2012年にブログで紹介した本ベスト10冊+次点1冊

今年、ブログで紹介した本の中から、面白かった本10冊+次点1冊のまとめ。必ずしも今年発売した本ではなく、また読んだのも去年以前だったりするものもあるのだけど、とりあえず今年記事にしたという本。とりあげた記事へのリンクも貼っておきます。

一位:ドナルド・B・クレイビル他著「アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)
二位:飯尾 潤 著「日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)
三位:吉田 徹 著「ポピュリズムを考える―民主主義への再入門 (NHKブックス No.1176)
四位:岩田 正美 著「社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)
五位:正村 俊之 著「グローバリゼーション-現代はいかなる時代なのか(有斐閣Insight)
六位:ボブ・ウッドワード著「オバマの戦争
七位:金 文京 著「水戸黄門「漫遊」考 (講談社学術文庫)
八位:玉木 俊明 著「近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ (講談社選書メチエ)
九位:桜井 英治 著「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)
十位:佐藤 卓己 著「八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)
次点:久保文明編「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容

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一位:ドナルド・B・クレイビル他著「アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか」

アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)
ドナルド・B. クレイビル デヴィッド・L. ウィーバー‐ザーカー スティーブン・M. ノルト
亜紀書房
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「アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか」
愛と赦しの全体主義的宗教共同体アーミッシュについて

この本を読んだのは2010年春頃で、すぐに感想を書き始めてはみたものの、この本が問う様々な問題は、赦し、信仰、米国の銃社会、危機管理、多文化主義、個人主義と集団主義など数え上げればきりがないほどに非常に多岐に渡っていて、少し周辺のことにじっくり向かいあった上でブログに紹介したいと思い、結局読んでから紹介するまで二年以上かかってしまった。特にここ二年の当ブログでの米国、個人主義、多文化主義、キリスト教史に関する諸々の記事などは、この本を紹介するための準備的位置づけと言っても過言では無い。

また、2011年に入ったころにブログに書こうとしていたら、東日本大震災が起こり、その後もあらためてブログに書こうというタイミングで例えばノルウェーの銃乱射事件が起こったりして、タイミングを逃してしまっていた。なんとか今年中に書こうと年末にその前段階であるアーミッシュの特徴についてまとめた記事を書いた直後に今度はコネティカットの銃乱射事件が起こり、記事を公開することに少なからず躊躇するところはあったのだけど、やはり今こそこの本は重要であると思ったので、アップした。

個人的に、2012年に紹介した本のベストという以上にここ10年で読んだ本の中でも最重要な一冊だと思う。それは暴力と怒りと憎しみの連鎖が好むと好まざるとに関らず増幅され、誰もが囚われてしまうかもしれない現代社会において、「赦し」という観念が今こそ問い直されなければならないという点ゆえにである。さらに言うと、世界では理不尽な悲劇が繰り返されているが、それでも世の中には希望が溢れているし、ささやかな幸せというものは至る所に偏在している。理不尽な悲劇に見舞われた人々と、希望とを繋ぐ、そのミッシングピースになる観念としての「赦し」を考えることの重要性を示唆しているという点において、この本はここ10年で最重要な本の一冊である、と思う。

二位:飯尾 潤 著「日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ」

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)
飯尾 潤
中央公論新社
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「日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ」飯尾 潤 著
「民主主義」と「民主制」と「民主政」

日本の議院内閣制が、割拠性・自律性を強める官僚機構と政権党が与党機能を強めることなどによって政府という中心となる権力が空洞化し、日本独自の官僚内閣制という体制に変質していった過程を分析した一冊。2008年と民主党政権成立前、自民党政権末期の時点での分析だが、非常に鮮やかに日本の統治構造の問題点を描き出していて、再び政権交代が起こった2012年以降を展望する上でもかなり有用な一冊だと思う。あわせて統治構造や行政機構に関する類書を色々読んでいくきっかけにするとなお良さそうだ。

三位:吉田 徹 著「ポピュリズムを考える―民主主義への再入門」

「ポピュリズムを考える―民主主義への再入門」吉田 徹 著

七〇年代以降のグローバリゼーションにともなう先進諸国に共通する構造変化から、新自由主義政策とポピュリズムとの融合である「ネオリベラル型ポピュリズム」、その発展型である「現代ポピュリズム」が生起していく過程とそれらの特徴についての分析、またポピュリズムとデモクラシーの新たな関係性についても模索する意欲的な一冊。ポピュリズムという言葉は非常にレッテルを貼る曖昧な言葉として使われがちだが、敢えてそのようなレッテル張からは距離を置いて、ポピュリズムについて冷静に整理していて、現代社会・政治が抱える問題点を考える上で土台となりうる良い本の一つだと思う。

四位:岩田 正美 著「社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属」

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)
岩田 正美
有斐閣
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「社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属」岩田 正美 著
路上ホームレスに至る過程を表す3つの類型

社会的排除は社会的包摂と対になる言葉で、従来は福祉や排除の問題は貧困研究が中心であったが、貧困だけでは現代の福祉の問題を考える視点としては不十分になってきたため、家族とか企業とか地域といった社会関係に対する参加の欠如や居住地など空間からの排除、また金銭問題だったり失業だったり健康だったり様々な要因が重なることでおきる複合的な不利など多様な観点から一人一人が置かれた立場から総合的に排除の問題を検討するパースペクティブとして語られるものだ。福祉問題の第一人者と言える岩田正美教授による「社会的排除」についての手頃なサイズでの入門書で、非常に身近かつ重要な問題提起として読んだ。「社会的排除」についてより詳しくは「社会的排除・包摂と社会政策 (シリーズ・新しい社会政策の課題と挑戦)」を読み、以降関連する書籍を漁っていくと良いと思う。

五位:正村 俊之 著「グローバリゼーション-現代はいかなる時代なのか(有斐閣Insight)」

グローバリゼーション-現代はいかなる時代なのか(有斐閣Insight)
正村 俊之
有斐閣
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「グローバリゼーション-現代はいかなる時代なのか」正村 俊之 著
全ての資金は米国市場に通ず、という図
説明責任を負う個人~浸透する「オーディット文化」について

グローバリゼーションという言葉は論者によってその指す範囲がおよそ有史から現在までの超長期間であったり、七〇年代以降、特に冷戦構造崩壊後の経済的一体化の時期だったりとかなり幅があるが、その「グローバリゼーション」という概念を整理して、現代社会の構造や諸問題について簡潔に整理した一冊。グローバリゼーションについての基本的な事象についてはほぼ網羅して簡単に説明されているので、この本を入り口にして興味や調べたい事柄について広げていくことが出来て、個人的にとてもためになった。特に戦後の「ブレトンウッズ体制」「福祉国家」「ケインズ政策」「フォーディズム」などの言葉に代表される戦後体制の時期から「ポストフォーディズム」「金融自由化」「新自由主義政策」などに代表される現代へ転換と特徴などの比較整理は、現代社会を考える上で土台となるので、この本を通じて基礎を踏まえるきっかけに出来そう。

六位:ボブ・ウッドワード著「オバマの戦争」

オバマの戦争
オバマの戦争
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ボブ・ウッドワード
日本経済新聞出版社
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イラク-アフガニスタン戦争におけるオバマ戦略の転換について
CIAで行われていた13の非人道的尋問手法

「ディープスロート」と呼ばれる人物を通じてウォーターゲート事件を明るみにしたジャーナリストボブ・ウッドワードによるオバマ政権誕生前後の政権の動きを追ったドキュメンタリー本。特に中心として描かれるのはアフガニスタン戦争に関する米国の戦略の転換を巡る政権内部の駆け引きで、ペトレイアス将軍ら制服組、ゲーツ国防長官、クリントン国務長官を中心とした陣営と、バイデン副大統領、パネッタCIA長官、オバマ側近を中心とした陣営との対立がかなり克明に描かれる。最終的に後者の陣営が進めた戦略がオバマ戦略の既定路線になり、いわゆるドローン戦争に突入する訳だが、この本で描かれた時期以降の米国の政局を見れば、前者の陣営が次々と政権を去って行っているのも興味深いところだ。ペトレイアスの辞め方は流石に意外だったが。米国政局を把握するために押さえておきたい有用な一冊だと思う。

七位:金 文京 著「水戸黄門「漫遊」考 (講談社学術文庫)」

水戸黄門「漫遊」考 (講談社学術文庫)
金 文京
講談社
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水戸黄門諸国漫遊物語はどのように生まれたのか?
日本史上形骸化を繰り返す監察制度と将軍の隠密「御庭番」の活躍

水戸黄門諸国漫遊物語はいかにして誕生したのか、を中国・朝鮮の類似の物語の収集・紹介から様々な類型の考察を経て、誕生の過程と歴史を描いたとても面白い一冊。九九年に発売された同書が今年新たに講談社学術文庫から再発売となったもので、この本の存在自体知らなかったが、こういうチョイスは講談社学術文庫ならではだと思う。水戸黄門の物語誕生の過程の考察も面白いのだが、それ以上に中国・朝鮮をはじめとするアジア諸国の水戸黄門類似物語の紹介が非常に面白くて、近しい文化圏にあることを再認識させてくれる。古代中国では巫女さんがスパイだったとか、中国、朝鮮、日本の歴代政権の監察制度とか、巡遊する王、など内容がエキサイティングにもほどがある。

八位:玉木 俊明 著「近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ (講談社選書メチエ)」

近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ (講談社選書メチエ)
玉木 俊明
講談社
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一七世紀オランダが「黄金時代」を築いた理由

一七世紀オランダはいかにして欧州で覇権国家となったか、また一八世紀以降オランダからイギリスへとその地位はいかにして動いて行ったかを「近代世界システム」という観点から描いた本。特にオランダが自国の戦争すら利用して富を蓄える様子や、スウェーデンとの共存関係によってバルト海を支配し、欧州の海運を掌握していく過程、またその「オランダ=スウェーデン複合体」が弱体化し、ボルドーやハンブルクなど諸都市が台頭し多極化した後にイギリスが中央集権的に金融システムを整備することでヘゲモニーを握る過程、そしてオランダとイギリスの比較など、近代国際経済の黎明がよくわかる意欲作だと思う。

九位:桜井 英治 著「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)」

贈与の歴史学  儀礼と経済のあいだ (中公新書)
桜井 英治
中央公論新社
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「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ」桜井 英治 著
いかにして中世日本で市場経済が浸透したか?
鎌倉幕府は何故滅亡したのか?

一三世紀から一五世紀、急速に貨幣が浸透し市場経済が発展することで、贈与経済や金融経済もまた発達する、その中世日本における贈与経済の展開を、史料をふんだんに読み解くことで描き出したとても興味深い一冊。ここで描かれる中世の日本社会は現代顔負けの自由経済社会であり、かつ贈与経済が浸透した社会である。現代日本も贈与の慣例化という点では世界的にみても独特らしいのだが、そのルーツになるだろう中世日本の贈与のあり方がとても面白かった。贈与によって成り立っていた室町政権の財政とか、寺社主催の贈与物オークションとか、最終的にモノが無くとも贈与したという証書だけで贈与が成り立つあたりとか、中世ぱねぇ、と思うこと請け合い。

十位:佐藤 卓己 著「八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)」

八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)
佐藤 卓己
筑摩書房
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八月十五日は何故「終戦記念日」なのか?~「八月十五日の神話」
盆踊りの変容と衰退に多大な影響を与えたメディア

八月十五日が終戦記念日となっていった過程を戦前戦後のラジオや新聞などメディアの報道内容や番組編成、戦後の政策、七〇年代以降の教科書問題、周辺諸国との歴史認識問題、さらに丸山真男批判などまで多岐に渡って論じることで描き出す戦前戦後メディア史の一側面、といった趣の一冊。特にメディアとの接し方、情報の受け取り方、適切な疑い方などについて色々考えさせられる内容になっていると思う。メディアリテラシーについて考える上でも有用だろう。

次点:久保文明編「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容
久保 文明 東京財団・現代アメリカ研究会
エヌティティ出版
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グレイトフル・デッドにティーパーティ運動を学ぶ
反「大きな政府」連合としてのティーパーティ運動
ティーパーティ運動を分断するリバタリアニズムの化身ロン・ポール
ティーパーティ運動のキマイラ化を成し遂げた「憲法保守」概念
米国大統領選挙共和党副大統領候補ポール・ライアン氏について
ティーパーティ運動の米国政治への影響についてまとめ

ティーパーティ運動についてまとまった考察というのは、現在進行形の事象であるためなかなか貴重なのだが、とりあえず現時点でざっくりとまとまっている本。特にティーパーティ運動内の分裂要因としてのロン・ポール派を中心とするリバタリアンの動向をまとめた渡辺論文、ティーパーティ運動が共和党内予備選挙に強く本選挙に弱い点や政局運営への影響などをまとめた細野論文、ティーパーティ運動の紐帯となっている「憲法保守」概念について詳述された梅川論文などはとても興味深かった。より詳細な調査に基づいた研究書の登場を期待して待ちたい。

ということで、今年紹介できなかった本で面白いものは一杯あるので、また来年じっくり記事に書いていきたいです。

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