ティーパーティ運動のキマイラ化を成し遂げた「憲法保守」概念

過去三回の記事と同様「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」から、今回はChapter7梅川健氏論文『ティーパーティ運動と「憲法保守」』から、ティーパーティ運動を一つにつなぐ役割を果たしている「憲法保守」概念についてまとめ。

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容
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反大きな政府運動であり、リバタリアン運動であり、ポピュリズム運動であり、保守主義運動であり、草の根運動であり、中流層の運動であり、またソーシャルメディア運動でもある、いわばキマイラ的ないくつもの顔を持つティーパーティ運動には二つの相容れない潮流がある。ひとつが政府の介入を嫌う「経済保守」、もうひとつがモラルや価値に対して政府が介入するべきと考える「社会保守」である。この二つをアクロバティックにつなぎ合わせる概念として登場したのが「憲法保守」であった。

「憲法保守」は保守系シンクタンクであるフーヴァー研究所のピーター・バーコウィッツが二〇〇九年に提唱した概念である。彼が主張するのはフランク・メイヤーの再評価だ。メイヤーについては以前も書いた(注1)が、もう一度簡単に整理しておく。

一九六〇年代、若き日にトロツキストであったメイヤーは反共保守主義者に転向した後、当時相容れなかった伝統主義者とリバタリアンを融合する枠組みを考案する。「伝統主義が主張する人間の”美徳”の達成は人間の行動の最終的な目標であるが、それはリバタリアンの主張する”自由な社会”があって初めて可能になる」(注2)と。いわゆる段階革命論の保守思想への転用で、この枠組みが提供されたことで分裂していた反リベラル勢力を保守の名の下に融合させ、レーガン政権の成立という保守革命へと走らせる原動力となった。

ブッシュ政権の自壊とオバマ政権の成立を目の当たりにして、彼は古い酒を新しい皮袋に入れなおす。

バーコウィッツは、メイヤーを引用し、社会保守と経済保守は、お互いがなくては成り立たない関係にあると主張する。家族やコミュニティが自立的な個人を形成するという社会保守の考え方は、市場における自立した個人という、経済保守がよって立つ前提を提供する。同様に、小さな政府や個人の自由の重視という経済保守の考え方は、社会保守に対して、家族やコミュニティが道徳を教えることができるのは、政府が制限されている場合に限るのだということを思い起こさせる。

このようなメイヤーの考え方は60年代には、融合主義と呼ばれていた。バーコウィッツは、「メイヤーの主張に相応しいのは、憲法保守という名前である」と論じている。その理由は、経済保守と社会保守の調和は、憲法の定める小さな政府に立ち戻ることで実現できるからだという。(注3)

この「憲法保守」概念に飛びついたのが、ティーパーティ運動との乖離が広がることに焦りを見せていた共和党エスタブリッシュメント達で、二〇一〇年二月一七日、保守系政治家、保守系団体が集まり「憲法保守」理念を提唱する「マウント・ヴァーノン宣言」を発表、ティーパーティ運動を取り込もうとした。

現在の連邦政府は、憲法の制限を無視している。アメリカは、古きものを脱ぎ捨て、新しく変わらなくてはならないと主張する者がいる。しかし、どこへ行こうとしているのか。「チェンジ」という考え方は、中身のない約束、危険なまやかしである。われわれにとって必要な変化とは、アメリカの建国の理念意立ち戻ることである。われわれは、独立宣言と合衆国憲法に示されている自由の原則に基づく、「憲法保守」の立場をここに宣言する。(注4)

そして、続けて五つの原則を唱える。

1.憲法保守は、法の支配に基づいた小さな政府という原則を、すべての法案に適用する。
2.憲法保守は、個人の自由がアメリカの政治と社会の中心であると考える。
3.憲法保守は、市場原理に基づいた改革を支持する。
4.憲法保守は、世界において自由を広めることが、アメリカの国益であると考える。
5.憲法保守は、家族と、コミュニティと、信仰の守り手である。(注4)

だが、この「マウント・ヴァーノン宣言」は共和党エスタブリッシュメントの擦り寄りがあまりに露骨だったからか、ティーパーティ運動の活動家たちからは丁重に無視され忘れ去られることになる。ただ、「憲法保守」という言葉だけは二〇一〇年の選挙の際に「ティーパーティ系の候補者によって、経済保守と社会保守の両者を包含するために用いられ、生き残ることになった」(注5)。

クリスティン・オドネル、ロン・ポールの息子のランド・ポール、サラ・ペイリン、グレン・ベック、マイク・リーなど主要なティーパーティ系候補、論客が次々と「憲法保守」という言葉を唱えだす。ティーパーティ運動の参加者は社会保守、経済保守の別なく『ポケットサイズの憲法をみにつけて集会に参加し、「憲法保守」と呼ばれる候補者を支持した』(注6)。かつて宗教右派運動の参加者が聖書を握り締めていたように、彼らは憲法を握り締めている、という感じなのだろうか。

ナショナル・パブリック・ラジオのマーラ・アリソンは「ティーパーティ運動の参加者たちは、彼らの憲法上の権利がどれほど否定されているのかについて、明確には理解していないが、連邦政府が憲法の意図した範囲を超えているということについては、固く信じている」と、困惑気味に述べている。(注7)

共和党保守派の主流な憲法観に原意主義と呼ばれる法理論があるという。原意主義は「憲法の文言を、憲法制定者たちが理解していたように解釈しなければならないと考える」(注8)もので、「憲法をその時代の価値によって再解釈するべき」(注8)と考えるリベラルの憲法観に対抗したものであった。この「理解に専門的な知識を必要とする」(注8)原意主義を憲法保守は大衆化した。その大衆化の下敷きとして再発見されたのがクレオン・スコウセンという人物が一九八一年に出版した「5000年の跳躍」であるという。

保守の大御所ウィリアム・バックリー(注1)に陰謀論者と切り捨てられ、保守派からは忘れられた存在だったスコウセンはかつてジェファーソン、マディソン、ハミルトン、アダムズなどの論争を学び独自の憲法観を構築していた。『建国の父祖たちは政府に、「平等な権利を保護することを認めたが、平等な状態を作り出すこと」を認めたわけではなかった』(注9)として社会保障や福祉は違憲であると述べ、「限定された権力だけが連邦政府に譲渡されたのであり、残りのすべての権力は市民に残されている」(注9)として規制のための行政機構もまた違憲であるとする。『建国の父祖たちは「28の神聖な原則」を打ち立てた」(注9)のだとして、独立宣言に神の意志を見た。

スコウセンと家族ぐるみの付き合いがあったティーパーティ系候補マイク・リーがこの「5000年の跳躍」を下敷きにして、憲法の修正条項を一切認めない、所得税の撤廃、教育省や都市開発庁の廃止、社会保障の縮小、さらには上院議員を州議会議員ではなく一般有権者が選ぶとした修正条項についても違憲とするなどの、極端な独自の憲法政策を主張。フォックスニュースのグレン・ベックが「5000年の跳躍」の序文を新たに書いて30年目にしてベストセラーとなり、またロン・ポール派もスコウセンに学び、あるいはスコウセンがかつて設立した「全米憲法研究センター」主催のセミナーが各地で開催されることで、その憲法観が「憲法保守」概念の原型として広がった。

「憲法保守」は原意主義を専門的な法理論から『合衆国憲法から独立宣言へと遡り、さらに「神の意志」へと立ち戻り、現在の憲法解釈や制定法を批判する』(注8)ことで、「議会に対して、憲法に示された原則にしたがって政治を求めるイデオロギー」(注8)へと変質させた。

合衆国憲法とは独立宣言という神聖な原則が「政治の世界の妥協を通じて書き下したもの」(注10)だという観念ゆえに、その神聖な原則へと立ち戻らなければならない、それこそが、小さな政府の実現であり、個人の自由の実現、家族やコミュニティの復活へと至る道であるという理想を生んでいるということだろう。

おそらく真に理解しようとすれば多大な専門的知識が必要な憲法について、字義通り解釈するというのは確かにわかりやすいアプローチであり、アメリカの底流にある福音主義的信仰と通低するものであると思う。素人集団であり、かつ強い専門化不信を持っている人々の運動として、これほど接着剤として有用な概念はないのだろう。それゆえに、妥協を許さぬ極端な姿勢を生むことにもなっているのかもしれない。

宗教右派運動がピューリタニズムを源流とした運動であったとしたら、ティーパーティ運動はその源流として独立宣言と憲法を見出した。そのどちらもが現代のアメリカを形作る大きな理念であり、現代の不遇の解決手段として偉大な過去への回帰を目指すという点において、保守運動としての側面が確かに見えるだろう。護憲が保守主義運動の本流となるというのは日本人のわれわれにはいささか奇妙に見えるかもしれないが、アメリカの歴史を鑑みれば、むしろ護憲ゆえに保守であるのだと思う。

このようにティーパーティ運動についての様々な側面を詳細に把握でき、とても勉強になるので米国の政治状況について興味がある方は同書を一読することをおすすめしたい。

(注1)フランク・メイヤー、ウィリアム・バックリー他についての過去記事「米国保守派の中核「ニューライト」を生んだ4人の保守主義者
(注2)中岡望著「アメリカ保守革命 (中公新書ラクレ)」P43-44
(注3)久保文明、梅川健著「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」P118-119
(注4)梅川P120
(注5)梅川P121
(注6)梅川P117
(注8)梅川P126
(注9)梅川P124
(注10)梅川P127

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