「国際連盟 世界平和への夢と挫折(中公新書)」篠原 初枝 著

国際連盟の誕生から消滅までを史料を丁寧に追っていくことで、その功績と限界とを描いた国際連盟研究概観という趣きの地道で丁寧な良い本。時系列的な事件の積み重ねと、その中で活躍した様々な人々の様子とのバランスが絶妙で面白い。

国際連盟成立前の時点での国際関係は『大国どうしは同盟や会議により協調関係を育む一方で、「未開の地域」に対して競って勢力を拡張していた。つまり、ヨーロッパ協調は、「内なる平等、外なる不平等」という二重の基準に基づいた国家間関係』(P15)であり、第一次大戦という「総力戦」の結果としてその国際関係の仕組みに対する疑義と反省から国際協調を推し進め、平和を実現する機関として「国際連盟」が誕生するが、提唱者であるウィルソン大統領の米国は不参加で、列強も秘密会議などを多用し、その後も度々起こる各種の国際紛争の処理に上手くいかず、影響力を行使できず第二次大戦の勃発を防ぐことができなかった。

一方で、経済・社会・人道・文化面など民政レベルでの国際交流には大きな貢献をしたことが本書では描かれている。特筆されるのはチフス・天然痘をはじめとする伝染病対策やアヘン貿易の取り締まり、ビタミンやインシュリン等の内容組成基準や血液型分類の統一など保健医療分野の国際基準選定、学術交流などで、いずれも多大な貢献があったことが本書では指摘されており、とても興味深かった。

また、当時の日本は国際連盟でも中心的な役割を担い、次々と人材を輩出していた点なども、当時活躍した日本人外交官たちの仕事ぶりなどが詳しく描かれており、知らないことも多かったので勉強になった。特に難民問題に手腕を発揮し常設司法裁判所所長となった安達峰一郎のことは初めて知ったのでさらによく調べてみたい。当時の国際連盟で多分野で活躍する日本人が多く描かれているだけに、松岡・・・って想いを強くさせられるわけだが、まぁ、松岡洋右個人に帰されるものではなく、当時の日本政府全体の方向性が脱退に向いていた様子も描かれ、日中問題に欧州諸列強が右往左往する様子が克明に描かれていて面白いです。

当然ながら国際連盟についての記述が中心で、戦間期当時の国際関係については深くは描かれていないので別途お好みの二〇世紀初頭の国際関係史のテキストを参照しながら読む方が良さそうだ。これ単体だと当時の複雑な国際関係はいまいちピンとこないと思う。

やはり国際連盟最大の功績は著者が書いているように『それまでは各国による具体的な権利・義務関係を規定した条約体系は存在したが、国際社会全体を想定した法秩序はなかった』(P268)ところに、国際連盟が不完全な状態とはいえ創設され、また一定期間活動したことで『国際関係に普遍的法秩序を樹立し』(P268)、連盟規約は度々無視されながらもほとんどの加盟国は少なからず尊重したことで『国際社会に規範秩序を樹立』(P268)した。また欧州中心の運用を余儀なくされたことで結果として欧州間の関係を深め、戦後のヨーロッパ統合に大きく影響を与え、『初の常設の普遍的国際組織を立ち上げ、継続させ、それを国際連合につなげた』(P269)という点で、短い期間で挫折に終わったとはいえ、歴史上多大な影響を与えることになる重要な国際組織であった。

国際関係史を理解するための参考書の一つとして、また国際法秩序樹立の一過程を把握するために、目を通しておくことをお勧めしたい一冊。

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