三浦半島八景のひとつ、葉山の長者ヶ崎海岸

長者ヶ崎海岸

長者ヶ崎海岸

長者ヶ崎海岸

葉山町と横須賀市を分ける境界が相模湾に突き出したこの岬「長者ヶ崎」になる。

葉山御用邸に面した一色海岸から下山川を渡ると大浜海岸、その大浜海岸と防波堤を隔てて繋がる海岸線が長者ヶ崎海岸で、険しくせり出した長者ヶ崎に向けて大きく湾曲した海岸線がとても美しい。相模湾沿いの海水浴場としても逗子海岸、森戸海岸などと並んで代表的な行楽地の一つで海水浴シーズンにもなると多くの人が訪れる。

長者ヶ崎の先端の島には竜宮様という社があり、毎年一月十一日、地元の漁師たちがこの島に上陸して祭祀を行い、豊漁を祈願するという。

長者ヶ崎の名の由来は、源頼朝に遡るとする伝承もあるがあくまでそれは伝承で、長者ヶ崎と呼ばれるようになったのは明治時代以降のことである。古くは鵜ヶ崎、または尾ヶ崎と呼ばれていた。

現在の長者ヶ崎海岸に併設する県営駐車場の付近に明治に入って長者園という旅館兼料亭があり、葉山御用邸の建設頃から観光客や天皇行幸の際の随行団のお泊り所として繁盛しており、いつしか、その長者園の名にちなんで長者ヶ崎と呼ばれるようになったという。

長者園は長蛇園とも呼ばれ、それにあわせて長蛇ヶ崎と呼ばれたこともあった。その長蛇園の方の由来として、当初長蛇園と名づけたが気持ち悪いので長者園に改めたとされ、その名付の基として東宮侍講として明治天皇に仕えた漢学者三島中洲の詠んだ漢詩に由来するともいう。また、その岬が大蛇の蛇の背のように見え、大蛇が棲んでいたという伝承もあり、そこに由来するとも呼ばれる。

また、泉鏡花はその作「草迷宮」でこの地を蛇に譬えつつ、おどろおどろしくみずみずしく描いている。鏡花は長者ヶ崎とは呼ばず大崩壊(おおくずれ)と呼んでいることから、この頃はまだ長者ヶ崎という名はついてなかったと考えられている。

 三浦の大崩壊(おおくずれ)を、魔所だと云う。
 葉山一帯の海岸を屏風(びょうぶ)で劃(くぎ)った、桜山の裾(すそ)が、見も馴(な)れぬ獣(けもの)のごとく、洋(わだつみ)へ躍込んだ、一方は長者園の浜で、逗子(ずし)から森戸、葉山をかけて、夏向き海水浴の時分ころ、人死(ひとじに)のあるのは、この辺ではここが多い。(青空文庫「草迷宮」より)

長者園には志賀直哉も泊まったといい、与謝野晶子もこの地を歌に詠んでいる。

鏡花が言う長者ヶ崎を「おおくずれ(大崩、大崩壊)」と呼ぶのは、この岬の南側の切り立った崖地のことで、永正九年(一五一二)、この地で相模国の支配権を巡る北条早雲軍と三浦義同(道寸)軍の戦いが行われ、その激しい戦闘で岬の南側が崩落したことにちなむ。結局この地で大敗した三浦軍は三浦半島先端の三崎にあった居城新井城に籠城の後滅亡。北条早雲に始まる後北条氏の隆盛をもたらす第一歩となった。

また、この長者ヶ崎背後の丘陵地には第二次大戦中、帝都防衛のための砲台、対艦船用一五センチカノン砲二基が設けられていた。あわせて長者ヶ崎の岩山の付け根部分にも上陸揚舟艇の上陸を防ぐ目的で砲台が設置されていたが、戦後、米軍によって爆破された。

同じく戦時中の長者ヶ崎にまつわる話として、第二次大戦末期、米軍によって「ダウンフォール作戦」と呼ばれる日本本土上陸作戦が立案されていたが、九州上陸作戦「オリンピック作戦」に続く関東制圧作戦「コロネット作戦」は当初九十九里浜と相模湾両方からの二正面作戦として立案され、最終案では逗子海岸をはじめとする相模湾からの上陸案となっており、その実施前に日本が降伏したため実現しなかったが、もし実行されていたら砲台が設置されていた長者ヶ崎は激しい攻撃にさらされていたと思われる。

様々な歴史の舞台となってきたが、現在はその夕景の美しさから三浦半島八景のひとつ「長者ヶ崎の夕照」にも数えられる風光明媚な静かな名所です。


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参考書籍・サイト
・葉山郷土史研究会編著『郷土誌 葉山 第7号 特集「下山口」』
泉鏡花 草迷宮 – 青空文庫
三浦半島の歴史 P6
ダウンフォール作戦 – Wikipedia

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