妖怪とは何か

以下小松和彦編著「妖怪学の基礎知識」P10-31より。

妖怪は「霊魂」の存在を前提としている。人間や動物だけでなく万物すべてに霊魂が宿り、それは人間と同様喜怒哀楽の感情を持っていると考えられた。その霊魂の怒った状態は「荒魂(あらたま)」、喜んだ状態は「和魂(にぎたま)」と呼ばれ、天変地異や疫病から豊作まで霊魂の感情の動きが大きく影響していると考えられた。

「和魂」の状態にある霊的存在は「神」で、それに対して「荒魂」の状態にある霊的存在は「鬼」と呼ばれ、人間にとってのマイナスイメージを全て付託された。「和魂」と「荒魂」という分類とともに、「荒魂」であっても制御されているかいないかで大きな違いがある。この場合の制御、とは祭祀されているかどうかの差で、理解できない超常現象全般を広義の怪異とするなら、狭義の意味での妖怪・怪異現象は制御されない霊魂によっておこされるとされる。

まず第一に「出来事(現象)としての妖怪」が知覚される。薄気味悪い音や匂い、得体のしれない姿の何か、などに直面したとき、その怪異現象は妖怪として捉えられる。第二に、霊魂の存在を前提として超自然的な存在があると考えられた。それが鬼、天狗など「存在としての妖怪」と捉えられた。第三に、時が下って中世、近世になると絵巻や絵本などメディアが浸透し、妖怪たちも多く描かれるようになる。ここに「造形としての妖怪」が登場する。描かれた妖怪は人々の好奇心を満たす一方で、妖怪イメージが固定化し、徐々に飽きられていくことにもなった。

そこで、飽きられる以上のスピードで妖怪を生みだせば良いということで、中世、絵師たちによって次々と妖怪が創作された。それが「付喪神」(つくもがみ)である。道具の霊魂は百年経つと神秘的な力を獲得すると言われ、百年経つ前に捨てられる。その捨てられた恨みを晴らすために道具は鬼になるが、一気に鬼になるわけではなく、段階的に手足や目鼻がついて一旦妖怪になった後鬼になるとされる。その妖怪段階の道具たちが「付喪神」だ。これによって中世から近世にかけて飛躍的に妖怪が生み出された。

また「名付け」によっても妖怪は増大することになった。怪異現象は基本的に個人的な体験だが、同様の体験をした人が増えると、その体験に妖怪としての名前がつけられることで共同幻想として了解されることになる。「やまびこ」や「天狗倒し」「小豆あらい」などは名付けによって共同幻想としてそのコミュニティで了解されることで生み出された。

妖怪が生み出されるには大きく次の四つが原理として存在しているという。
1.怒っていること
2.巨大化すること
3.歳を重ねること
4.化ける能力

妖怪は霊魂が荒れた状態であるから、まずなんらかの理由で怒っていることで生み出される。次に妖怪は恐怖の対象であるので多くは人間よりも巨大なものとして描かれる。また古狐などのように歳を重ねていることも妖怪の特徴としてある。そして、変身する能力を持っていたりやあるいは巨大化とも繋がるがなんらか姿かたちを変形させることで妖怪として誕生する。その他、何らかの特殊能力(姿を消す、空を飛ぶなど)を持っていたり、いくつかの生き物・道具の合体などもある。

やはり要点は、怖れ、忌避し、あるいは理解できないものとして認識したものが妖怪として姿かたちを与えられてきたということだ。人々が何を怖れて、何を遠ざけようとしているのか、怒りのメタファーである妖怪とされた存在はいかにして妖怪となったのかを問うことで、妖怪を生み出してきた民俗・文化・社会・あるいは人々の心理が見えてくる。

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