「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」一期、二期(2nd GIG)感想

現代のコンピュータで計算不可能な問題が三つあるという。

(1)計算できるようにうまく問題が設定できない問題
(2)問題設定はできるが、それを解くプログラムが存在し得ないことを証明できる問題
(3)計算の仕方はわかっているけれども、莫大な手間がかかる問題

(2)はそもそも技術的不可能性が存在する問題であり、(3)は量子コンピュータの実現などの画期的なブレイクスルーがあれば可能になるかもしれないことではある。(1)は生きるとは何か?愛とは何か?という人が人である意味を問う問題が例として挙げられることになるが、果たしてどうだろうか。もし遠くない未来、人間とコンピュータとが物理的にもかなりの部分融合を果たしていったとき、その計算不可能な問題を問うていることこそが、人が人である最大の根拠となるかもしれない。

近未来、多くの人々が「義体化」と呼ばれる体の一部または全部をサイボーク化する技術が進み、外部記憶媒体と脳とを直接接続する「電脳化」を果たした時代、機械と人間との境界は今とは比べ物にならないほど曖昧となっていた。そのような中で、「ゴースト」と呼ばれる個人の「意志」の重要性が非常に高まり、そのゴーストを巡る様々な犯罪・事件を解決する特殊組織「公安九課」通称攻殻機動隊の活躍を描く・・・という、まぁ今更あらすじを語るのもどうなんだと書いていて突っ込みいれずにはいられない、一ファンから評論家や学者などに至るまで徹底的に語り尽くされている人気作品のテレビアニメシリーズ、それが「攻殻機動隊Stand Alone Complex」だ。同作に先立って公開された劇場版の方は映画「マトリックス」の元ネタの一つにすらなっているという。

バンダイチャンネルで二月末まで観放題だったので、一期、二期と続けて観てみた。見始めるや否やもう毎回続きが楽しみで楽しみで、どうしようかと思った。

「義体化」「電脳化」が進んだ世界で起きる様々な事件を描いていくことでその作品における社会と、その社会で生きる人々を浮かび上がらせており、作品世界に奥行きと広さとを感じさせられる。また、事件そのものは現代社会にも通じる汚職、テロ、薬害、環境問題、難民、外交などのいつの時代も変わらないであろう事件であるが、それが生み出される社会が前述のような世界であったときに、関る人々は何を考え、どう行動していくのか、その結果事件はどういう展開を辿っていくのかを非常に掘り下げていて、サスペンスフルな社会派の事件から、その時代に生きる人々の悲哀を描く個人的な事件まで揃っており、各エピソードいずれもドラマ性が非常に高い。

「笑い男事件」は観ている時はちょっと分かりにくかった気がしたが、観終わってみると意外とすっきりと全体像が見通せたような気がした。「薬害」という社会派な問題と群集の集合的無意識という人々の内面の問題と、それをマスメディアや政権の思惑で陰謀論的に繋ぎ合わせて浮かび上がる「笑い男」というアイコンという図式はとても興味深い。ラスト二話の怒涛の展開は超熱かった。

第二期の「個別の11人事件」から難民問題への展開は合田やクゼのキャラクターもあってすごく惹きつけられる物語だった。複雑に絡み合う国際情勢や過去の戦争の爪痕など様々に広がりを見せつつ、一つの結末に収束していく様は実に鮮やかだった。特に原発や難民差別、テロリズムなど現代社会と通底するテーマを扱っていて物語が示唆するものは大きい。

あと、一話完結エピソードでは一期「第16話 心の隙間 Ag2O」「第17話 未完成ラブロマンスの真相 ANGELS’ SHARE」2nd GIG「第2話 飽食の僕 NIGHT CRUISE」「第14話 左眼に気をつけろ POKER FACE」「第17話 修好母子 RED DATA」などが好み。

おそらくだけど、「義体化」は殺人とは言わないまでも他者を傷つけることへのハードルが下がるのかもしれない。少なくとも人を傷つけることを、直接手を下さない立場から命じることはかなり容易になるのだろう。その一方で人間が根源的に持つ他者を傷つけることへの心理的障壁は「ゴースト」がある限り存在し続けることになって、そのジレンマの中で現代と変わらず戦争に従事した人は苦しむ。何度も戦争が繰り返されてきた歴史を背景としている点で、そのように作品では描かれているようだ。単体のエピソードには戦争が人々の心に残した傷が描かれているものが多くあり、作品世界に深みを与えている。

さて、多脚戦車であるところのタチコマたちは、話が進むうちに計算不可能な問題にこそ自発的に取り組み、生と死、生きることの意味を問うむようになっていたが、その時点でタチコマはすでにコンピュータではなく、あの機械と人間とが高度に融合して境界が曖昧な世界観においては、ゴーストが芽生えることが人の理由であるようだが、その点でタチコマは極限まで人に近づいていた。

「笑い男」を生み出した集合的無意識、クゼを介して繋がっていた難民たち、と「僕らはみんな生きている」を合唱するタチコマのAIとの間に差はあったのだろうか。

これだけ上質の人間ドラマを見せつけられたらもう夢中になるほかない。映画はより内向的になっているということらしいので、今度観てみようと思う。

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