路上ホームレスに至る過程を表す3つの類型

岩田正美著「社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)」では「路上ホームレス」を余儀なくされた人びとが『存在証明の基点になる「場所」の喪失』(P60)、つまり社会的排除に至るプロセスが分析されている。データは一九九九年に著者が行った調査を元にしたもの。

路上ホームレスについて、最長職時と路上直前時に分けて経路分析を行った結果、以下の通りであったという。

A)最長職時
(1)40% 安定常勤職、普通住宅、社会保険加入
(2)25% 安定常勤職、労働住宅
(3)35% 職業不安定、労働住宅半数、残りが普通住宅、その他
B)路上直前時
a)20% 職業安定、普通住宅
b)13% 職業安定、労働住宅
c)42% 職業不安定、労働住宅
d)17% 職業不安定、その他
e) 8% 無職

(1)の人びとは路上に出る直前にはa)、b)、c)、e)の四つの状況に、(2)の人びとは安定した職業から職業が不安定化してc)の状況に、(3)の人びとはc)とd)の状況におかれている。ほとんどが職業が不安定化するか、住居が不安定化した後に、a)職業安定、普通住宅の人びとは家賃滞納、借金、家賃トラブルなどによって、b)職業安定、労働住宅の人びとは失業、倒産、病気などによって職を失うとともに住宅退去を余儀なくされて、c)職業不安定、労働住宅の人びとは不安定な仕事すら失い、多くの場合病気やけがなどがかさなって仕事の喪失と同時に労働住宅退去をさせられ、d)職業不安定、その他の人びとはやはり病気やけが、仕事の減少によって宿泊費が払えず、e)無職の人びとも宿泊費が無くなるなどによって、それぞれ個々の事情によって路上に出て来るという経過をたどっているという。

これら個別の路上ホームレスに至る排除の過程は三つの類型に分類出来る。

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(1)転落型

最長職は安定しており、路上直前まで普通住宅に住んでいた人々が急に路上へ出現した形態

『まず(1)の転落型は、おそらくは中小零細企業レベルの多様な職種の常用雇用者または自営業者、小経営者であり、その約半数は、学歴も相対的に高く、いったんは家族を形成し、普通住宅で暮らしてきた人たちである。つまり、社会のメインストリームに入っていた人々といってよい。これらの人々が、ホームレスになったのは、このメインストリームからの排除が、ある時期に複数連続的に生じたためである。』(P67)

仕事の喪失、家族とのトラブルや家族関係の解消、借金、家賃滞納、疾病などが同時にあるいは一つがそれ以外の原因となって複数連続的に起こった結果、一気にホームレスへと転落したものだという。転落型の経緯をたどって路上ホームレスになった方二人の例が掲載されているが『二人とも、たとえば日雇いだとか住み込み就業などを経験せず、いきなり多くの人間関係を失ったり、自らそれらの関係を断ったりして路上に出てきて』(P70)おり、排除が始まると急激な展開の果てにホームレスへと至るものであるようだ。

(2)労働住宅型

最長職は安定しており、最長職のときから、あるいは路上直前に労働型住宅に移動し、その後路上へ出てきた人々

転落型と長期排除型の中間的な特徴を持っている。転落型の人々が労働住宅に移動した後、路上に出ていくタイプと、長期排除型に類似した、寮など労働住宅付の職業に長期間従事した人とがおり、日雇いや臨時雇いの建設業中心の長期排除型の人々と違い、『工場の寮や社宅、旅館や飲食店、新聞販売所など、都市サービス業を含んだ多様な労働型住宅にいた人々が含まれている点と、必ずしも日雇いや臨時などではなく、常用労働者、さまざまな資格職や熟練色もかなり含まれている点』(P72-73)が特徴となっており、一旦は社会のメインストリームにいた人々であるという。

『いずれにしても、このタイプは、地域で自分の定点を独立して形成するのではなく、職場に附随した労働型住宅という形でしか形成できていない。そこで、こうした職場に付随した定点の喪失は、仕事の喪失(失業や疾病)と同時である。』(P73)

(3)長期排除型

最長職時から不安定職にある人々

『その多くは義務教育までの学歴も形式的なことで、学校にはあまり通っておらず、未婚のまま版場やドヤ、寮などを生活の拠点として不安定な就業で生きてきた。その意味では、排除というより、最初から社会への参加が充分なされていなかった、というほうが適切かもしれない。』(P70)

ホームレス化の助走期間としての不十分な社会参加が彼らの人生において長期間、それこそ学校卒業時から続いており、そのような不安定な状況に不況など社会的な変動の影響をダイレクトに受けた結果、あるいは疾病などが重なったことにより失業して野宿へと至ったもので、その多くは建設関係の仕事に従事していたという。

社会からの排除の二つの形

路上ホームレス化へと至る類型化と例を踏まえて、社会からの排除の過程には二つの形があると著者はいう。一つは『社会からの「引きはがし」』、もう一つは『社会への「中途半端な接合」』である。

・社会からの「引きはがし」

転落型にみられるような『いったんは社会のメインストリームにしっかりと組み込まれた人々』(P75)が、失業や倒産などによって職業を失うだけでなく、家族関係の喪失や疾病、災害、借金など複合的な要因が重なることによって『一気に「ひきはがされて」』(P75)、排除や孤立へと至る現象のこと。

・社会への「中途半端な接合」

長期排除型に典型的な『途切れ途切れの不安定な就労が唯一の社会参加のチャンネルであ』(P76-77)り、未婚であるとか、家族との関係が希薄であるというような、自分の家族を形成しておらず、地域に定住せず仕事のために全国を転々とするなど、『部分的な社会参加に留まる状況が長期に継続』(P77)する状態のこと。労働住宅型も「中途半端な接合」の状態と捉えられる。

ホームレスへと至る経路の多様性

このように、ホームレスに至る軌跡は類型化は出来ても、その過程は十人十色で一人一人全く違うものであり、共通の原因を特定することは不可能である。仕事を失った理由一つとっても不況や会社の倒産など経済構造の変化によるものから、そもそも不安定な仕事に就かざるを得なかったものや、職場の人間関係によるもの、自身が堪え性が無くて長続きしなかったものなど様々であり、また上記の通り失業だけでホームレスに至るわけではなく、その他の自身の選択によるものと、自身ではどうにもできない社会的、経済的、また人間関係上のもの、あるいは健康上のものなどが複雑に絡み合った結果として路上ホームレスへと至っている。

元調理師の男性ホームレスの言葉が印象的だ。

「落ちるって言葉がありますけど、一度ツマづくと、本当に落ちていく」(P78)

上記のように引きはがしも中途半端な接合も自己選択の結果だけが理由では全くなく、むしろ、自身ではどうにもならない要因との複合によって起こるものだ。この社会的排除という問題は『「古い」福祉国家の諸制度が結びついていた特定の社会集団に典型的な社会問題とは異なった様相で出現しているために、「古い福祉国家」の諸制度が対応できないところに生まれた』(P30)ものであると指摘される。現代の社会構造の限界としてぽっかりと空いた落とし穴の存在が、この路上ホームレスへと至る人々の人生の軌跡から見えてくると言えるのではないかと思う。その落とし穴は福祉国家の限界と言う社会構造的要因を背景としているがゆえに特定の人だけではなく、現代社会に生きるすべての人が陥る可能性があるものでもある。

必ずしも自身の選択の結果としてではない、自身ではどうにもならない要因が重なった結果、一律的ではなく個別的な過程を辿ってある日突然「落ちていく」人々をいかにして救い上げるかが、現代の福祉行政が直面する課題であろう。それは誰にでも起こり得ることであるがゆえに重大なのだと思う。

路上ホームレス問題についてだけではなく、紹介できなかったが「ネットカフェ難民問題」、社会的排除とは何かという概念論、それらを踏まえた提言など、「社会的排除」問題を包括的に考える最良の入門書としてこの本はオススメしたい。続けて「社会的排除/包摂と社会政策」はより詳細に概念の諸説、欧州の現状や、日本社会における政策論などが書かれているので、二冊目としておすすめ。

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