【TED動画】パレスチナの非暴力抵抗運動を知っていますか?

ジュリア・バッチャ:非暴力に注目を | Video on TED.com

パレスチナとイスラエルに関するニュースは武力衝突や住民の強制移住、虐殺、テロリズムなどの血腥い話題で独占される。だが、実は現地では非暴力手段によって解決を図ろうとする数多くの無名の人々がいるのだと、スピーカーのジュリア・バッチャは語る。そして彼らの地道な活動は欧米ではほとんど報道されないのだとも。

彼ら無名の非暴力運動の活動家たちに世界が「注目」すれば、それだけで彼らの力になるのだと。だが、彼らは注目されず、暴力的な抵抗運動ばかりが注目されるがゆえに、その非暴力運動を大きな運動にすることを困難なものにしているという現実があると彼女は言う。そのようなメディアや国際社会による「注目」の重要性についてパレスチナの小さな村での非暴力運動の成功例とともに語られている。

TED動画はWEB系やライフハック的な動画ばかりが目立つが、たまにこのような硬派なスピーチがあり、しかし、それらは他の動画と比べてほとんど目立っていないように思う。なので、「注目」の重要性を語っている動画でもあるし、また、この動画が「注目」されることよって、ほんの数ミリかもしれないが中東の平和への道を進ませることが出来るかもしれない、とも思うので、ブログで紹介してみよう。ぜひ多くの方に見ていただきたい。

あわせて関連するもろもろの背景などについても簡単に触れておこう。

非暴力抵抗運動は市民的不服従の重要な手法の一つだ。市民的不服従は十九世紀の米国で奴隷制に反対して税のボイコットを行った作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの論文を思想的背景として、ソローの思想に影響を受けたマハトマ・ガンジーやマーティン・ルーサー・キングによって実践された。

『市民的不服従(civil disobedience)とは、自らの行為の正当性の確信のもとに行われる非合法行為である。それは、特定の法や政策に自覚的に違反する公的行為であり、自分の良心に照らしてどうしても服しえない国家の命令に対してなされる。また、非暴力手段によってなされるのがその特徴的性格である。』(寺島P15)

『市民的不服従が非暴力でなされなければならないのは、それが戦争や差別という暴力に対抗する行為であり、非暴力でなされなければその正当性が確保できないからである。』(寺島P20-21)

いわば合法的な手段でなされる戦争や差別などの『重大な価値剥奪に関る法や政策』(寺島P24)に対して『人間の「生命」や「自由」を守る』(寺島P24)ために抵抗権の行使として敢えて法を犯してなされる活動になる。そのため、その手法が暴力か非暴力かは市民的不服従とテロリズムとを分ける分岐点になる。非暴力で行うことで、それは正当性を確保することになる。ゆえに、国際社会が非暴力運動を支援することは最重要の課題と言える。

以上、市民的不服従については後日あらためて他のエントリでとりあげたいと思うので、ここでは最低限の説明だけ。ただ一つだけ言えるのは、「脱原発運動」などを例に取るまでも無く、今後日本社会においても「市民的不服従」は非常に重要なテーマとして直面させられることになると思う。

イスラエル国家の建国に際して行われたのは、「合法的」な手法によるパレスチナの人々の財産や土地の没収、居住地からの追放、そして虐殺であった。イスラエル建国の前提としてパレスチナには人は住んでいないことになっていたからだ。だが実際には一〇〇万人以上のパレスチナ人が住んでいた。その机上と現実とのギャップを埋める手段として取られたのが強制移住であり、彼らを自発的に移住させるためにたびたび”見せしめ”の虐殺が行われた。その強引な手法を国際社会は見て見ぬふりをし、国際社会に見捨てられたパレスチナの人々は生きるために抵抗運動を始め、やがて過激化の一途を辿った。パレスチナ人による対イスラエル抵抗運動は”民主主義”国家イスラエルに対する「テロリズム」として長く汚名を与えられてきた。

『革命家とテロリストの違いは、何のために戦っているかという点にあります。正しい目的をもって、自分自身の土地を、侵入者、入植者、植民地主義者から解放し、自由にしようとしている者を、決してテロリストと呼ぶことはできません。』(広河P65)

(一九七四年一一月、国連総会でのPLOアラファト議長の演説)

西欧世界における「メディア」の「注目」は戦争の趨勢を変える。その顕著な例が九〇年代のユーゴ内戦だろう。まずPRの重要性に気付いたクロアチアが対セルビア戦争のために米国の広告代理店ルーダー&フィン社と契約して、自国の正当性とセルビアがいかに悪であるかの宣伝を打ち、続いてボスニア・ヘルツェゴヴィナも同社と契約して欧米諸国を始め国際社会の援助を引き出すことに成功した。ルーダー&フィン社の宣伝戦略に乗って次々と繰り出される悲惨なニュースと悪の権化として描かれるセルビアのミロシェビッチ大統領の姿に世界が注目し、米国大統領選すら左右して、政治家たちの優先順位の最上位におかれることとなり、国際社会の大規模な介入を招いた。

その一方で、同時期、過剰すぎるユーゴ戦争報道に隠れてほぼ無視された事件がアフリカにあった。ユーゴに四万名の平和維持軍が展開するころ、ルワンダでは虐殺の予兆が至る所にあり、かつ増員の案も出されていたにも関わらず、ルワンダ国連監視団二五〇〇名の人員の削減が決定され、三五四名まで縮小される。この決定がなされた一九九四年四月二一日は「国連の恥ずべき暗黒の日」(最上P65)と呼ばれたという。そして、同年四月末、ルワンダの虐殺が始まった。わずか一ヶ月で五〇万人の住民が虐殺され、九四年から九五年の一年間で一〇〇万人の犠牲者を生むことになった。

現地の三五四名の監視団は懸命に虐殺から人々を救うべく尽力して、およそ二万五〇〇〇名の命を救っており、当初の案通り増員されていればもしかしたら勃発そのものを防止していたかもしれない。あきらかな失態であった。もっとメディアがユーゴ内戦と同程度に「注目」し世論を喚起して政治家たちを動かしていれば、避け得たかもしれない事例であった。

スピーチでも彼女が語る通り、「注目」することで事態は良い方向へと大きく変わり得ることを、歴史が証明している。逆に、最早社会を変えるには暴力的な手段によるしかないと絶望した時にテロリズムが誕生するのであり、国際社会による非暴力抵抗運動への「注目」と支援が非常に重要な意味を持つ。

ということで、NHKなどの報道番組はパレスチナの非暴力抵抗運動について取材してみてはどうだろうか、と淡い期待を書いてみる。かなり意義のあることだと思うなぁ。

参考書籍
・寺島 俊穂著「市民的不服従 (政治理論のパラダイム転換)
・広河 隆一著「パレスチナ新版 (岩波新書)
・最上 敏樹著「人道的介入―正義の武力行使はあるか (岩波新書)
・高木 徹著「ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)

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