「PSYCHO-PASS サイコパス」感想

相反する二人の対決モノとして非常に面白かった。以下ネタバレもあるよ。

高度な管理システムによって最大多数の最大幸福を実現した近未来の理想社会(ユートピア)では、管理という行為ゆえに人間的なものを理想という言葉で覆い隠さざるを得なくなるのだけど、その覆い隠す「システム」を巡る人間模様が中心に描かれている。

共同体の中心には秩序が存在する。一方、周縁には秩序ならざるあらゆるものが追われていく。共同体の秩序が強ければ強いほど、外の混沌もまた強くならざるを得ない。秩序というのは世俗の世界、混沌は世俗ならざるもの、つまり聖なるものと賤なるものとが互いに混ざり合いながら存在する世界。秩序はその混沌の中で聖と賤とを選り分け聖とされたものを神として祀り上げあたかも秩序の中心にあるかのように振る舞い、賤とされるものを排除し、隔離し、あるいは従えることで権威を保つ。聖賤はその根源で一体である。ゆえに秩序を守るために混沌とされる世界の人びとが秩序の名の下に使役される。そんな古今東西あらゆる共同体で行われた営みが、SF世界の今作でも基本構造として存在しているのが面白い。

主人公狡噛慎也と宿敵槙島聖護がともにその混沌の世界の住人であるのも物語の王道だと思う。秩序と混沌の戦いではなく、混沌の中で、同じ世界の住人でありながら決して相容れない二人、というのがやっぱりスリリングだ。幾度も言及されている通りフィリップ・K・ディックの世界観だけど、本筋で描かれるのは「ダークナイト」的な対立構造で、秩序を守ることを突き詰めた結果として、ダークナイトとなるバットマンと、秩序を嘲笑し挑発するジョーカーはそのまま狡噛と槙島の関係性とオーバーラップする。ただしこちらはトゥーフェイスもいないし、危機下に社会が団結することも無く、物語は二人の対決へと収束していく。

前半の山場、泉宮寺のおっさんによる王陵璃華子事件の終結から地下迷宮の罠を潜り抜けた果てに槙島の特異さが明らかになり、そして衝撃の一閃・・・という展開は槙島の悪魔的な魅力全開で非常に素晴らしかった。その後回を追うごとに槙島さんがどんどん無敵モードになっていくのは笑ったけど。

「この社会には大きな犯罪はない。しかし、おおぜいの犯罪者候補をかかえた収容所はある」(フィリップ・K・ディック「マイノリティ・リポート」P12)

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予知能力者を使うことで同じく犯罪の予防に成功した社会を描いたフィリップ・K・ディックのマイノリティ・リポートではPSYCHO-PASSの数値ではなく、三人の予知能力者の総意によって犯罪候補者は捕縛され犯罪が未然に防がれる理想社会が描かれていたが、一方で予知能力者の透視の食い違い「少数報告」が物語を大きく動かしていた。こちらではその予知能力者に変わって免罪体質者により「少数報告」は高度に均されている仕組みとなっているが、その仕組みの露見がすなわち体制の崩壊をもたらしかねないという矛盾が物語を動かしていた。その秘匿に固執するがあまりシビュラシステムは色々ヘマをしていて、自ずと体制の限界を浮き彫りにし、狡噛と槙島の対決を演出する道化になっていた。

どんどん頼れる主人公に成長していく新米監視官常守朱の姿も魅力的だった。秩序とは人々の当たり前の営みという非常にバランスのとれた社会観を獲得してそれに確信を持っていく様子は非常に共感できる。それゆえに秩序の中心に聖なるものとして鎮座し我こそが秩序であると振る舞うシビュラシステムが”まがいもの”であることに気づきながら、その必要性ゆえに激しく葛藤する後半は非常に面白かったし、その葛藤の果ての、その先にあるものを求める不断の努力にこそ価値を置くという決断も個人的には非常に支持できる。

ちなみに好きなキャラはグソンさんと雑賀先生、どちらも味があって良いですわ。あと執行官は六合塚さんかなぁ。MORE DEBAN!勿論、メインの狡噛さん、朱ちゃん、槙島さん、とっつぁん、かがりくんも好きです。あとギノさんが心の平安を得られそうで良かったです。途中中間管理職の悲哀が半端なかったので。

途中一話ぐらいのエピソードで、事件を通じてシビュラ下の社会が非常に理想的な社会であることを逆説的に描くような回があると良かったのかもとは思った。後半で食糧自給が崩れたら国境警備は強化せざるを得ないという台詞があったけど、例えば、その国境警備に従事している汚れ仕事をさせられている人が必然的に色相を濁らせて事件を起こし排除されるが、その事件を通して最大多数の最大幸福を実現した社会の理想的な姿が浮き彫りになるというような感じの。

あるいは就労の機会が等しく与えられている反面で選択の自由が無く管理されていることが当たり前の社会であるようなんだけど、やはり就職に際して葛藤はたとえベストが提示されるのだとしても誰でも生じると思うの。その葛藤を「社会の当たり前」の前に自覚的・無自覚的に押し潰して仕事に就いていく過程を、事件を絡めて描くことで、一方で理想的な社会を描き、他方で普通の市民の無意識下には表に出ない心的複合体(コンプレックス)がある、ということを描くエピソードがあると、後々の市民の暴動への伏線にもなったかもしれない。管理というのは突き詰めると非人間的なものになるので、その矛盾を普通の人たちもどこかでぐっと抱えて生きているという、劇中でも「危険社会」という言葉が出てきてたけど、そういうエピソード。

いや、どちらも軽い妄想なので、その内容については適当に流してください。要は概ねその社会の理想的であることは言葉で説明される一方で、物語として描かれるのは社会の暗部を浮き彫りにする事件ばかりだったので、まぁ、理想的な社会ではないことを喚起したい槙島さんが関わっているという前提だと事件は自ずとそうならざるを得ないのだけど、どこか独立したエピソードとして、その社会が理想的であることが事件を通して浮き彫りになるというエピソードがあると良かったように思った。

霜月さんは、最初出てきたときは実は王陵さんと似た者同士であるがゆえに直感的に危険を察知しているんじゃないかと思い、王陵さん死後はその事件に触発されて第二のシリアルキラーさんになる、という真っ黒展開を妄想していたんだけど、本当に対極に位置していた子だったようで、ああ思い違いでちゃんと良い子でよかったよかった、と思っていたら最終回で新任監視官で出てきて、おお、と思った。

これ、中の人同士の関係性(霜月役佐倉綾音さんは常守役花澤香菜さんを超尊敬していることを公言している)なんかも踏まえたキャスティングだったりするんだろうか。あと中の人的に魔梨威さん(佐倉さん=霜月美佳役)とキグちゃん(小岩井ことりさん=船原ゆき役)、物語上の重要性は圧倒的に後者だったけど、前者はメインへ、後者は動く遺影へ、生死を分けたなぁ(笑)

あとラストカットで咬噛さんが読んでいた本はこれ。

「長すぎて読めない」ランキングがもしあれば間違いなく世界ベスト10に入ると思う。いやもっと長い本はいっぱいあるけど洋の東西を問わず人類共通の集合的無意識として「長い」といえばこの本が浮かぶのではないかしら(笑)。長い長い旅になるんだろうなぁと予見させるチョイスですね。 あとガリヴァー旅行記ってちゃんと読んだこと無かったんだけど、作中言及されていたのを聞いて俄然興味が湧いたので、今度読んでみようと思う。この作品の衒学趣味は嫌いじゃないので、むしろ読書が捗るなぁという感じ。

とても面白かったので、続編、待ってます。もし続編があるとしたら、より未来社会を描く方向になるんだろうなぁ。あと公安一係に雑賀先生が係長とかそういう責任者ポジションで入ってくるんじゃなかろうか。エンドロールで禾生局長と何やら会っていたっぽいし、社会からひきこもっていた報い的な発言は社会にコミットしていくフラグっぽくもあり。

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