「道州制 (ちくま新書)」佐々木 信夫 著

道州制 (ちくま新書)
道州制 (ちくま新書)
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佐々木 信夫
筑摩書房
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先に承前としてこの三つのエントリを。
「日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ」飯尾 潤 著
「ポピュリズムを考える―民主主義への再入門」吉田 徹 著
「都知事―権力と都政 」佐々木 信夫 著

一応この流れでのこの本の紹介ということで。特に『「都知事―権力と都政 」佐々木 信夫 著』の記事では前提となる現行の地方自治制度のアウトラインを簡単にまとめておいたので話の枕として読んでおくとわかりやすいと思う。

同書によると、現在の道州制導入論議の背景は以下の三点に要約されるという。
1) 地方分権改革
2) 財政再建
3) 憲法改正

第一の地方分権改革という観点から言うと、九〇年代末以降の大規模な行政改革の流れが背景となっている。『二〇〇〇年の地方分権一括法の施行による機関委任事務制度の全廃、二〇〇四年度から二〇〇六年度にかけた三位一体改革による補助金、交付税の見直しと税源移譲、そして二〇〇七年四月から三年間にわたる地方分権改革推進委員会での勧告、そして二〇一〇年の新地方分権一括法の提案など』(P78)とともに、二〇〇〇年から始まる市町村の再編「平成の大合併」によって急速に府県の役割が転換してきている。

従来の府県の役割は以下の四つに大別される。
1) 広域的・統一的な事務
2) 市町村の連絡事務
3) 市町村の補完、指導
4) 広域プロジェクトの実施

この二〇〇〇年からの地方分権改革によって2)と3)の役割が大幅に縮減し空洞化する一方で1)と4)の役割がより強化される必要性に迫られている。つまり『府県機能の空洞化と更なる広域化という二極分化』(P82)のだという。そのような変化を背景とする地方分権改革の一環という位置づけでの道州制導入論議が第一の背景となる。

第二に、財政再建の一環として、国債、地方債、借入金等あわせて一〇〇〇兆円を超える債務の根本的な整理のため、小さな政府を実現する手段として道州制導入が論議されているという背景がある。中長期的な施策として財政健全化のためには現在の政府機能の二五~三〇%を削減する必要があり、道州制への移行を行うことで行政のスリム化を図ろうという議論が第二の背景となる。

第三に憲法改正論議の一環としての地方自治のあり方を議論する過程で道州制の導入論が唱えられている。二〇一〇年「日本国憲法の改正手続きに関する法律(国民投票法)」が施行されたことに伴い、憲法改正の手続きが明確化され、様々な思想的背景もあって憲法改正がトピックとして盛り上がっていった。

九〇年代末以降の自民党政権による地方分権改革は憲法改正を前提とした道州制の導入を視野に入れた方針で進められていた。平成十六年六月十日の自民党憲法調査会の論点整理には地方自治の方向性として以下のようにまとめられている。

佐々木信夫著「道州制」(P84-85)
ウェブ上のソースは
憲法改正プロジェクトチーム「論点整理」
八 地方自治
1 共通認識
 地方分権をより一層推進する必要があるという点については、異論がなかった。また、地方分権の基本的な考え方や理念を憲法に書き込む必要があることについても、大多数の同意が得られた。
2 改正意見
現憲法第8章(地方自治)に関する改正意見は、次のとおりである。
○  いわゆる「道州制」を含めた新しい地方自治のあり方について、(1)法律の範囲内での課税自主権の付与等自主財源の確保、(2)自己決定権と自己責任の原則、(3)補完性の原則など、その基本的事項を明示すべきである。その際には、住民による自発的な自治、必要最小限の行政サービスの保障などの観点に留意すべきである。

基本的には各団体・論者ともこの三つの基本的事項を前提として道州制の議論がなされているのだが、最近自民党は大きく方向転換したらしい。

自由民主党パンフレット「チョット待て!!”自治基本条例”~つくるべきかどうか、もう一度考えよう~」より
(前略)市民がやれないことを市町村がやり、更に市町村がやれないことを都道府県がやる。都道府県がやれない部分を国がやるという理論が生まれました。いわゆる「補完性の原理」です。そして。国がやれないことを国際機関がやる。「地球市民」などという発想も、こういうところから出て来ています。
このため、自治体の権限も財源も、議会も行政も、市民からの「信託」に過ぎない、国家も、地方自治体も、市民の「信託」によって成り立つと理論付けています。これが「複数信託論」です。
しかし、これでは議会も行政も法的根拠が不要となり、市民の総意でどのようにでもなるという理論になり、市民の言いたい放題になって収拾がつかなくなる危険性があります。この考え方は、法律の範囲内で地方自治を認めている憲法の考え方とは、大きく異なっています。
(中略)
つまり、「補完性の原理」と「複数信託論」をバックボーンとする「自治基本条例」は、現行憲法の予定する国と地方の関係を逸脱し、地方自治に係る国の責任を曖昧にするものとならないか、きちんとチェックする必要があります。(P3)
Q.自治労などが主張する「補完性の原理」、「複数信託論」とは、どのような考え方ですか?
A.憲法と自治基本条例の関係を松下圭一教授は、「複数信託論」、「補完性の原理」という独自の概念によって説明しています。
「信託論」については、
憲法前文の「国政は、国民の厳粛な信託による」を根拠として、国や自治体は市民の「信託」によって成り立つという、通説とは異なる独自の主張をしています。
「補完性の原理」については、
”自治体をいわゆる国家の付属物とみなす国家統治という考え方から脱却して、今日では理論的常識となった「補完原理」に基づいて、市民が順次、市町村→県→国→国際機構へと<補完>しながら「複数信託」する”
と述べ、「補完性の原理」と「複数信託論」を展開しています。
この松下圭一理論は、国家を否定し、憲法や地方自治法を逸脱した危険な考え方といえます。(P9)

以上のように、自民党政権下で進められた地方分権改革の基本事項である「補完性の原理」を否定する見解を出していることから、「道州制」については引き続き唱えてはいるものの、従来の自民党の方針であった地方分権を重視する連邦制型道州制から中央政府による統制を重視する集権的道州制へと一八〇度方向転換しているものとみられる。また民主党はそもそも道州制には論者は多いが党としては積極的に打ち出してはいない。

ちなみに「補完性の原理(subsidiarity principle)」は一九八五年に締結された「ヨーロッパ地方自治憲章」でも規定され、マーストリヒト条約でヨーロッパ共通の政治・行政原理として欧州の地方自治原則の一つとして採用された考え方で『地域―国家―国家連合の順に積み上げ型で公共機能の配分を行うことで、主権を超国家および地域のレベルに分散・移譲する』(加茂利雄他「現代政治学 第3版 (有斐閣アルマ)」P179)、EU及び現代の先進諸国の地方分権の思想的裏付けとして機能する基本的な原理の一つである。個人を尊重しつつ中央政府の権限を制限するという特徴から保守主義思想と親和的で、エスピアン-アンデルセンの福祉国家三類型(自由主義型、社会民主主義型、保守主義型)では保守主義型国家を支える原理として分類される(加茂P75)。

少し脇道に逸れたので、この本の本筋に戻そう。

道州制推進論者の意見を集約するとメリットは以下の五点に集約される。(P59)
1)行財政基盤を強化する(県職員、国の出先機関職員の大幅削減ができる)。
2)行政サービスが向上する(フルセット行政の回避、スケールメリットが働く)。
3)魅力ある地域圏、都市圏が形成できる(特色ある地域圏による都市間競争が成立)。
4)経済生活圏と行政圏を一致させる(府県廃止、地方政府の一元化で広域戦略が可能)。
5)大都市圏の一体的運営で経済活力も向上できる(首都圏はイギリス並みの経済力)。
これに対して道州制否定論者の意見を集約したデメリットは以下の五点。(P60)
1)そもそも国民は、道州制を望んでいるとは考えにくい。府県で育んだ文化を奪う。
2)制度を変える前に、現行の都道府県で広域連合をつくり、広域対応したらどうか。
3)道州制であまり区域を広げると、自治体に地域住民の声が届かなくなる。
4)各道州の間で経済格差が広がり、勝ち組、負け組がはっきりしてしまう。
5)あまり道州の権限を強くすると、国家全体が統一性を失いバラバラになる。

上記の自民党のパンフレットではデメリットの5)を特に地方分権の基本原理にまで遡って強調しているので一見地方自治そのものを否定しているかのようにも見えるが、まぁ、それはさておき、本書では基本的に道州制を推進する立場で論が進められているのでデメリットは充分に対応可能なものとしている。そして、「道州制」について現在議論されている様々な論者の案を踏まえ、道州制を大きく三つの類型に分類している。(P98)

1) 集権的道州制
道州議会は公選議員で構成されるとしても、執行機関の首長(道州知事)は国の大臣に相当する官選知事ないし任命制の知事(地域担当大臣)をおき、自治権の小さな「地方庁」とするというもの。
2) 地域主権型道州制
憲法改正をせず、府県に代えて、都道府県の合併と国の出先機関を包括し、国からの行財政権限を移譲することで権限の大きな広域自治体としての「道州」を内政の拠点にしようというもの。
3) 連邦制型道州制
憲法を改正し、アメリカ、ドイツ、ロシアのような連邦制国家に移行し、そこで独立した地方政府を「道州」とするというもの。

同書では2)の地域主権型道州制をベストとして、道州制の設計、課題、組織、区割り、大都市の扱いなどの案が整理されていく。基本的には現在までの地方行政改革の延長線上にある道州制という位置づけで構想されており、確かに現実味はあるのだが、この三つの類型だと1)と3)は極端な類型であって実質2)の一択なのでちょっと乱暴というか恣意的な類型の分類という気がしないでもない。

また、議員の削減ありき、組織のスリム化ありき、さらに日本が直面する財政赤字の健全化には道州制の導入しかないかのような結論ありきで進む点なども、やはりちょっと待ってくださいよ、という気はする。いわゆる小さな政府化万能論的見方があたかもア・プリオリなものであるかのような雰囲気があるので、その方向性に反対するわけでは無いのだけど色々議論を飛ばしているような感じで少し鼻白むポイントではある。

ただ、この本で展開される道州制の設計は現在の地方自治の制度や法、課題などをコンパクトに整理していきながら論が展開されるので、地方自治の現状を把握するのにとても勉強になる内容になっているし、国際比較や大都市集中の現状把握なども良く整理されていると思う。第五章の地方財政の現状の整理はとてもわかりやすい。例えば自主財源が半分にも満たず、かといって地方自治体では自立性に乏しく、経済情勢の影響をもろに受けるという、構造的に脆弱な状態であるということがよくわかる。

原則として地方自治体の財源確保は「自治の原則」と「均衡の原則」とのバランスをどこで取るか、また道州制を導入したとして道州間の調整システムをいかに設計するか、また大都市に集中する歳入をどのようにコントロールし、バランスの取れた区分けにするか、など課題が山積しており、そこが道州制の設計の要点になってくる

色々疑問点も少なくは無いが、基本的に現状の道州制議論の要点はほぼ過不足なく整理され、かつ道州制の構想について把握する過程で地方自治の現状や海外の地方自治体制などについても理解できるという良書だと思うので、とりあえず基本を押さえておきたい人にオススメの一冊だと思う。

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