「軍需物資から見た戦国合戦」盛本 昌広 著

戦国時代に限らず戦争について多くの人が興味を惹かれがちなのは戦国武将の戦術指揮や、勇猛な武士たちの活躍などだが、現在も今も戦争には人員や兵糧だけでなく大量の物資が必要となる。その戦国時代の合戦で必要とされた軍需物資特に竹と木材の調達や用途についてまとめた本。記事書き終えてから気付いたけど絶版の様ですね。

当時の戦争で必要不可欠だったのが竹と木材であった。弓矢・刀・槍・鉄砲・鎧など武具をはじめとして防衛陣地構築のための柵、鉄砲を防ぐ竹製の盾、篝火、炊事用の薪、旗指物、川を渡る際には橋を架けなければならないし、鋤や鍬などの作業用具も必要だ。そのいずれにも木材は使われることになる。

戦国大名にとって木材の確保は戦争継続のための最重要課題であり、そのために領国内の森林管理に力を注いだ。とはいえ必要に迫られれば大規模な伐採もやむを得ないことから、各地ではげ山化が進行、木材は軍需物資であると同時に、民衆の日常生活にとっても必要不可欠なものであり、木材の供給源である森林は保水機能や動物の生活環境維持の機能を持っていたから、環境破壊はダイレクトに民衆生活を破壊する。また、戦時になると国内では大名の強権で物資の徴発が行われ、攻め込んできた敵軍からは物資獲得のための掠奪をされる。勿論民衆も黙って掠奪されるがままではなかったということは以前「戦国時代の村の安全保障・外交交渉・戦時体制のまとめ」で書いた通り。戦国時代の戦争はまさに資源獲得戦争の様相を呈していた。

木材を中心に戦国時代の軍需物資の調達について主に後北条氏など関東の大名の領国経営を丁寧に描いている本で、比較的淡々と当時の木材や竹などの用途についての記述が続き、手堅すぎて新書っぽくないのでこの分野に興味がない人は辛いかも知れないが、各章の章題だけは妙にキャッチーで内容とのミスマッチが無きにしも非ず。たとえば「第二章 軍需物資を確保した大名が勝利をおさめた!」ビックリマーク付だけど内容は別に軍需物資が戦争の勝敗を決した何らかの合戦の過程を描いているのではなく、木材の調達や管理法・必要とされた木材の種類(幡板・五六など)、船舶の調達などが淡々と描かれているだけ、とか。個人的には非常に好みだけど、こうダイナミックでドラマティックでエキサイティングなものを期待しない方が楽しく読める。

いくつか知らなかった面白かったエピソードなど。

軍勢の移動に際して川を渡るときに架橋されたのは舟を並べて板を敷いた「舟橋」と呼ばれる臨時の橋だったらしい。防衛側なら周辺の村々に舟の供出を命じて架橋し、攻撃側なら領国から川伝い、海岸伝いに舟を運ばせたり、侵攻先で漁村などから徴発したりした。撤退時など一刻を争う場合にも周辺の漁村から舟をあるだけ略奪し、それでも足りない場合には周辺の民家を力づくで破壊して川に架けた。

城攻めの際に堀を埋め立てる時に使うのは土砂だと重くて作業効率が悪いのでもっぱら草だった。「墳草」と呼ばれる。例えば織田信長も三好三人衆が籠る野田・福島城攻めに際して周辺の雑草を大量に刈り取って堀の埋め立てに使った記録があるという。城攻めは大量の物資が必要となるので、城の周囲は様々な物資が略奪され、森林資源は悉く伐採され、大きく周辺環境が変わった。

秀吉の時代になると戦争は大土木工事の様相になる。高松城水攻めでも城の周囲に堤を築いて城を水没させたが、小牧長久手の戦いでも尾張竹鼻城攻めで城の周囲に堤を作り木曽川の水を引き入れて陥落させている。また、同じ小牧長久手の戦いで伊勢を攻めた時にも塀柱・柵柱用の木材二千本の調達を命じているなど大量の物資を投入する作戦に出ていた。また開戦に際して近江坂本の鍛冶に作業用の鋤や鍬の製造を命じており、これを戦場まで運ばせている。他の大名も戦時には鋤や鍬の徴発を行っていたが、秀吉はそれを大量製造していたという点で面白い。

あと、軍需物資とは関係ないが、上杉謙信死後に武田と北条との対立が先鋭化した、天正九年(1581)六月、北条氏が駿河の武田領との国境に位置する家臣に「武田水軍」への備えとして造船を指示した、という話がちょっと興味深かった。さらっと書いてあるけど「武田水軍」って一般的な武田氏の山国イメージを一新する言葉だと思いませんか。駿河を領有していた訳で水軍がいてもおかしくないし、そもそも当時の物流網って水運だから海に面していなくても船舶は当然に保有していただろうけども。

まぁ、軍需物資という大きなくくりではなく木材を初めとした森林環境と戦国時代の戦争の関係という趣きの内容ですが、歴史好きな方には様々な発見がある面白い一冊だと思います。

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