積極的外交政策としての「鎖国」と鎖国史観についてのメモ

最近「鎖国」について調べている。少し簡単に鎖国体制について、「鎖国」という言葉についてメモ的にまとめておきたい。
江戸時代の外交関係に関する一般的な常識は、対外貿易を長崎の出島に限り、外交関係を閉ざし、人の行き来を制限して日本独自の社会を構築していく「鎖国」体制であったというものだ。これが幕末に「黒船」の登場によって「開国」し、明治維新を経て近代国家建設へと邁進する・・・しかし、このような「鎖国」観に代わって、現在では、国際関係の完全封鎖はなされず、貿易も長崎だけでなく薩摩、対馬、松前の四つの窓口を通じて積極的に貿易・外交が行われていたとする説が主流となっている。

「鎖国」は寛永一〇年(一六三三)から寛永一六年(一六三九)までに出された五つの禁令、通称「鎖国令」によって成立するが、キリスト教の布教禁止、日本人の海外往来禁止、貿易を幕府の管理下に置くことなどを内容としているものであって、『けっして国際関係の完全封鎖を意味したものではない。むしろ「鎖国」とは、貿易と外交を幕府に有利なように管理しようとする一連の政策であり、いわば「総合的外交政策」というべきものだったのである』(浜野潔編著「日本経済史1600-2000」P31-32)。

『日本の「鎖国体制」とは、外との関係をいっさい断つことではなかった。外に開く口を限定してその他の海岸を封鎖し、国民の自由な出入りを断つことにより、国家が対外関係のすべてを掌握する体制であって、明初に始まる「海禁」の一類型である。実際、海岸の封鎖は明・清にも朝鮮にも例があるし、幕府当局者は「鎖国」とはいわず「海禁」の語を用いている。この前提のもと、幕藩制国家は、国策上許容される範囲で、外との関係をむしろ積極的に結んでいた。』(歴史学研究会・日本史研究会編「日本史講座 第五巻 近世の形成」P67 村井章介論文「「東アジア」と近世日本」より)

「鎖国」という言葉の初出は享和元年(一八〇一)、オランダ語通詞志筑忠雄が元禄三年(一六九〇)~元禄五年(一六九二)にかけて長崎オランダ商館の医師を勤めていたケンペルの著書「日本誌」の付録の小論を翻訳したときに、その表題として用いたものだ。その表題は全訳すると「今の日本人が全国を鎖して国民をして国中国外に限らず敢えて異域の人と通商せざらしむる事は、実に所益あるによれりや否やの論」で、これを「国を鎖す」から「鎖国論」としたものである。

しかし、この訳もケンペルのドイツ語の原書からの翻訳ではなく原書のドイツ語版が英語版に訳され、その英語版がオランダ語に訳されたそのオランダ語版を日本語に訳したものである。さらに「国を鎖す」に相当する後は元のドイツ語版には無く、英語版で”keep it shut”が付け加えられ、それがオランダ語に直訳され、さらに日本語に直訳したものであるという。

また、この志筑訳「鎖国論」は、翻訳当時は刊行されず私家版で流布したにとどまり、正式に刊行されたのは嘉永三年(一八五〇)、タイトルも「鎖国論」ではなく「異人恐怖伝」というタイトルであったとされる。「鎖国」という言葉が広まるのは幕末から明治期にかけて、「開国」が政治課題に上がる中で幕府の体制を批判する文脈、あるいは「開国」と対置させるために幕府の祖法としての位置づけで「鎖国」が用いられるようになり、明治以降、徳川幕府体制は「鎖国」であったという鎖国史観の広まりと共に一般化していった。(以上、ロナルド・トビ「鎖国という外交」P79-81、大石学「江戸の外交戦略」P89-92)

『ドアを作り、それを閉じることで、今までそのドアを支える壁が存在していたかのように、「鎖国」概念はわれわれに思い込ませた。国を閉じる、外国人を追い出すというジェスチャーを通して、閉じる「自己」、追い出す「日本人」のイメージを作り上げた。国際環境という前提条件によって決定された自己の行動を、あたかも自己の先取的、能動的行為が国際環境を決定したかのような逆現象に見せかけることで、新しい積極的な自意識、つまり近代的な国民意識を形成した、と考えます。』(速水融編著「歴史のなかの江戸時代」P218)

では、徳川政権に鎖国体制を選択させることとなった当時の東アジアの国際環境とはどのようなものだったのか、また、幕府が国際関係を掌握する形で積極的に行われた鎖国体制下の対外貿易の状況はどのようなものであったか、についてはあらためて別の記事でまとめていく・・・つもり。

参考書籍
・歴史学研究会・日本史研究会編「日本史講座〈5〉近世の形成
・浜野 潔 他 編著「日本経済史1600‐2000―歴史に読む現代
・ロナルド・トビ 著「「鎖国」という外交 (全集 日本の歴史 9)
・大石 学 著「江戸の外交戦略 (角川選書)
・速水融編著「歴史のなかの江戸時代
・鬼頭 宏 著「文明としての江戸システム 日本の歴史19 (講談社学術文庫)

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