盆踊りの変容と衰退に多大な影響を与えたメディア

【からだ こころ いのち 夏の特別編(2)】乱交セックス「盆踊り」 性を解放、神聖な伝統行事(1/3ページ) – MSN産経west

はいはい。

丁度最近読んだ佐藤 卓己 著「八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)」に、明治期に禁止されてきた盆踊りが一九二〇年代に再評価されていく過程が解説されている。

『盆踊りが禁止統制の対象から善導利用の対象に変化するのは、稲垣恭子「若者文化における秩序と反秩序」(二〇〇二年)によれば一九二〇年代のことである。健全な慰安娯楽によって労働力再生産を行い、さらに郷土愛を養い、共同体秩序を強化できる近代化装置として、盆踊りは再評価されていった。その過程で、担い手も若衆組から官制の青年団に変化していった。』(P163)

この一九二〇年代の盆踊り復興はそれまでの村の娯楽、混沌としたハレの場としての盆踊りから、『反秩序的な力を生かしながら秩序を活性化させていく秩序装置』(P164)として、また、『近代的で新しい規範とそれに基づく秩序を補完する教育的な娯楽』(P164)へと盆踊りを変貌させたという歴史がある。そしてこの盆踊りという慣習の統制と変質を可能としたのが一九二五年に開始されたラジオ放送で、一九二九年には仙台や熊本など地方局の盆踊り中継が全国放送されるなど、公共放送がこぞって盆踊りの全国中継を行ったという。

その前段階として、レコードの発売と音楽市場の再編があるという。一九二七年、レコード業界はコロムビア、ビクター、ポリドールの三大レーベルに再編、一九三一年にはキングレコードが登場し、それまで統制できなかった歌や声の市場統制が可能となった。当時、「ちゃっきり節」や「波浮の港」など「新民謡」がブームとなり、ラジオ放送で繰り返し流された。これらは童謡などと共に「国民文化」として受容され、新たな共同体文化として根付いていく。

『盆踊りはレコードを使って繰り返し練習されることで、ラジオ体操(一九二九年二月一一日「紀元節」から全国放送開始)とともに集団的な身体的規律の近代化を加速させた。』(P165)

一九三三年になると盆踊りが日本中で大ブームを迎えたという。同年、後の東京音頭「丸の内音頭」が発売され、一三〇万枚の大ヒットとなるが、この盆踊りブームは計画された物だったという。内務省等が『思想善導の恰好の手段として音頭を推薦』(P166)し、一九三四年に盆踊りブームはピークを迎えた。盆踊り中継とともに甲子園中継、盂蘭盆会中継などを通して全国中継のネットワークが整備されたことで『世論を動員する総力戦体制のシステム』(P167)が整い、一九三四年五月、番組編成が全国的に統一されたことで地方局は権限を失う。

そして、太平洋戦争の戦局の悪化とともにラジオ放送から盆踊り番組が消えていく。一九四三年には一度だけ、以降終戦まで盆踊り中継は無くなり、戦後もGHQへと配慮した結果として、盆踊り中継は滅多に行われることは無くなり、一九六〇年代、ラジオからテレビへとメディアの中心が移り変わる中で、『都市大衆文化の普及とともに、盆踊り番組も消えて行った』(P189)。そして、戦後の混乱によって実施が困難であったことや戦時中の様々な習慣を忌避する風潮、都市化の進展などもあって戦時中の秩序に埋め込まれた盆踊り自体が衰退していく。

私は趣味として主に都内と周辺地域を中心に神社・仏閣をよく訪れるのだが、現地の案内板などを読むと、戦後中断していた盆踊りや祭礼などの地域の行事の復活が昭和四十年代前半から昭和五十年代半ばぐらいの十数年間に集中している印象がある。昭和○○年に有志の尽力で復活、などといった記載だ。

一九七〇年代、メディアに見捨てられ、都市化し、また地方の村落が過疎化する中で、地域のお祭りとしての盆踊りを一から復活させようとする動きを行っていたのは地方の名もなき人々だ。丁寧に街中を歩き回ってみればごくごく当然のこととしてわかる。今求められているのは夜這いや騒乱などとセットのハレの場としての盆踊りでもなければ、国家の秩序構造に取り込まれた近代化装置としての盆踊りでもないというのは言うまでもないことだろうし、そういう関係者の模索が、色々賛否はあるだろうが、最近の様々な形での盆踊りの隆盛に繋がっているように思う。

一九二〇~三〇年代当時のメディアが権力機構と二人三脚で近代化の名の下に盆踊りを秩序機構へと取り込むべく変質させ、戦後、都市化と高度経済成長の名の下に見捨てたことが、盆踊りの変容と衰退に大きな影響を与えていったという過程、メディアこそが『盆踊りという巨大な文化運動を生み出してきたほどのエネルギーを封印した』当事者であることを、現在のメディアに従事する人ならば、旧い慣習を称揚する前に、それなりに自覚しておいた方が良いのではないかと思う。

八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)
佐藤 卓己
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