「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」デイヴィッド・ミーアマン・スコット/ブライアン・ハリガン 著

「デッドヘッド」と呼ばれた熱狂的なファンを持ち、1965年から95年までツアー・ライブを中心に活動したロックバンド「グレイトフル・デッド」が支持を広げていく過程を現代的なマーケティングの視点で整理した本。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
デイヴィッド・ミーアマン・スコット ブライアン・ハリガン
日経BP社
売り上げランキング: 27,172

語られている内容としては、ビジネスモデルの革新の重要性とか、顧客満足とか、コミュニティを作ろうとか、コンテンツの無料提供(フリーミアム)とか、中間業者の排除とかその他もろもろの最近のウェブマーケティングでいやというほど語られているようなことの繰り返しで、まぁグレイトフル・デッドが先駆者であったのは間違いないだろうが、とくに目新しさを感じるものではない。近年のマーケティングの基本をグレイトフル・デッドという例を通して押さえておきたい人向けという感じだろう。

むしろ興味深いのは、近年のアメリカ社会におけるグレイトフル・デッドの活動に対する評価の高さの方だ。本書のINTRODUCTIONでも、2000年代以降グレイトフル・デッドに関する様々なカンファレンスやアーカイブ展示などが各地で開かれたということが書かれているし、ビル・クリントン、アル・ゴア、スティーブ・ジョブズなど著名人がグレイトフル・デッドへの支持や共感を次々表明したりといったこともあるようだ。本書もそのようなグレイトフル・デッドブームに乗って開かれた「グレイトフル・デッドで学ぶマーケティング」というウェブセミナーから誕生したという。

この本では全く触れられていないが、「グレイトフル・デッド」にマーケティング手法を学んで大成功した運動に「ティーパーティ運動」がある。久保 文明編「ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容」(中山俊宏氏論文「ティーパーティ運動とインスティテューションの崩壊」)で詳しく紹介されている。これについては以前本ブログでも紹介した。(「グレイトフル・デッドにティーパーティ運動を学ぶ」)

すなわち、ティーパーティ運動の中核団体であるリバタリアン系組織「フリーダムワークス(元共和党院内総務ディック・アーミーが率いる)」はティーパーティ運動のモデルをグレイトフル・デッドのデッドヘッドに求め、それを前面に押し出しているのだという。60~70年代ヒッピー文化を代表するバンドの活動が00~10年代草の根保守運動のモデルとなっているというのも面白いのだが、ティーパーティ運動にしろちょっと前の宗教保守運動にしろ60年代リベラル派市民運動の手法を使った保守派の市民運動という特徴を強く持っているから、確かに不思議なことではないのだろう。特にティーパーティ運動はインターネットを活用しての運動拡大でも知られる。

「グレイトフル・デッド」の取った具体的なマーケティング戦略を学ぶことよりも、「グレイトフル・デッドに学ぶ」ことそのものをある種のアイコンとして活用し、受け入れさせることこそがマーケティング戦略として確立しているように見えるメタ構造ってありそうだ。ただ、もはや「グレイトフル・デッド」の音楽性とか何の関係なくて、それはそれでどうなのかと思ったりしないでもないが。冒頭でも述べたように、本書で書かれていることは別に目新しいものではない。むしろ、目新しいことではないマーケティング手法を例示したり、活用するときに「グレイトフル・デッド」というアイコンを使ったことの方に注目することで発見があるんじゃないか。まぁ、日本では「グレイトフル・デッド」は知名度もかなり低いし人びとの心を掴むアイコンではないから、日本版「グレイトフル・デッド」を見つけることが、「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」ということなんじゃないだろうか。って「グレイトフル・デッド」がゲシュタルト崩壊する感じのまとめ方でおわり。

ティーパーティ運動の研究―アメリカ保守主義の変容
久保 文明 東京財団・現代アメリカ研究会
エヌティティ出版
売り上げランキング: 236,528
スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク