「アマテラスの誕生―古代王権の源流を探る」溝口 睦子 著

アマテラスの誕生―古代王権の源流を探る (岩波新書)
溝口 睦子
岩波書店
売り上げランキング: 20,924

日本神話の最高神にして皇祖神とされている神といえばアマテラスというのが現代では一致する認識だが、原初からアマテラスがその地位にあったわけではない。アマテラスが皇祖神=国家神とされたのは七世紀で、それ以前はタカミムスヒが最高神であった。その転換はなぜ起こったのか?を近年の研究成果をまとめる形で推論を重ねて描き出した一冊。

五~六世紀以前の日本は無文字社会であったから、史料はほとんど残っていない。ゆえにほぼ海外の文献と考古学上の調査から推定していくしかないのだが、そのような中でもほぼ学会で定説となっているのが、この七世紀頃に国家神がタカミムスヒからアマテラスへと転換したというものだ。では、その転換は何故起きたのか、そして何故アマテラスが選ばれたのか?答えは勿論「わからない」である。

その転換に至る古代の政体の変化を、当時の東アジア地域の変化との関係で、論を積み重ねて一定の方向性を指し示そうとしており、読んでいて様々な発見があり面白い。

一応の溝口説としては、四世紀以前の日本は豪族たちの緩やかな連合で、それぞれ豪族の祖先神が並び立つ多神教的な世界であった。その中で主神としていたのが農耕神オオクニヌシで、太陽神アマテラスは有力な神ではあったが伊勢の地方神に過ぎなかったとされる。

当時の東アジア情勢として、中国では西晋王朝が騎馬民族たちの侵攻によって崩壊、五胡十六国時代を迎え、その影響で朝鮮半島では中国の影響から脱した高句麗が勢力を増大、新羅、百済、倭国の加羅任那を圧倒しつつあった。五世紀初頭には高句麗の好太王と倭国軍が激突し、倭軍が大敗する。五世紀から六世紀にかけて、倭では朝鮮半島の文化が強く出るようになっていたという点から、この敗戦によって、危機感を覚えた倭国では強い王権体制への転換が起き、そのイデオロギーとして朝鮮半島諸国の神話を真似た天孫降臨神話がイデオロギーとして成立、その最高神としてタカミムスヒという太陽神が創作された、という。

七世紀になるころには、特に畿内と東国との交通の要衝として伊勢の重要性が高まるとともに、壬申の乱や大化の改新などより王権の強化に向けた動きが活発化、白村江の戦いでヤマト王権の軍勢が統一新羅軍に大敗を喫して朝鮮半島から撤退を余儀なくされる。そのような中で、おそらく天武天皇が、一部の中央官僚しか信仰していない太陽神タカミムスヒから、広く各地の有力豪族の間で信仰を集めていた太陽神アマテラスへと最高神を変更し、その下にカバネ制度の改革などを通じて諸豪族を再編、また古事記日本書紀の編纂による旧来の諸神話を統合した新たな神話の創出によって、律令国家体制のイデオロギー的バックボーンとしようとした、という流れだ。

繰り返すがこれはあくまで同氏の説であって七世紀のタカミムスヒ→アマテラス転換の経過に関するファイナルアンサーではない。異論も諸々あるのではないでしょうか。とはいえ、様々な研究成果を用いたかなり説得力のある有力な推論で、もちろんよくわからないなぁというところもあったが、それにどうこういうほどの見解は持ち合わせていないので純粋に面白いと思いながら読んだ。

アマテラスという神については、特に近代以降に現人神としての天皇制が創造される中で文字通り国家神道の頂点に位置づけられ、日本近現代史に大きく影響を及ぼすことになるわけなので、その始まりを探るというのは非常に重要な意味を持つ。

アマテラス研究の現時点での問題整理、アウトラインのまとめとしてかなりわかりやすく有用な一冊だと思う。実際どうだったんだろうね、という妄想も羽ばたかせずにはいられなくなるほどに読み応えがあるので、古代史の世界で遊ぶのにも良いんじゃないでしょうか。そうそう、あと、今年は式年遷宮の年でもあるし、アマテラスという神について振り返ることで、古代に思いを馳せるというのもありですね。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク