主要課題であり続ける限りティーパーティ支持層も一丸となっていられるが、経済が回復して失業率が低下すれば」、「ティーパーティの人々は、さて次は社会問題ではないかといいだし、ティーパーティ連合の崩壊」(注2)につながるだろうという保守系憲法学者のコメントが紹介されている。

二〇一二年大統領選で何かと話題を振りまいているロン・ポールだが、その主張の背景や、共和党の他の候補との大きな乖離、それにも関わらず強い支持を集めている理由などがこの論文で若干見えてきたように思う。いわゆる「リバタリアン」という言葉で多くの人が想像するであろう最大公約数的「リバタリアン」の体現者という立場の人物であり、それゆえにポピュリズム的な動員力を持っている、ということなのだろう。

(注1)「ティーパーティ運動の研究 アメリカ保守主義の変容」P46
(注2)「ティーパーティ運動の研究 アメリカ保守主義の変容」P53

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