「世代」の概念はいつ作られたのか?

ジャック・ル・ゴフ「中世とは何か」に「世代」という観念が1968年のパリ五月革命に意味を持たせるために革命に関った人々によって作られたという記述があったので、一応参考として引用しておく。

文脈として、古代・中世・近代など歴史上の時代区分が現在に近くなればなるほど短く・細かくなるという指摘に対してル・ゴフは逆説的だといい、「世代」という概念についてこう言っている。ちなみに、ジャック・ル・ゴフ(1924~)はフランス・アナール学派のリーダーで西洋中世史の権威中の権威のような人。

『今は「世代」という疑わしい概念が好まれる傾向にありますね。戦争世代――と言えば暗黙のうちに第二次世界大戦です――、「ベビーブーム世代」、一九六八年世代……。世代はだいたい二十年から二十五年の幅の時代を表しています。こうしていわゆる「加速する歴史」に対応しているというわけです。
 一見するとこの手段にはメリットがあるように思えます。目印が与えられますから。しかし、根本的なところで問題が残ります。「世代」はいつ始まるのでしょうか。

(中略)

 世代の概念を用いる人は、この不確かな側面を自覚しているので、世代を歴史的に重要な出来事と関連づけようとするのですが、これは当然のことながら各国ごとの体験のちがいに左右されます。「ミッテラン世代」(一九八一年)という言いかたはヨーロッパのほかの国では意味をもちません。せいぜい第一次大戦の、第二次大戦の、一九六八年の世代があると言えるくらいです。というのも、これら三つの出来事は西洋全体に関ったからです。それでもアメリカ人なら有効な年号として彼らがはじめて旧大陸に介入した一九一七年を挙げるかもしれませんし、転機を一九二九年の大恐慌に結びつけて考えるかもしれません。ドイツ人はヒトラーが権力についた恐ろしい年、一九三三年を記憶しているかもしれませんね……。
 実をいうと、この世代という観念は一九六八年の出来事に意味をもたせるために作りだされたものなのです。この観念を作ったのは、一九六八年の事件に関った人々です。人口統計学的に言うと、「六八年世代」というのは年齢構成の転換期にあたっていて、そこから生じる問題は合衆国から東欧にいたるまで、西洋世界の全体に見られます。「六八年世代」という言いかたをする場合、さらにこれは「四八年世代」という表現を受けていて、後者は一八四八年の重要な社会運動の際にこれも全ヨーロッパ的に作り上げられた言葉です。四八年世代同様、六八年世代というのは元反逆者で、ときには不幸な運命をたどりもした何人かの頑固者たちをのぞいては、今はブルジョワ化(あるいは再ブルジョワ化)し、エリート指導者層に同化しています。これである時代を画するには十分と言えるでしょうか。いずれにせよ、一九六八年という時代をよく定義してはいるでしょう。それでもあえていうなら、「世代」の概念はこの場合にしか有効ではない、たぶんこの場合だけだろうと思います。』(P113-115)

1968年の五月革命は、中央集権的なド・ゴール体制に対して労働者・学生がゼネストを敢行、反政府運動へと発展し、ド・ゴールは軍を動かして鎮圧するとともに、議会を解散して総選挙を実施、与党が大勝するものの、教育制度などを初めとした民主化が進み、翌69年には国民投票を巡って辞任を余儀なくされ、ド・ゴール時代の終焉へと至る契機となった社会運動。1848年の二月革命は七月王政を敷いていたルイ・フィリップを追放、さらに全ヨーロッパに革命が波及してウィーン体制を崩壊させる契機となった事件。ウィーン体制の崩壊は欧州諸国の社会・政治・経済構造を大きく変化させることとなった。ちなみにオーストリアにおける1848年革命の影響については「シェーネラーとルエーガー~ヒトラーが範とした二人の反ユダヤ主義者」で簡単にまとめている。

フランスにおける曖昧な時代区分としての「世代」という観念がこの一九六八年革命に関った人々が、自身の関った事件に意味を持たせるために「世代」で区切ったことによって登場したということを指摘している。「世代」で区切るのは、いつから始まりどのような体験を経ているのか、個々人の生き方や国の違いなど不確かな面が大きいので「歴史的に重要な出来事」と関連づけることで「世代」を確定させようとする。しかし、それが有効と言えるのはごく限られた場合だけで、ル・ゴフは「世代」の観念が有効なのはフランスの「六八年世代」のみだと断言している。もちろん、この部分からだけでは、例えば「四八年世代」と「六八年世代」の違い、その登場の具体的な過程など、細かいことはわからないが非常に興味深い指摘だと思う。

日本でも「世代」は学問上よりも、ほぼマーケティング用語と化して広く用いられているが、日本における「世代」概念そのものはいつ、いかなる形で使われ始めたのだろうか。ル・ゴフが指摘しているように非常に「不確かな側面」が強い言葉であり、ほとんどの場合曖昧な使われ方をしている。やはり、このル・ゴフが指摘しているようなフランスの「六八年世代」の輸入からなのか、それとも、なんらか別の形で考案されたものなのか、色々気になったので追々可能な範囲で調べてみたいと思う。「世代」概念の利用史について誰か論文でまとめていたりしないのかな。

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