ユートピアとしての地域コミュニティという物語「たまゆら」「たまゆら~hitotose~」感想

たまゆら~hitotose~第1巻 [Blu-ray]
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D) (2011-12-21)
売り上げランキング: 13609

幼いころに父を亡くし、その父との思い出の街広島県竹原市へと引っ越しを決意する高校一年生の少女主人公沢渡楓と彼女を取り巻く人たちの関係を描いたアニメ作品。2010年11月発売のOVA「たまゆら」と2011年10月~12月放映のテレビシリーズ「たまゆら~hitotose~」がある。

「安芸の小京都」と呼ばれる竹原の古民家や寺社などの古い町並みや自然を風景画さながらに美しく描きつつ、地方都市で暮らす少女とその家族の日々の何気ない生活が丁寧に積み重ねられていく、穏やかで”優しい”作品だ。

等身大の少女たちを描きつつも、それは真に等身大の、リアルなものではない。身勝手さや、利己的な感情が慎重に排されており、特に喜怒哀楽の怒の発露はほとんど見られない。見られたとしてもそれは利他的な相手を思いやる感情に端を発する怒りとして描かれている。

これを物足りない、あるいは偽善と感じる人もいるかもしれないが、美しい風景の中で穏やかに登場人物たちの想いを浮かび上がらせつつ、丁寧にやり取りが積み重ねられていくので、そのリアルとフェイクの間のさじ加減は絶妙と言っていいだろう。喜怒哀楽、憎しみ、嘆きなど様々な要素を描くことでドラマ性や個性を立たせるのではなく、描かない要素を選択した引き算の演出で物語の深みを追求した作品だと思う。

ふわふわと楽しいだけ、優しいだけ、嬉しいだけなのではない。登場人物それぞれに悩んだり、迷ったり、考えたり、傷ついたり、各々の想いや人生がある。そのような想いは色々なことがあってもお互いがお互いを慮り、支え合うことで、大体、各話の中で良い方向へと進み、穏やかに区切りがつく。

父の死の影を引き摺る楓はカメラを手に取って竹原に向かうし、麻音ちゃんが実家の旅館と本人のやりたいことの間で迷っているのではないかと心配するみんなは、彼女の両親(キャスティングが懐かしの古川登志夫さんと平野文さんのあたるとラムちゃんコンビという妙)の暖かい愛情を確認することができるし、失恋した女性は思い切り泣いて前に進むし(「泣きの千和」の異名で知られる斎藤千和さんなのが、これまた絶妙)、自分のやりたいことに迷ったかおるちゃんは、みんなのやりたいことを展示するイベントを発案するし、ももねこさまは英雄として肉球とともに凱旋(笑)する。

そういう意味で、優しさに包まれたいくつもの関係性が竹原という場所と結びついて物語化することで、地域コミュニティをユートピアとして提示している作品であるとも言える。日常の生活の中で求めても求め得ぬものが、たまゆらの作品世界には存在しており、それは竹原という実在の場所に創造上のコミュニティを浮かび上がらせる。

この作品は「聖地巡礼」の成功例としてたびたび語られているが、まさにその「土地の物語」、いわゆる「地霊(ゲニウス・ロキ)」を新たに創造することによって、人を惹きつけることに成功しているからなのではないか、と思う。

以前書いた(→『「東京の地霊(ゲニウス・ロキ)」鈴木 博之 著』)通り、「地霊(ゲニウス・ロキ)」は十九世紀英国で登場した建築学の用語で『その土地のもつ文化的・歴史的・社会的な背景と性格』(鈴木P12)から、その土地がもつ雰囲気や精神を把握するための概念で、一つの場所に拘り、その土地で暮らした人々の営みや歴史、時間の流れ、意味や物語性を読み解こうとする。

この作品では徹底的に竹原を描き、その竹原がもつ「地霊(ゲニウス・ロキ)」にふさわしい物語を、特に竹原に暮らす人々の営みを中心に描いている。空想上のコミュニティと現実の土地とを繋ぎ合わせる、その土地と切っても切り離せない物語の世界に触れたいと思うがゆえに、ファンは竹原を訪れたいと思うのだろう。

主人公の楓は亡き父の遺品である銀塩カメラで竹原の町並みを、身近な人たちの営みを次々と写真に収めていく。写真を撮るという行為がもつ特別性、それは場所の精神を切り取る行為でもあると思う。切り取られた物語が次々と提示されることで、作品世界はより身近なものに感じられる。アニメの静止画であるのに、それを「写真」として切り取った時、写真がもつ現実感が生み出されている。この演出も非常に上手い。

そんなわけで、今深夜アニメが熱い熱いと言われているけれど、そんな深夜アニメを代表しうる上質な作品の一つなんじゃないか、と思っている。あ、続編第二期決定おめでとうございます。放映楽しみにしたいです。

ちなみに、趣味的な意味でさよみお姉ちゃんとは非常に気が合うと思っております。秘境探検とか余裕で付き合うどころか、むしろ振り回すぐらいのことが出来る自信があります。はい。

関連サイト
公式サイト
たまゆら -hitotose- – ニコニコチャンネル
たまゆら(OVA) – ニコニコチャンネル
「たまゆら~hitotose~」 | 【アニメ】はバンダイチャンネル
「たまゆら」 | 【アニメ】はバンダイチャンネル
『たまゆら~hitotose~』舞台探訪(聖地巡礼)List –
竹原市役所公式たまゆらページ

たまゆら~hitotose~第1巻 [Blu-ray]
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D) (2011-12-21)
売り上げランキング: 13609

たまゆら~hitotose~第2巻 [Blu-ray]
たまゆら~hitotose~第3巻 [Blu-ray]
たまゆら~hitotose~第4巻 [Blu-ray]
たまゆら~hitotose~第5巻 [Blu-ray]
たまゆら~hitotose~第6巻 [Blu-ray]
たまゆら~hitotose~第7巻 [Blu-ray]

たまゆら 第一巻(初回限定生産)【Blu-ray】
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D) (2010-11-26)
売り上げランキング: 3890

たまゆら 第二巻(初回限定生産)【Blu-ray】

TVアニメーション たまゆら~hitotose~オリジナルサウンドトラック
中島ノブユキ 保志まなみ(中島愛) 中島愛 坂本真綾
flying DOG (2011-11-30)
売り上げランキング: 12781
スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク