「しつけと体罰―子どもの内なる力を育てる道すじ」森田 ゆり 著

しつけと体罰―子どもの内なる力を育てる道すじ
森田 ゆり
童話館出版
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体罰がどんな害を子どもにもたらすのか、なぜ、体罰は効果的なしつけではないのか、そもそも、しつけとは何なのか』(「はじめに」より)を、親や教育関係者を対象として書かれたコンパクトな児童教育の入門書。

その論は非常に筋が通ったものだ。「しつけ」の第一の目的とは何か、著者は「自立」であるという。『家庭教育も学校教育も、その最終的な目的は、子どもが自分で社会生活をおくれるように、自ら立ち、自ら律していくようにおおまかにガイドすることです。』(P14)そのために、まず、子どもを肯定することで基本的信頼を与え、その肯定によって土台となる受容と安心の関係の上に生まれる子どもの自信を育み、子どもが自分で選択できるように援助していく。

そこにあるのは、尊重である。『あなたと同じ人間は、人類の歴史に二度と再び存在しないという、まさにその理由ゆえに、あなたは尊重されなければならない大切な存在です。人よりぬきんでて、すぐれているから尊重されるのではなく、目鼻立ちが整っているから称賛されるのではなく、親の期待どおりだから大切にされるのではなく、あなたはあるがままで、すでに尊いのです。』(P17)。という、現代社会を成り立たせる根幹となる権利の概念が「自立」を目的とするしつけの基本理念として存在している。

このような土台となる理念の上に、この本では体罰は否定され、体罰を用いないしつけの手法について提示されている。『体罰とは、外から痛みや恐怖心などを子どもに与えることによって、子どもの行動をコントロールする方法』(P23)と定義されるが、しつけが子どもの「自立」を目的とするならば、求められるのは体罰による「外的コントロール」ではなく、『子どもが自分で感じ、考え、選択していく』(P23)という「内的コントロール」をもてるようにすることである。

『なぐられるのがこわいから、痛い思いをしたくないから、という動機づけにたよっていては、自分で自分を律する心を育てることはできません』(P23)

この「内的コントロール」を育てるしつけの手法として「子どもとの良い関係をつくる方法」「体罰に代わるしつけの方法」という二つの手法についてそれぞれ十項目挙げられているが、ここでは体罰に代わるしつけの方法ついて同書から簡単に紹介する。

体罰には大きく六つの問題があるという。

1) 体罰は、それをしている大人の感情のはけ口であることが多い
2) 体罰は、恐怖感を与えることで子供の言動をコントロールする方法である
3) 体罰は、即効性があるので、他のしつけの方法がわからなくなる
4) 体罰は、しばしばエスカレートする
5) 体罰は、それを見ているほかの子どもに深い心理的ダメージを与える
6) 体罰は、ときに、とり返しのつかない事故を引きおこす

大人といえども感情の動物なので、子どもの行動に感情が刺激されることはあらゆる場面で起こりうる。それを許さないからと言って体罰を行うことで感情を表現してしまうと、子どもが受け取る教訓は『「腹がたったら、暴力でそれを表現してよい」ということにほかならない』(P36)むしろ、親がすべきはその腹が立った感情を暴力以外で子どもに伝えることだという。

あくまで体罰は痛みや恐怖によって子供の行動をコントロールする手法であるので、体罰の背後にある親の願いが直接伝わることは無く、恐怖を与えない相手に対して同じことをする可能性がある。また、怖れで行動が制限されるため、根本的解決に繋がらない反面、即効性があるように見えるため、つねに体罰という方法を取るようになっていってしまう。その先にあるのは体罰のエスカレートだ。幼いころは軽い拳骨で済んでいたものが、大きくなるにつれて、より強い痛み、より強い恐怖を与えないと効果が薄くなるので、体罰は虐待へとエスカレートする可能性を常に秘めているし、つねにとり返しのつかない事故と隣り合わせである。

また、体罰が行われているのを見ている側は、体罰を受けている側と同じか、それ以上の心理的苦痛を覚えることが米国のドメスティック・バイオレンスの研究で明らかになっているという。

『体罰を受けている子どもの恐怖は、それを見ている子どもに伝染します。クラブのコーチから親友がなぐられているのに、何もできない自分への無力感と自責感に襲われます。さらに、体罰を受けずにすんでいる自分への罪悪感にさいなまれます。こうした心理的ダメージを、体罰を受けている子どものみならず、まわりの子どもにも与える方法が、教育的配慮や指導とよべるでしょうか。』(P41)

このような六つの問題点を受けて、「体罰に代わる十のしつけの方法」が提示される。

1) 肯定型メッセージをおくる
2) ルールを決めておく
3) 子どもの気持ちに共感する
4) こちらの気持ちを言葉で伝える
5) 子どもから離れる
6) 主導権争いをしない
7) 特権を時間をかぎって取りあげる
8) 子どもに選択を求める
9) 子どもの発達にあわせる
10) 尊重と愛の燃料を補給する

それぞれの項目について同書では詳述されているので、目を通していただくのが良いと思うが、これらは著者が書いている通りハウ・ツーではない。『ハウ・ツーは道具を使いこなすのに役だちますが、子育ての相手は人間ですから、誰かが教えてくれたやり方をその通りにやっても、同じ結果はでません。』(P85)その上で、スキルセットとして十の方法を説明しているのであり、『それは十以上あるはずです。三十も四十もあるのではないでしょうか』(P86)として、この十の方法を踏まえて職場や地域の子育てグループなどでアイディアを出し合うことを薦めている。

『子育てをスムーズにする鍵は、まわりに複数のサポーターを持つことです。今子どもといっしょにいたらダメだと思うとき、一時間でも、子どもを見てくれる人がいますか。悩みや愚痴を聴いてくれる人がいますか。いない人はつくる努力をしてください。』(P101)

またスキルについて、『スキルとは、さまざまな状況に対して対応できる、方法や選択肢のことです。教師や保育士は教育のプロなのですから、この選択肢をたくさんもっていなければなりません。』(P85)と語っているが、前述の「体罰は、即効性があるので、他のしつけの方法がわからなくなる」という問題点を踏まえるならば、体罰を行う教師は多様な教育スキル習得の機会を自ら失っているという痛烈な指摘になっていると思う。

「体罰の六つの問題」「体罰に代わる十のしつけの方法」について同書から紹介したが、他にも子供の内的コントロールの育成方法として「体罰に代わる十のしつけの方法」と並ぶ「子供との良い関係をつくる十の方法」、三歳児神話などに代表される母性神話への批判、「体罰と戦争」についての論考、また「子供の性被害」「子どもがいじめを受けているとき」「多動な子どもへの対応」「子どもの親へ暴力」などケースごとの対応についても簡単に触れられているので、コンパクトながら非常に多岐に渡る充実した一冊になっている。
著者の明確なメッセージを最後に引用しておきたい。

『体罰は、子どもをしつけるためのやむを得ない方法ではなく、子どもへの人権侵害行為です。体罰を受けることで、子どもは「対立があるときは、なぐって解決してもよい」「腹がたったら、暴力でそれを表現してもよい」ということを、大人から学びつづけています。

「問題があるときは、暴力以外の方法でそれを解決することをすすめる」「子どもに対して腹がたつことがあったら、暴力以外の方法でその怒りに対処する」という、しつけの原則を広めていかなければなりません。』(P111)

親であるすべての人、身近に子どもがいるすべての人、そしてもちろん教育関係者まで広くおすすめしたい一冊だと思う。
不勉強なため、著者のことは存じ上げなかったのだが、他にも子どもに関して様々な研究書・入門書を出しているようなので、続けていくつか読んでみようと思う。

子どもへの性的虐待 (岩波新書)
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