全世界で停戦させるため全世界を動かした男のTEDスピーチ

全く何も持たないところから徒手空拳で世界中の要人・著名人や市民を巻き込んで毎年九月二一日を一切の暴力行為・戦争を行わない国際平和デーと国連で決議させ、アフガニスタン戦争さえも一時的に停戦に持ち込んだ映画製作者ジェレミー・ギレイ氏のTEDスピーチ動画。
とても興味深い内容だった。
元々九月第三火曜日が国際平和デーとされていたようだが、彼は九月二一日を世界中で一切の戦争が行われない日とする理想を実現するために活動を開始し、ダライ・ラマやアナン国連事務総長ら要人へ手紙を手当たり次第に送り、アポイントを取ることに成功、その理想を世界中で語って二〇〇一年には九月二一日を国際平和デーとする国連決議が行われるまでにこぎつけ、その後も活動を続けて戦災などで不幸な境遇にある子供たちの救済活動やドキュメンタリー映画の撮影などを行いつつ、二〇〇九年にはアフガニスタンで対立するISAF(国際治安支援部隊)、タリバーン両陣営から九月二一日のみだが停戦の合意を取り付けるなどの成果を残すまでに至ったという。
スピーチを聞いていても高い理想と、その目標に向けての行動力、実現のために何をすればいいかという構想力と問題解決力が抜群にすごいことが伝わってくる。大事な事は良いアイデアを持つこと、支持者と経済力、皆の意識を高めること、皆の意識を高めるのは自分一人ではできない、と語る。というか、最初に、どこの馬の骨ともわからない人物と良いアイデアだというだけでほいほい会っちゃうダライ・ラマさんすげー、って話でもある。彼によれば二〇一二年九月二一日を史上最大規模の停戦の日とするべく、現在活動中で、それを実現するのは一人一人の個人の力でありパートナーシップなのだという。何が出来るわけでもないが、ともかく応援のため動画を紹介して、個人的に九月二一日は平和を考える日としておきたい。
ところで、このような、個人の力が国際社会を動かすことが出来るようになった、というのは特にここ三〇年の国際社会の変化にともなうところが大きい。七〇年代後半以降のグローバリゼーションの進展は、既存の主権国家の枠を軽々と飛び越えて全地球規模での一体化と流動化をもたらし、その結果主権国家の地位が低下して多国籍企業やNGOなどを始めとする様々なアクターが国際社会を動かすことが出来るようになった。個人もまた国家が主体だった国際社会に個人としてあるいは民間組織に加盟する、インターネットメディアで発言するなどして直接的な影響を及ぼすことが可能になりつつある。もちろんそのためにはジェレミー・ギレイ氏のような人並み外れた行動力と協力者を動かす力が必要であるのだが、そのような現代的変化を象徴する良い例として、彼の活動は見ることができるだろう。
ただし、このような「主権国家の黄昏」は国民が国家を介して国際社会に影響力を及ぼすことが難しくなり、大多数の人々は自身に影響を及ぼす決定に関与できない「民主主義の赤字」という問題とセットなのでもあって、むしろ、超人的な行動力と構想力と意欲を備えた人だけが個人として世界の変化に関与できるという、若干寂しい一面でもあるのだが、ゆくゆく非国家組織や活動が一層活性化することで解消されていくものかもしれないという楽観的な見方を提示しつつ、ここでは素直にジェレミー・ギレイ氏の活動に賞賛を送りたい。
これは素晴らしい活動であるし、素晴らしいスピーチだと思う。

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