「ブラック・ラグーン」のその後を妄想してみる

広江礼威先生の「BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)」というマンガはとても好きな作品の一つで、長らく休載していてもう続きは読めないかなぁ、となんとなく諦め気味だったんだけど、最近連載再開したそうで、とても楽しみにしている。で、その休載の間、せめてもの手慰みに、その後について、作品の舞台が丁度九〇年代後半ということもあって二〇〇〇年代前半の国際情勢を絡めた妄想をしていた。以下、作品の概要とか登場人物の紹介とかは一切省くので、読んだことがある人向けです。

二〇〇一年九月十一日のニューヨーク同時多発テロ以降の戦乱はロアナプラにも大きな影響を与えるのだろう。特に米軍と再び戦うためだけに牙を研ぎ続けるバラライカ率いるヴィソトニキにとって、二〇〇一年一〇月に始まる米軍を中核とした多国籍軍(ISAF)によるアフガニスタン侵攻は、夢にまで見たであろう米軍との、因縁の地アフガニスタンでの戦いだ。迷うことなく彼らはロアナプラからアフガンへと向かい、圧倒的戦力で蹂躙する米軍を前にして次々と本懐を遂げて斃れていくことになると思う。

ホテル・モスクワという巨大な力が一気に失われたロアナプラは均衡が崩れることになる。次に舞台から去るのはおそらくコロンビア・マフィアだ。8~9巻でロベルタ相手に死闘を繰り広げたコロンビア革命軍(FARC)についてちょっと語る必要があるだろう。

“フローレンシアの猟犬”、殺人機械のロベルタが属していたとされるコロンビア革命軍(FARC)は、1959年のキューバ革命の影響で1964年にコロンビアで結成されたマルクス・レーニン主義の反政府組織で最高司令官はマヌエル・マルランダ。ロベルタがかつて側近として仕えていた人物として作中に名前が挙がっている。

長らく続いていた一部の政党による寡頭体制打倒と貧困問題の解消などをめざしてゲリラ活動を展開。一九八〇年代に麻薬密売組織と提携してコカイン栽培農場やコカイン精製工場を保護して資金源を確立すると、独裁政権への不満の受け皿となって勢力を急拡大し、八九年以降の「麻薬カルテル戦争」でメデジン・カルテルが米軍とコロンビア政府軍によって壊滅させられた後は国内の麻薬栽培・取引を独占、コロンビアの三分の一を実効支配していた。

8~9巻でロベルタが日本人技師の幻覚にさいなまれるシーンがあるが、外国企業に対する誘拐戦略を取っており、日本の現地法人も何度か被害にあっている。ロベルタのように、暴力と貧困が支配するひどい社会を変えるべく理想と使命感に燃えてFARCに飛び込んだ人々は結果として麻薬ビジネスの番犬として使われていた。

状況が一変するのが二〇〇二年。父をFARCに殺害された経験を持つアルバロ・ウリベが大統領に就任(在任二〇〇二~二〇一〇)するとウリベ大統領は米国の影響力を背景に、就任早々から徹底したFARCをはじめとしたマフィア掃討作戦を実施。二〇〇八年、マルランダが政府軍の攻撃で死亡、FARC幹部も続々と殺害されており、またウリベ大統領による社会福祉政策の進展でFARC戦力の供給源となっていた貧困層が減少してきていることもあって、近年急激に勢力が衰え、ほぼ壊滅状態となっている。

八巻でコロンビア・マフィアの首領が電話で「アメリカ人(グリンゴ)どもに、丸裸にされて路上に転がされる」と語っていたが、恐らく早晩それが現実のものとなっていると思う。それに伴ってロアナプラのコロンビア・マフィアも瓦解するのではなかろうか。

中南米といえばベネズエラのガルシア君だ。六巻から始まるロベルタによる復讐劇の切っ掛けがガルシア君の父ディエゴ・ラブレスの暗殺だった。その父ディエゴが創立メンバーとして参加していたのが「第五共和国運動」という政党運動である。

ベネズエラの同名の政党運動「第五共和国運動」は一九九七年に結党された左翼政党である。作中では空挺部隊将軍が起こした運動となっているが実際は陸軍中佐が起こした運動である。その陸軍中佐の名をウゴ・チャベスという。チャベスは九九年に貧困層の圧倒的支持を受け大統領就任。反対勢力のクーデターを退けると、憲法を改正し大統領権限を強化して独裁的体制を築いていった。

三合会の張大兄が九巻ラストでガルシア、ロベルタ達についてこう語っている。

「だが――・・・連中が幸せをつかんだとでも?冗談じゃない、ラブレスに待っているのは茨の道だけさ。まぎれも無くあの子は善人で勇敢だが――正しいことが、幸せな結末にいたれるとは限らない。これからの人生は長い、彼に取っちゃ長すぎる。」

父が命を奪われるほどにその身を捧げ、その復讐に燃えるロベルタを引き戻すためにロアナプラに赴き、多大な犠牲を払った事件の帰結が、愚かな独裁者の誕生であったときのガルシア君の想いはどのようなものだろうか。

「アンクル・サム」の側も無傷ではいられない。エダはアメリカを無数の頭を持つヒュドラに喩えて張を威圧したが、9.11事件を事前に察知出来なかったのはCIA最大の失態で、続くアブグレイブ収容所の捕虜虐待事件が追い討ちをかけることとなり、CIAはその頭の一角としての力を失うことになる。

二〇〇五年、アメリカはそれまでCIA長官が兼ねていたインテリジェンス・コミュニティを統括する中央情報長官職を廃止、代わって国家情報長官を新設する。国家情報長官は代々国防総省出身者・制服組が就き、CIA長官はCIA専任となる。作中でエダがNSA(国家安全保障局)の権限強化に不快感を表していたが、数年後にはCIAはそのNSAの上部である国防総省に従属させられることになり、権限は大幅に縮小され、ドローンを使ったテロリスト暗殺の補助業務がメインになっていくわけで、エダは果たしてそれを良しとするだろうか。シスター姿で、やってらんねぇ、と愚痴る姿が目に浮かぶ。

三合会が実在する組織であることは意外と知られていない。その組織や歴史は謎に包まれているが、一説には一七世紀清朝時代の満州民族支配に抵抗する漢民族の運動にまで遡るとも言われる。複数の組織の集合体で新義安、十四k、和記、竹聊、四海、大圏の六組織が中核とされており、香港を拠点に、その影響力はマカオ、台湾、中国大陸、欧米、南アフリカ、オーストラリアに及ぶという。二〇〇一年三月には河北省で死者一〇八人に上る爆弾テロを起こした。

で、張さんである。バラライカ(ホテル・モスクワ)が消え、コロンビア・マフィアが瓦解したあとに張がロアナプラを支えることになるであろうけども、世界を覆う対テロ戦争の波はロアナプラという治外法権の存在を許すだろうか。

ロアナプラ壊滅のために、米国は特殊部隊を差し向けることになる、という絵は想像に難くない。おそらく退役して農場でゆっくりしているであろうキャクストンが、現地に精通していることを理由として、その任務を与えられるかもしれない。キャクストンにとっては、かつて盟友を撃つことになった因縁がある。

業火に包まれるロアナプラ、炎の中でかつての因縁に決着をつけるため部隊を指揮するキャクストンの前に立つのは、「天帝」の刻印が入った二丁拳銃を握りしめ、ロングコートをなびかせる張・・・二人が対峙する。決着の行方はわからないまま、「海賊共和国」が燃え尽きて行く。

ラグーン商会のメンバーはこの間どう行動するかはわからないが、たぶんですだよねーちゃんシェンホア、ソーヤー、ロットンなんかを載せてロアナプラを出航、新たな別天地を目指す、という感じ・・・って書いてて思ったが何この三流打ち切り俺たちの戦いはこれからだエンディング。

いや、妄想はほどほどにして、連載再開楽しみです。続きはコミックスでまとめ読みするつもりなので、一〇巻を震えて待つ。

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