秘密保護制度は情報公開制度として設計されねばならない

『敵国がいつまでも協調的でないという確実さは、不確実な未来において唯一動かない事実のように思われてくる。国家は明らかに個人よりも、頑迷かつ非良心的な敵に対面して判断の健全性を保つことが難しいのである。憎しみは精神の内に残った平静さのすべてを攪乱し、復讐心は精神的健康の溜め池を泥沼化するのである。今日の状況を省みるならば、わが国の政治家のうちのもっとも健全な判断力をもつ人であっても、もっとも低級な政治家たちが開発悪用してきた方法であるのだが、国民の恐れや憎しみの気分に、自らの政策を合わせることが好都合と思い出した。こうしてこの国の外交政策は、一種の動脈硬化による硬直化に襲われている。敵がそれほどきびしく憎悪されてよいかということは不断に証拠をもって検証されねばならない。』(ラインホールド・ニーバー「アメリカ史のアイロニー」P220)

最近ラインホールド・ニーバー著「アメリカ史のアイロニー」読了した。近いうちに感想書くとして、なんとなくホットな箇所を引用しておく。ニーバーはドイツ系移民のアメリカの神学者で1952年、冷戦真っ只中のアメリカの政治を同書で内省的に論じた。要するにソ連を敵視するあまり、米国の振る舞いがソ連と瓜二つになっていく危険性がある、ということを同書では言っていて、国民の恐れや憎しみの気分に、政治家たちが自らの政策を合わせることによる外交政策の硬直化について警鐘をならしている。そして、その後の歴史を考えれば実に正鵠を射ていた。

もっとも低級な政治家たちが開発悪用してきた国民の恐れや憎しみの気分にあわせる外交政策はあきらかに外交関係の硬直化をもたらすので、『不断に証拠をもって検証されねばならない』ということだ。外交関係が硬直化しているのかどうかを「証拠」をもって「検証」するためには何が必要でどのような仕組みであるべきかという話で、米国(2000年代以降色々ダメな方向に振れているとはいえ)をはじめとして諸外国も当然このような過去の歴史の反省の上に立って制度設計をしている。

例えば、英国の「国家秘密法(Official Secrets Act)」は1911年に成立の古いものだが89年に「諜報機関の現・元メンバー、またはメンバーと同様な扱いを受けた者は、それらの機関および仕事の過程で得たセキュリティに関するいかなる情報、文書、記事でも法的な許可がない限り、漏洩してはならない」(門奈直樹著「現代の戦争報道」P147)との文言が挿入され、安全保障上悪影響と判断されるものは罰せられることになる。ただし、その悪影響の範囲は曖昧なので、情報を隠したい国防省と情報を知りたいメディアとの調整機関として閣僚、軍関係者、メディア関係者などからなる「防衛・メディア助言委員会(Defence,Press and Broadcasting Advisory Commitee)」という機関が設けられ、同時に詳細なガイドラインが適宜改定されて出されることになる。湾岸戦争時に策定された「国防省情報ガイドライン」ではその序言で以下の五つの方針が掲げられた。

一 英国にとって脅威となる軍事的危機、緊張状態、戦争において、国防省はメディアに正確な情報を客観的かつすばやく提供できる設備を設け、あらゆる便宜を図る。
二 緊急事態や紛争時において、紛争の背景や作戦上の対応が英国民に理解されるように、事件の正確な情報を伝えてもらうために、あらゆるレベルや現場で編集者やジャーナリストたちが平時と同様に、ありのままの情報が得られるように配慮する。
三 国内においては軍隊の動員や配置状況が説明され、その後、作戦や政局に関するその時々の最新情報を提供していくために、大臣や軍指揮官らが状況報告を行ったり、各部隊や他の施設を訪問できるよう図られる。
四 作戦が展開されている状況下にあっては、メディアへの情報提供は英国軍や同盟軍の幹部たちを通して行われる。その際、英国メディアを代表する最前線の新聞やテレビ、ラジオの記者たちにはバランスのとれた配慮が施される。
五 国防省や軍は作戦上、支障をきたさない範囲内で、また、安全上の制約が許す範囲内で、多くの便宜や情報提供ができるよう努力していく。安全のために検閲が必要とされる場合、国防省は英国ならびに同盟国の作戦および人命を守るという目的で公平なシステム作りをするように記者たちに協力を要請する。(P148)

以上の五項目を序言として、具体例を全90項目に渡って挙げている。また、従軍記者が知り得た作戦上の極秘情報についても報道制限として以下の四項目が挙げられている。

一 編集者や従軍記者には、作戦情報が「配信禁止情報」として与えられることがある。この情報は敵側に価値があるもので、公表できない情報であることを前もって伝え、メディア側に資料を準備する時間を与えることだと理解されたい。
二 国防省は報道禁止を作戦上の理由以外には使わないことを約束する。報道禁止となった場合は可能な限り、いつ、どこでも短時間のうちに禁止措置の説明を行う。
三 現地のジャーナリストは、報道禁止が解除されるまでは彼らのエディターとも情報交換をしてはならないことを理解しなくてはならない。
四 報道禁止措置の間は各人には良識ある行動をお願いする。違反した場合は厳重に処罰され、従軍の認可を取り消されたり、あらゆる便宜供与から排除される。(P152-153)

以上、門奈直樹著「現代の戦争報道」P146-153よりまとめ、及び引用(括弧内は該当ページの数字)。

安全保障上・軍事上の秘密の保護の仕組みが、その本質は確かに情報の秘匿であっても、外形的には情報公開制度として設計されるのが自由民主主義体制下の国家のあり方だと思う。「情報公開を行うことによって必要最低限の重要な情報を秘匿する」という制度設計と運用を秘密保護法に求めるのは、諸外国の例を見ればわかるように別に高望みではないだろう。

それは現代の戦争が「価値を巡る戦争」だからだ。自由・平等・民主といった自由主義体制の防衛にこそ国際社会は「価値」を認めるのであり、その価値を前提として国家による「秘密」の秘匿は正当性を与えられ、あるいはその価値を訴えることによって国際世論の支持を受けようと情報戦争が繰り広げられることになる。ゆえに情報公開制度として秘密保護制度は設計される。

だから、あれもこれも隠したい、という仕組みでは、政治家の地位は守られるのかもしれないが、むしろ安全保障を大きく損なうと思う。

参考書籍

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