「カレーライスの誕生」小菅 桂子 著

カレーライスの誕生 (講談社学術文庫)
小菅 桂子
講談社
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キレンジャーから水樹奈々様まで著名人だけでなくカレーを愛する人は数知れず、日本の食文化に広く浸透しているカレーライスが日本に根付いてきた歴史をコンパクトにまとめた一冊。

カレーライスは本場インドからイギリス経由で明治時代になって日本に入ってきたものだが、現在のような玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを初めとする様々な野菜が入り、福神漬が添えられた形式になったのは日本でのことだ。カレーライスは日本で広がっていく過程で独自の発展を遂げて日本独特の料理となっていった。

日本人で記録に残る限り最初にカレーを目にしたのが、現在放映中の大河ドラマ「八重の桜」にも登場している山川健次郎だという。明治三年(1870)、米国留学へ向けた船上、洋食に慣れずに食事を摂らないでいたが、さすがに船医に食事をするように言われ、カレーライスを食ってみようとしたが、『あの上につけるゴテゴテした物は食う気になれない』(P15)と、結局カレーをかけずに杏子の砂糖漬けを副食にしてご飯を食べたのだという。なんだかとても微笑ましいエピソードでほっこりさせられた。

ところでwikipediaには『1863年(文久3年)、江戸幕府の横浜鎖港談判使節団随行員の三宅秀が、船中でインド人が食事する様子を見て「飯の上へ唐辛子細味に致し、芋のドロドロのような物をかけ、これを手にて掻き回して手づかみで食す。至って汚き人物の物なり」と日誌に記している。』とあるのだが、本書でも文久三年に三宅がカレーを目撃したという説についても言及して『三宅秀の関係書籍にあたったかぎり目撃情報の記載はどこにもなかったので真偽のほどはわからない』(P12)とある。Wikipediaの該当箇所には参照史料の記載は無いので、一応諸説あるようだ、ということで。

明治初期に英国経由でカレー粉が入ってきて、カレーライスに関する各種レシピが紹介されはじめるが、この頃のカレーのレシピは現在とは全く違ったようで、牛肉のほか、蛙の肉を使ったレシピなどもあった。カレーの具に大きな影響を与えたのが北海道の開拓で、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもなど西洋野菜がいずれも幕末から明治初期にかけて輸入され、北海道で大量栽培されるようになる。これらの栽培が軌道に乗り、広く流通し始めるのは1890年代以降のことだ。

現在、ビーフカレーとポークカレーとに大別されているが、日本に入ってきた当初も牛肉がメインであった。豚肉の流通は日清日露戦争以後のことで、両戦争の軍需糧食として牛肉が大量に戦地に送られた結果、牛肉が減少し相場も高騰、そこで豚肉の消費が急激に増大しカレーライスにも入るようになり、やがて牛肉の産地を周辺に抱える大阪はビーフカレー、東京は豚肉の方が多くなってポークカレーが中心に広がっていった。

二〇世紀初頭以降、カレーライスを始め様々な西洋料理のレシピが雑誌等で紹介され、まずは欧化を目指す上流階級を中心に西洋料理を学ぶことが主婦や子女の嗜みとされたことで、上流階級の間に広がり、また、同時期に陸海軍でもカレーライスが採用されて軍役経験のある男子が退役後に地元でカレーライスを広め始めた。

上流階級や軍関係者などを通じてのカレーライスの浸透とともに、料理人たちも西洋料理を日本人向けにアレンジした創意工夫を始める。東京では中村屋や資生堂パーラーなど西洋料理専門店を通じて高級化志向に、大坂では阪急百貨店などを通じて大衆化し、以後、カレー粉の国内生産成功、カレー南蛮やカレーパンなど独特の調理法も大正から昭和初期にかけて次々考案され、戦後、固形カレーの開発、インスタントカレーの発明と大量生産化、学校給食にも採用され一気に日本中に広がっていった。

二〇世紀初頭、カレーライスを発展させた様々な料理人、経営者たちの創意工夫の過程が詳しく描かれていて、食のイノベーションの面白さが味わえる。カレーとうどん・そばを合わせようって、今は一般的に流通しているからなんとも思わないけど、実際別々のものとして存在していたら、そうそう簡単に思いつくものではないですよね。また一九世紀末以降、カレーが広まっていく過程で、福島ではほっきカレー、熊本では馬肉カレー、北海道では帆立カレーなどご当地カレーが次々と登場したというのも、料理人によるものか自然発生的なものなのか定かではないようだが、非常に興味深い。

様々な人の手によって外国料理が日本独特の料理として形を変えつつ、日本の食文化の代表格となるほどに広まり愛されていく過程が垣間見えてとても面白いので、おすすめ。

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