ティーパーティ運動の米国政治への影響についてまとめ

過去のティーパーティ関連記事同様久保文明編「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」より。

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容
久保 文明 東京財団・現代アメリカ研究会
エヌティティ出版
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廣瀬淳子氏論文「ティーパーティ議員連盟とティーパーティ系議員の影響力」によるとティーパーティ議員連盟は下院が二〇一〇年七月、上院が二〇一一年一月に設立され、所属議員数はそれぞれ六〇名、四名、下院ティーパーティ議員連盟の代表者が二〇一二年大統領選共和党予備選挙に出馬していたミシェル・バックマンである。共和党は下院議員二四二名、うち保守派議員連盟として共和党研究会があり一七六名が所属、共和党中道派の議員連盟として火曜会に四九名が所属、ティーパーティ議員連盟に加盟している議員の多くが共和党研究会に所属し、一部財政保守派議員が火曜会にも所属しているという。

ティーパーティ議員連盟の政策は二〇一〇年中間選挙公約集「アメリカからの契約」として以下の十項目が挙げられている(注1)。
1  憲法の擁護――すべての法案に憲法上の根拠を明示
2  環境規制における排出権取引の否定
3  財政均衡要求――財政均衡憲法改正
4  抜本的税制改革――単一税率の導入
5  財政規律の回復及び憲法的に制限された小さな政府
6  政府支出の制限――連邦政府の支出の伸び率に法定された上限を設定
7  政府が運営する医療保険の予算停止、廃止及び改革――医療保険改革法の廃止など
8  エネルギー政策の変更――輸入エネルギー源への依存を低下させるための国内エネルギー開発の促進と規制緩和
9  お手盛り予算の停止
10 増税の廃止

設立されて間もないが、財政赤字削減問題や債務上限引き上げ問題などで非妥協的な姿勢を取り、特に後者では債務不履行寸前まで追い込むなど共和党と民主党の合意に強い影響力を発揮した。

細野豊樹氏論文「ティーパーティ運動がもたらす統治・公共政策における三つの混乱」によると、二〇一〇年の中間選挙で共和党は下院で大勝利を収めたが、その勝利に対してティーパーティ運動の影響は限定的であったと考えられている。

中間選挙において特徴的だったのが、ティーパーティ系候補者が予備選で圧倒的に強く、本選挙で弱いという例が多く見られたという。予備選挙は本選挙と比べて投票率も投票数を低いため、ティーパーティの力が発揮されやすく、共和党の実力者達をティーパーティ運動系新人候補者が破り、本選挙になるとティーパーティ系候補者は支持の広がりがないため苦戦するという結果になった。それでも共和党に対する追い風で下院では勝利を収めたが上院では共和党への追い風にも関らず民主党が過半数を維持することになった。

『ティーパーティ運動は、本選挙において総じて頼りにならないが、投票率が低い予備選挙においては情熱的な支持者が大挙して投票することで絶大な影響力を発揮しうる。このため選挙と選挙の間の統治の局面において共和党はティーパーティを無視できない』(注2)

このような内弁慶的なティーパーティ運動は特に財政政策、マクロ経済政策、規制政策の三つの局面で混乱を巻き起こす要因となっているという。政策論争において徹底的に非妥協的な姿勢を貫くティーパーティ系議員は共和党のエリック・キャンター院内総務、ポール・ライアン予算委員長らが率いる「ヤング・ガンズ」と呼ばれる財政保守系新人議員グル―プと共同歩調を取っている(注3)。

彼らティーパーティ議員連盟と「ヤング・ガンズ」は、まず財政政策面で二〇一一年の債務上限引き下げに徹底的に抵抗して米国債格下げを招き、マクロ経済政策においては増税や金融政策を認めず、徹底して政府歳出削減を最優先とする姿勢を崩さないため、政府のマクロ経済政策の選択肢を著しく狭めさせ、政府による規制についても夜警国家的な国家観に基づいて徹底した規制反対姿勢を貫いている。

『ライアンは、「政府の役割を限定することが、経済を軛から解放し、何百万人もの雇用及び成功と繁栄の機会をあらゆる階層のすべての人々にもたらすと確信しています」と述べている。
(中略)
ライアンが提唱するような、福祉の見直しに手をつける抜本的な歳出削減は、人口の高齢化が進むなか中長期的には避けて通れない課題である。しかし問題なのは、今現在の世界同時不況における総需要の不足という経済環境において、最優先の課題か否かという点である。』(注4)

ティーパーティ運動の特徴を表す言葉に「憲法保守」(注5)というのがあるが、文字通り建国時の合衆国憲法に記載される合衆国の権限以外は認めない(原意主義を取り修正条項さえも認めない)ことから、二〇世紀以降の現代的なニーズに応じた行政の柔軟な対応は否定され、規制や財政・経済政策もまた最低限の施策しか認めないものとなる。特に規制について争点になっているのが温室効果ガス規制に対する抵抗で、彼らは地球温暖化懐疑論を取っているため、米国における環境問題への取り組みは非常に困難な状況になっている。

ティーパーティ系の議員たちは熱情と非妥協的な姿勢だけで選挙時の弱さや政治勢力としての影響力は未知数だが、存在感だけは大いにあることで、米国の政策に少なからぬ混乱をもたらし、それは世界に対しても少なからず波及している。今後の動向次第では米国の将来すらも左右することになりそうだ。二〇一二年の大統領選で共和党はポール・ライアンを副大統領候補にするなどティーパーティ・財政保守派的な方向へと大きく軸足を移しているように見える。選挙戦での弱さや組織力の低さなど一つ間違えば共和党を自壊させかねない大きな賭けのように見えるが、逆に上手く回ればブッシュ政権時代の宗教保守派以上の支持基盤にもなりうるし、それはどちらに転んでも米国だけではなく世界中に大きな影響を与えることになるのだろう。

(注1)P64
(注2)P97
(注3)ポール・ライアンと「ヤング・ガンズ」については過去記事『米国大統領選挙共和党副大統領候補ポール・ライアン氏について
(注4)P102
(注5)「憲法保守」については過去記事『ティーパーティ運動のキマイラ化を成し遂げた「憲法保守」概念

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