「アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所」渡辺 靖 著

アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所
渡辺 靖
新潮社
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アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所 (新潮選書)
渡辺 靖
新潮社
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追記)新潮選書より増補再販されています。

アメリカ社会のフィールドワークで知られる著者が、現代のアメリカ社会を何かしら象徴する九つのコミュニティを訪れ、その様子をレポートすることで、多様なアメリカ社会を浮き彫りにする一冊。

再洗礼派の流れをくみ厳格な聖書主義に則った穏やかな信仰生活を送るコミュニティ「ブルダホフ」、様々な人種がひしめき合い、かつては暴力と格差と貧困で荒廃の極みにあったが、見事にコミュニティの再生を成し遂げたインナーシティ「マサチューセッツ州サウス・ボストン」、ロサンゼルス郊外に約二十平方キロメートルの広大な敷地を擁した高級住宅街は壁とフェンスに囲まれ警備員のチェックなしに中に入ることは出来ないゲーテッド・コミュニティ「コト・デ・カザ」、米国のコミュニティ研究において最も典型的な街としてたびたび調査され、映画「未知との遭遇」の舞台にもなったミドルタウン「インディアナ州マンシー」、農牧業の危機に直面し、日本の地産地消を輸入して牧場のネットワークを形成することで乗り切ろうとする農村「モンタナ州ビッグ・ティンバー」、宗教右派の牙城、巨大教会メガチャーチを擁する小都市「アリゾナ州サプライズ」、ディズニーが作った人工都市「セレブレーション・フロリダ」、敢えて非自治を選択しアメリカの植民地としての地位を保ち続ける南太平洋の島「アメリカン・サモア」、刑務所産業によって町おこしを図り、「アメリカにおける死の首都(the death capital of the U.S.)」と呼ばれる「テキサス州ハンツビル」、光と影、多様なアメリカの姿が9つのコミュニティを通して描かれる。

アメリカという国については調べれば調べるほど、その多様性に圧倒される。それは人種や文化が様々に共存しているからというだけではない。「アメリカ」と一つでまとめて語ることが馬鹿馬鹿しくなるほどの、相反する様々な姿がごく当然のものとして、そこに見えてくるからだ。少し前まではそこはかとなく抱いていたプチ「反米」的なイメージはここ数年できれいさっぱり無くなった。僕がなんとなく反感を抱いていたアメリカってただの幻想でしかなかったのだから。

著者もアメリカの多様性についてこう書いている。

『アメリカを語るとき、必ずと言っていいほどまとわりつく「多様性」という枕詞。それは単に自然環境や、人種や宗教といった社会構成における「多様性」を指すのではなく、「アメリカは○○である」という定義づけを常に拒むカウンター・ディスコース(対抗言説)が存在する点にこそ特徴がある。こうしたカウンター・ディスコースへの視点を失うと。「アメリカ」は単純な記号に収まり、アメリカ理解は安易な「排米論」や「拝米論」に矮小化することになる。』(P222)

また、そのカウンターディスコースの存在がアメリカ社会の強みでもあることが指摘される。

『社会のなかに様々なカウンター・ディスコース(対抗言説)を擁していること。そうしたディスコースが絶えず生み出されては、せめぎ合っていること。そして、それが許される<自由>。そうした<自由>を自己理解ないし運動律の核としている社会。それは、安易な烙印や批判を拒むと同時に、自らに足払いをかけながら、永遠に革命を続ける手ごわい社会でもある。』(P54)

このアメリカの多様性はその一方で分裂と対立の原因にもなっている。文化戦争と呼ばれるアメリカを二分する断裂もそうだし、人種の壁や宗教の壁、保守とリベラルの思想の壁などいくつもの分断が確かに存在する。それらをひっくるめてアメリカの多様性というものには、日本から眺めるだけでも確かに見るべきものがあまりにも多いように思う。そのうちアメリカには行ってみたいと思ったりもするのだが、まだその機会には恵まれない。

分裂要因としての多様性、とともに「多様性のあるアメリカ」というアメリカの自己像は一種の均一な幻想として機能している面もあると思う。「多様性のあるアメリカ」と言う名の均一性と、「多様性」のあるアメリカという実態との間で自家撞着を起こして、のたうちまわっているようでもある。そんな過程を経てアメリカはどう変わっていくのか、は傍で眺める分には興味深い。とはいえ、アメリカの一挙手一投足は世界に少なからぬ影響を及ぼすので、他人事として眺めている訳にはいかなかったりもするわけだが。

そんなアメリカの多様な姿を、ひとつひとつの小さなコミュニティを通して、手に取るように実感させてくれる良質な一冊だった。同著者のアメリカ関連の書籍はどれも興味深いので、個人的に新刊を楽しみにしている研究者の一人でもある。

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