クリミア・ウクライナ情勢を理解するキーワード「サウス・ストリーム」とは何か

クリミア・ウクライナ情勢に関するニュースを見ていると、事態が進むにつれて海外のニュースを中心に、エネルギー問題としての切り口で報じられる記事が多くなってきているようだ。ウクライナへ、ひいてはロシアからの輸入に少なからず依存するEU諸国へのエネルギー供給を巡る関係各国の駆け引きの話題とともに、キーワードとして浮上してきているのが「サウス・ストリーム」である。

「サウス・ストリーム」は2006年のロシアとウクライナのガス供給を巡る紛争を踏まえて2007年にロシアのガスプロム社が発表したウクライナを迂回するルートでのロシアから欧州へと天然ガスを輸送する新たなパイプライン敷設構想だ。そのルートはロシアから黒海を横断してブルガリアから東欧、オーストリア、イタリアへと繋がるもので、2015年供給開始を目標として、何かと紛争が多いウクライナを迂回することでロシア側が最大の顧客である欧州諸国へ安定的に輸出をはかろうとするものだとされる。

South_Stream_map
wikipediaより、「サウス・ストリーム・パイプライン」構想

地図を見てもらえばわかる通り、露骨なウクライナ外しのルートなため、かねてからロシア・ウクライナ間で同計画がウクライナの排他的経済水域内を通るか否か、またこの計画着手と引き替えにどのような条件をロシアは提示するかといった交渉が行われており、結局ウクライナの排他的経済水域を迂回してのルートで計画が進められていた。ただ、ロシア依存を嫌う欧州側からは代替ルートとしてロシアを経由しない(アゼルバイジャン・グルジア・トルコ・ブルガリア・ルーマニア・ハンガリー・オーストリア経由)、ナブッコ・パイプライン構想(2014年末供給開始目標)が強く支持されていて、関係各国で熾烈な駆け引きが展開されていた。

ロイター通信(2014年3月5日)「焦点:欧州の天然ガス市場、ロシア産が牛耳る構図は変わらず | Reuters
ロシアが欧州市場での優位を固められるかどうかは、ガスプロムが進める「サウス・ストリーム」パイプライン計画に掛かっている。

このプロジェクトはロシアから黒海を経由してブルガリア、そしてその先の中欧・南欧諸国に至る総延長2500キロメートルのパイプラインを建設し、年間630億立方メートルのガスを輸送する。調達元多様化の問題の解決にはつながらないが、ウクライナを経由せずに済む。

欧州連合(EU)の規制当局から承認を得られるかどうかがネックになりそうだが、ガスプロムは承認獲得に自信を見せている。

ゆえに、クリミアをロシアが自国に編入するか否かがロシアにとっては非常に大きな経済問題であることがわかる。クリミアをロシアに編入すれば、黒海のウクライナ領海は大半がロシアの排他的経済水域にひっくり返るため、いちいち同構想でウクライナの排他的経済水域を迂回する必要が無くなる。しかし、黒か白かという選択で判断できるほど単純ではない。対ロ経済制裁の問題だ。

時事通信(2014年3月8日)経済制裁に懸念の声=対ロ、難しい選択-EU
EUは6日の緊急首脳会議で、ロシアがウクライナの占領地域を拡大したり事態を悪化させたりすれば、「さまざまな経済分野でEUとロシアの関係に深刻で幅広い影響を招く」との声明を採択。武器禁輸にとどまらず、貿易や金融、エネルギー分野の制裁に踏み込む可能性を示した。

ウォール・ストリート・ジャーナル(2014年3月7日)天然ガス、クリミアめぐる米国の武器に – WSJ.com
 WSJのジョン・ブッシーは、米国産ガスを欧州に輸出すると脅すだけでも、ロシア国営の天然ガス大手ガスプロムに顧客対応を改善させる、さらにはクリミアからの撤退を命じさせるだけの圧力をプーチン氏に掛けられる可能性がある、としている。

ロシアNOW(2014年3月5日)「新たな「ガス戦争」は始まるのか | ロシアNOW
「アメリカの経済制裁によって、ロシアの国営会社が銀行から融資を受けにくくなり、ガスプロムは『サウス・ストリーム』の建設資金を調達できなくなる」

クリミアを編入できれば名実ともに領海と化した黒海に天然ガス輸出の大動脈を敷設することができるが、事態を強引に進めようとすれば、計画そのものが頓挫しかねない。そのぎりぎりのラインでプーチンは賭けに出ている。プーチン自身はクリミア併合に否定的という話もある。(参考)事態がどう転ぶのか、各国首脳がどのような判断をするのか全く未知数ながら、クリミア・ウクライナ問題の判断基準として非常に大きな比重を占めているのが「サウス・ストリーム」構想を初めとするロシア・ウクライナ・欧州を巡るエネルギー問題であるというスタンスで海外メディアは報じつつあるようだ。

参考サイト
サウス・ストリーム – Wikipedia
ナブッコ・パイプライン – Wikipedia
・廣瀬陽子『コーカサスをめぐるエネルギーポリティクス

参考書籍

ガスプロム―ロシア資源外交の背景 (ユーラシア・ブックレット)
酒井 明司
東洋書店
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