「科学者の不正行為―捏造・偽造・盗用」山崎 茂明 著

科学者の不正行為を巡る諸外国の事例と対応、日本の現状と展望について丁寧な調査に基づいてまとめられた一冊。出版は2002年。

科学者の不正行為―捏造・偽造・盗用
山崎 茂明
丸善
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米国には政府が助成した科学研究上の不正行為を調査し、また科学者に対して教育・啓蒙活動を行う政府機関「研究公正局(ORI:Office of Research Integrity)」がある。研究公正局は健康福祉省に属する公衆衛生庁の一部局で、公正教育部門・調査監督部門・研究公正/総合法律顧問部の三つの部門からなり、主に科学者に対して不正行為を行わないように促す教育・啓蒙活動が中心だが、同時に研究機関に対して不正行為の有無を照会し調査を行う権限を持つ。

1993年から97年で同局は約1000件の告発を受け、218件の調査が完了し、本調査となった150件のうち、偽造79%(119件)、捏造45%(68件)盗用12%(18件)であったという。(捏造18件、偽造64件、盗用8件、捏造/偽造47件、偽造/盗用6件、捏造/偽造/盗用2件、捏造/盗用/その他1件、盗用/その他3件、その他1件)。不正行為者は助教授45人、ポスドク32人、教授31人、技術員21人で、助教授やポスドクは競争に晒され、業績を求められることから不正行為に手を染めやすく、また同様の理由から競争相手からの告発の対象となりやすい。告発者の31%は助教授であったという。これらの不正行為の調査結果は全てインターネット上で公開され、解雇・懲戒などを始め一定期間の助成金対象からの除外や監視下での研究実施など、様々な法的処置が行われる。

研究公正局という政府による不正行為の調査機関が創設されたのは1980年代で、その理由は当時次々明らかになった科学者の不正行為に関して、『「科学界の自浄作用には期待できない」ことが、多くの国民の前で鮮明になったから』(P146)だという。

『不正行為は、精神に問題がある人物がいるから起こるのではなく、むしろ科学研究システムに内在する助成金獲得競争、先取権争い、ポスト獲得競争などが、研究者を取り囲んでいるから起こる、ということもはっきりしてきた。』(P1-2)

『不正行為は、学会、大学、学術団体など科学界でより広く検討されるだけでなく、それらに加えて、助成期間、政府、科学ジャーナリズム、さらに新聞やテレビなどで人々の視線にさらされることが必要であり、それらが健全さを確立する方法になる。つまり、不正行為を個人レベルの疾病としてとらえ、その対策を考えるのではなく、「研究組織や研究システムに病気の原因が存在し、社会を脅かすものである」という認識を、すべての人々が共有しなければならないのである。』(P146)

日本の科学界での不正行為対策は諸外国に対して大きく遅れておりその対応についても『「事実の解明を優先する」という、本来の科学主義から遥か離れた場所に日本の科学界は位置している』(P65)という。本書の後半では日本の科学界の不正行為対応に対する様々な問題点と著者の具体的な対応策がまとめられていて、非常に興味深い内容だった。

本書では研究公正局の調査で不正行為が明らかにされて処罰を受けた日本人研究者たちの例も掲載され、『もし事件が日本国内で起こったものであれば、公開されることもなかったし、いやそれ以前に、明らかにはならなかったであろう』(P137)と書かれているが、最近のSTAP細胞の報道を見るならば、ある種の進歩といえるのかもしれない。とはいえ、全く外部の指摘によって明らかになったという点で、上記で引用した箇所そのままの状態であるともいえるのだが。

アメリカの研究公正局を始め、諸外国はいずれも『「科学界の自浄作用には期待できない」ことが、多くの国民の前で鮮明になった』というところから、科学者の不正行為対策を始めていることがこの本では描かれており、これからの日本の科学界の対応もまた、それに習う必要があるということなのだろう。一部の報道やブログ記事などでは当事者となった小保方氏個人の性格や特殊性に原因を帰するような論を見かけたりもしたが、まさに本書の指摘通り『不正行為を個人レベルの疾病としてとらえ、その対策を考えるのではなく、「研究組織や研究システムに病気の原因が存在し、社会を脅かすものである」という認識を、すべての人々が共有しなければならないのである。』ということだと思う。

先日書いた『「エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇」セス・C・カリッチマン 著』でも書いた通り、今進んでいるのは「面白いショー」などでは決してなく、科学に対する信頼の毀損のプロセスなのだ。事実調査の徹底的な積み重ねと公開によって、不正行為に対する適正な対応をとれるような研究体制・構造と科学者一人一人の倫理観の確立など一連の改革まで一気に突き進めて、信頼回復を図ってほしい。ということで、今こそ読んでおきたい本。

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